第1話 夏休み
突然私の意識の中に出て来て、それを書き留めた物語ですので私にも
ストーリーがどのように展開して行くのかわかりません。
どちらかというと童話にちかい作品だと思います。
しかし途中で残酷な表現などが出て来てしまう恐れが
あるかもしれませんのでご注意ください。
(他の作品制作中のため
こちらもしばらくお待ち下さい。
申し訳ありません。)
白道寺 (霊界ゲリラ隊) ジッテル
私は南に向いている二階の窓を開けると、
無意識に胸いっぱい深く息を吸いこんだ。
すがすがしい緑の田畑と
青い山脈が全体に広がって、
開けた景色のなかに輝いている。
明るいひかりに満ちあふれ、
爽やかなそよ風が
心地よく頬を撫でて行く。
心が開放された楽しい夏休みだ。
小学校五年生の私は昼食を済ませると、
半ズボンに半袖シャツと麦わら帽子で
おもてへ飛び出した。
ジリジリ肌が焼ける
太陽のひかりに地面から、
もわっと熱い湿気が立ち登ってくる。
真ん中に雑草の生えている細い道は
リヤカーの通ったあとが轍になって、
桑畑の日陰のところに昨夜の雨が乾かずに
溜まっていた。
私はぬかっている水溜まりに注意しながら、
その先のスイカ畑を抜けて、
用水路の小さい橋を渡ると、
草が根を張っている
田んぼのあぜみちに出た。
そこを抜けてしばらく歩いて行くと、
幅三メートルくらいの小川に突き当たった。
そこから その小川に沿った
細い道を右に曲がって立ち止まると、
いつも遊んでいる小川に挨拶するように覗き込んだ。
この時期の量が多く流れの速い水は
生き生きと穏やかな水音をたてている。
相変わらずたくさんの田螺が
いたるところにいて、
澄んで透明な川底に根をはった水草が
水の流れにゆらゆら揺れて、
ゲンゴロウがそれにしがみついているのが見える。
ミズスマシが音もなく水面を滑って、
黒い小さな魚が驚いたように
草の影に姿を消した。
さまざまな命にあふれている川の中は
ワクワクする魅力に満ちていた。
川岸の草むらには地味な茶色のアブが気配を消すように、
どこを見ているのかわからないとぼけた眼で、
草の葉の陰からこちらをうかがっている。
気が付かなければ、後ろに回って
襲って来るつもりなのだろう。
それを油断なく横目で威圧しながら、
また急ぎ足で歩きだした。
だんだん山の森が近付いて来て、
いよいよ鬱蒼と木が生い茂った
小高い山の道にさしかかった。
木の枝が覆いかぶさって
直射日光が遮られ、
暑さが和らいで涼しさを感じる。
クロアゲハが大きくひろげられた見事な蜘蛛の巣をよけながら、
静かに羽ばたいて道を横切って行った。
真ん中でじっとしている蜘蛛の眼が心なしか、
悔しそうにその動きを追っているように感じられた。
山道をそのまま進んで行くと、
まもなく、大きな木のところにたどり着いた。
見ると運動靴に青い半ズボン、白いシャツ、
坊主頭の少年が太い木の根元から上のほうを
ジッと見てなにかを探しているようだった。
「しゅうちゃん、なにしてるの。」
私は声をかけた。
しゅう君はこちらを見て、また木の上に目をやった。
「 見たんだ。」
「なにを。」
「 羽根生えてる人。」
「まさか、そんなのいるわけないよ。」
「本当だよ。 スーッて上へ上がって行ったんだ。」
「えーっ、そんなことってあるのかな。」
ビッシリと葉の生い茂って
交錯した枝の間を探しながら、
ぐるりと木の周りを回って見たが、
蝉とカブト虫とコガネムシが
太い幹の樹液にへばり付き、
蟻が走り回っているだけで、
あとはただ木の葉がそよ風に揺れているだけだった。
「だれもいないよ」
私が言った。
「だけど、たしかに見たんだけどな!」
しゅうちゃんは心残りのように溜め息をついた。
「しゅうちゃん、不動堂の探検に行くんじゃなかったんだっけ。」
気を取り直して、私は声をかけた。
「うん」
しゅうちゃんはまだ先ほどの
羽根のはえた人が気になっているらしく、
ちらっと
大木の上のほうを向いてから踵を返した。
「こっちから行ったほうが早いよ。」
しゅう君が笹をかきわけながら
斜面を登り始めた。
私も笹や草を掻き分け、
生えている木々のあいだを
縫うように登り始めた。
まるで忍者だ。
私は途端に黒ずくめの服を着て、
忍法を使って飛ぶように
スイスイ斜面を走って行く空想にどっぷり埋没して、
ときどきどこからともなく飛んでくる手裏剣や
私を狙って斬り込んでくる刀を
次々はね返して、相手をすばやく斬り倒していた。
しばらくのあいだ
敵の攻撃をかわしながら、
煙幕爆弾を投げつけ
姿をくらまして天才忍者が進んで行くと、
ようやく頂上の平坦な場所に出た。
そこは先程の場所から
山道を遠回りするように歩いて行くと、
ここに来るのだ。
見ると、
所々破けたように木が抜けている
荒れた生け垣になっている。
「あっ、お寺の裏だ。
ここに出て来るのか。」
しゅうちゃんはよく知ってるな、
と思いながら
生け垣に近付いて行くと、
しゅう君は迷わず
そこの隙間から中へ姿を消した。
中に入ると竹薮が、入って来る者を拒むように
大量の竹を生やしている。
竹に行く手をさえぎられながら
体をくねらせて抜けて行くと、
草がボウボウに生い茂っていて、
古く風化した墓石が林立しているところへ出て、
やっと煩わしさから開放された。
夏の日差しに草の匂いが蒸れて、
虫達がブンブン飛びかい
あぶら蝉の声がうるさいほど降っていて、
薮蚊が容赦なく
血を吸いに襲って来る。
そこから表のほうへ回っていった。
だれも手入れをしていないようで、
荒れ放題になっている。
そしてそこには草に埋まるように本堂が建っていた。
私はあたりを見回してから、
回廊に上がって行く階段を登って
中を覗いた。
しかし薄暗い中に不動明王らしい仏像が
安置してあるようだが、
どのようなものだかはっきりとはわからなかった。
開けてみればはっきり見えるにちがいない。
正面の開き戸の前に立って開けてみようと
力を入れたが鍵が掛かっていて
びくともしなかった。
「いっちゃん、そっちからは入れないよ」
しゅう君が後ろから声をかけた。