第3話 嘘
ここ数日の間、夢を見ていない。
見ていないと言っても、例の不思議な夢だけで無く、夢というモノを見ていない。
かといって眠れていないわけでは無い。
最初に不思議な夢を見て以来こうなのだ。
それ以外の夢を見ない。
よくよく考えればこの現象も不思議なモノだ。不思議な夢しか見ることが出来ていない。
ここで細かい説明をしておくと同じ内容の夢を数回見たこともある。
なので見た夢とメモの数、順番が一致していない時がある。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。
自分にとっては些事である。
気になっている事は、アカリという少女の事だけ。
いろんな事を考えながら、テレビを眺めている。
見ていない、眺めているだけ。
内容なんて入ってこない。
ニュースキャスターが何かを喋っているだけ。
なんとなく、気持ち悪い。
耐えられなくなって窓の外に目を向けた。
雨が窓にぶつかって流れていく。
まるで僕のようだ。と、内心で馬鹿にする。
意味もなく壁にぶつかって、為す術も無く、力尽きて流れ落ちる。
何もできない自分だ。
そうだ、僕は無力だ。
無力、何も出来ない社会の屑、居なくても同じ存在。
『あ…ダメだ。』
そう思った時には既に洗面台の前にいて、吐いていた。
『少し出かけようか。リハビリだ。』
独り言が多くなった気がするがそれもどうだっていいこと。
少し曲がった安物のビニール傘をさして、外に出る。
雨が静かに降っている。国道を走る車も疎らだ。
出かけてもいく場所があるわけではない。
あても無く歩いてる。
足が止まる。
重い、重い重い重い重い重い!
根が張ったかのように足が動かない!
なんだ!なにが起きた!
表に出さないが、内心でパニックになる。
勤めていた会社の近くというのもあるかもしれない。
でもそれだけじゃないような気がしてくる。
漫画のような深呼吸をする。
落ち着いて来た。
『なんだっていうんだ…いつも通る横断歩道じゃないか…』
少しパニックになったせいだろう、息が切れている。
それでもまた歩き出す事は出来た。
ゆっくりと確実に足を運ぶ。
近所の寂れたスーパー。買い物はいつもここ。日用品から食料品。アレコレと買い込む。
正直あまり外に出たくないのが本心。
だからまとめ買いをする。
『あっ、羽柴さん』
声をかけられた。聞き慣れた声。
『あー、植村君。久しぶりだね。』
会社の後輩。いや後輩だった、になるか。
自分が教育係をした事もあってか、かなり懐かれている。
『元気そうで良かったですよ、辞められてから心配してたんです』
………『そうか、ごめんね』鬱陶しい
『そうだ、この前ですね』
………『うん』鬱陶しい
話はもう終わりにしよう。
このまま続くのなら僕は、僕は。
今の僕に君のような人間は鬱陶しくてたまらない。
それから適当にあしらって会計を済ませ、そそくさと店を出てくる。
大きな溜息が出てくる。
傘をさそうとして気づいた。
雨が上がっている。
空には、腹立たしい程美しい虹が架かっていた。
今回はいつも見ている夢の世界とはちょっと違う視点です。