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微睡む君の夢  作者: 名前はまだない
3/8

第2話 忘れ物(前編)




静かな部屋に自分の少し荒くなった呼吸の音だけが響いている。

うっすらと汗ばんだ体にシャツがまとわりついて来る。


どれだけ眠っていたのだろう。

洗濯機の音はもう聞こえてこない。

枕元に置いたままのスマホを見れば、21時を過ぎていた。

4時間以上は眠ってしまっていたらしい。

『また…ちゃんと話せなかったな…』

独り言を呟いた。まるで自分に言い聞かせるように。

それから少しだけ天井を見つめた後、洗濯物を取り出し部屋の隅に干す。


それから思い出したように夢で見た事をメモに残す。

これは習慣になっていた。忘れないように。忘れたくない事だから。

前に書いたメモを見返すと、つい先程見たかのように鮮明に思い出すことが出来て不思議と微笑んでしまう。

ある文を見た瞬間に微笑みは消え真顔になる。

『そうだ、これが…』

人差し指でその文をなぞる。それは1番最初のメモ。

『全ての始まりだ。』



これは最初の夢の話。

あれはそう、普段とは違う眠り方をした日。


遠くで色々な音がしている。しっかりと耳には入ってこない。

なんだろう、サイレンのような音が聞こえてくる。なんとなく名前を呼ばれているような気もするが、遠くで鳴っているからなのかよくわからない。

でもそんな事よりも眠くてしょうがない。

何故か全身気怠くて、もういいやって思ってしまう。

だから一言だけ『おやすみ』と自分に言った。


目が覚めると、自分の部屋のベッドの上。

時計に目をやるともうすぐで8時になるところだ。

時間がない、急いで着替えて家を出る。

そしていつものように学校に向かうバスに乗る。

いつもの通勤時間だ。

『あれ?いつもの…通勤?』

社会人の自分が学校に行く。オカシイ。

通学にバスを使った事は無い。オカシイ。

頭の中でグルグルと思考が回る。

『もしかしてこれは』

そこまで考えた瞬間バスが止まる。

たぶんそうだこれは夢。

夢の中で夢を見ているとわかる事を明晰夢と言うらしい。今まで見たことが無かったのに突然どうしたのか。

バスを降り、ふと顔を上げると目の前には数年ぶりに見る母校。

何も変わってはいない。

それもそうか自分の記憶が作り出しているモノなのだから当たり前だ。


ただ何故だろう。


制服は少しだけ見たことのある近くの高校のブレザーで、高校に来たはずなのに目の前の高校は昔通っていた中学校のカタチをしている。

『なんかぐちゃぐちゃだなぁ』

そう言って教室に向かう途中で少し気になった事がある。


ここは現実じゃない、そうなると好きな事が出来るのでは無いかと。

たぶん誰しも考えた事があるだろう。

空を飛んでみたい、とか、誰よりも早く走ってみたい、とか、ただそれだけの事。

軽く跳んでみる。飛べない。いつも通りのジャンプ。

軽く走ってみる。速くない。いつも通りのスピード。

『そんなもんか…』

それでも不思議と悲しいとは思わなかった。

教室に入ると見慣れた風景。

クラスの1/3は空席。オカシイ。

友人達と顔を合わせて席に着くと友人達の顔が思い出せない。オカシイ。


それでも変だと感じるのは一瞬で、なんとなく居心地は良く感じてくる。


周りを見渡すと、自分の席から少し離れた席の女の子が目に入り、何故か目が離せなくなる。

一度も見た事のない女の子。

誰だ?

僕の知らない女の子。

自分の記憶から出来ているはずの世界で、自分の知らない女の子がいる。誰だ。君は誰だ。知らない。誰だ誰なんだ。

極度の緊張状態にでもなったのだろうか。だんだん視線がブレてくる。



そこで視線に気づいたのかその子がこちらを軽く見る。

すると僕の思考は止まった。何をグダグダと考えているんだ。どうでもいいじゃないか…と。

彼女は笑顔で小さく右手を上げ軽く振りそのまま前を向いてしまった。

いったい彼女は僕とどんな関係なんだろうか。


それから気づけば時間が過ぎ、昼休みになっていた。

自分でコントロールできない明晰夢なんて珍しいモノだ。

『出来る事は限られてるけど、もしかしたら…』

突然学校の屋上に行ってみたくなった。現実世界では行くことの出来なかった場所。

階段を登り、ドアを開ける。心地よい風が頬を撫でる。

空を見上げると、とても綺麗な青色。

そのまま吸い込まれそうになる。


『あっ、やっぱり今日もここだー!』

声を掛けられて我に帰る。

振り向くとそこには件の女の子が立っていた。


『アカリも来たのか?俺の特等席だぞここは。』


今僕は、何を言った。

彼女の名前を言ったのか。


『そんな事言われてもさ、私もここが好きなんだもん。それに京介くんだけの場所だなんて決まってないでしょ?』

ただの言葉なのに、ここまで元気に明るく喋る子がいるのか。

そんな事を考えたら何故か彼女の名前を知っていたことなんて、深い意味は無いのだろうと思った。


それからなんでもないような会話が続く。

昨日見たテレビの事。新しく出た漫画のどこが面白いとか。

やけにリアリティのある会話。

あぁ、ずっとこんな時間が続けばいいのに。

それでも終わりはやってくる。昼休みが終わるチャイムが鳴る。

本当に融通の利かない夢。


『じゃあ先に戻ってるね』

そう言って彼女は歩き出す。

何故か僕は立ち竦んだまま、その華奢な背中を静かに見つめていた。


少しだけ長くなったので2話目は分割します。

ちょっとだけ過去の話ですが、この後の展開が2パターンあってどちらにするか頭を抱えてます。ものすごく悩ましい。

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