第1話 夢の中のキミ
誰かが僕を呼んでいる。
(あぁ…寝ていたのか…)
うっすらと意識が戻ってくる。
『おい京介、そろそろ休み時間終わるぞ。次は五月蝿い田中の授業だから起きとけって。』
彼の名前は…何だったか。
『ごめん郁弥。ありがとう。』
そう思い出した、工藤郁弥。同じクラスの…同じクラスの、友達だった…と思う。
ふと左側の窓の外に目を向ける。
校庭には初夏の清々しい雲ひとつ無い空の下、吐き気がするくらい綺麗な桜の木が蠢き合うように咲いている。
ここは窓際の1番後ろの席で、1度も座ったことの無い席。
初夏…桜の木…座ったことの無い席…
名前をすぐに思い出せない友人…
様々な矛盾で全てを悟る。
『ここは、夢の中』
目の前の席に座る郁弥が何かを話しているがその言葉はわからない。いや、届いてこない。なぜならここは自分だけの世界のようなモノ。他のモノに意味なんて無い。
普通ならこれは悪夢なのかもしれない。知っているはずの世界なのに、全てが矛盾しているのだから。
それでも僕は、ここがとても心地良い。
『時間だ、授業始まるな』
突然はっきりと郁弥の言うことがわかる。
そして鳴り始める聞き慣れた鐘の音。
さあ授業がはじ
『………あ』
意識が飛んでいた。
おそらく直前までは午前中だった。今は下校時刻。本当に融通の効かない夢だ。
『京介くん』
突然名前を呼ばれる。とても良い声で、顔を見なくても可愛いとか綺麗とか、そんな姿が容易に想像の出来るそんな声。
学生時代にこんなシチュエーションがあるのなら、羨ましいとかリア充だとか羨望のような言葉を投げられるだろう。
でも、この世界の中の僕は違う。
『きた…』小声でそれでいてしっかりと言葉にするがもちろん他者には届かない。
鼓動が早くなる。
恋愛感情とかそういう鼓動なんかじゃない。これは恐怖や緊張に近いどちらかといえば動悸だ。
『久しぶりだね、アカリ』
『毎日会ってるのに久しぶりは無いでしょー?どうしちゃったのさー?』
彼女は笑っている。
名前はアカリらしい。
その他のことはわからない。わからない?違う、知ることが出来ていない。
だっていつも…
『この後暇でしょ?一緒に帰ろうよ。』
思考を遮る彼女の声に反射的に答える。
『うん。大丈夫何も無いから。』
『よかったキミにツタえたいコトがアるしさ』
その瞬間、心臓が破裂しそうな勢いで飛び跳ねる。
突然ノイズが入ったような棒読みのような声。
まただ、またこれだ。今日は今日こそは、なんとか、しないと。なんとかしなければいけない。
『先に校門で待ってるね。』
待ってほしい、僕もすぐに行く。すぐに行くから。
すぐにだ、急げ、急げ急げ急げ。
『おい羽柴ぁー職員室に来てくれるか?』
名前も覚えていない教員の声。
『あ…はい…』
自分だけの世界なのに、自分の好きなようには行かない世界。
少し離れたところでアカリは笑顔を向けてくる。まるで、大丈夫だと言っているかのように感じる。
安心してしまった。
ほんの少しだけの回り道じゃないか、そう思いながら少しだけ目を閉じた。
気がつけばそこは昇降口。
なんだ…簡単じゃないか。このまま校門のところまでまっすぐに歩くだけでいい。
まっすぐ、まっすぐと歩くだけ。
校門の横にアカリがいる。ちゃんといてくれた。
『あ、京介くん。なんか怒られたの?大丈夫?』
『お待たせ。なんでもないよ。そうだ、俺に伝えたいことってなに?』
『うん、実はね。』
そこで、何も聞こえなくなる。
暗い闇の中に落ちる感覚。
ここはどこだ、出してくれ!
もう少しだった、もう少しで!
『出してくれ!』
そう叫んだ瞬間目の前にあるのは見慣れた天井だった。
最後駆け足気味ですが…そのうち編集しそうですのであしからず…