神高争乱編Ⅲ
3・・・2・・・1・・・。
ブー!
俺は戦闘科の中でも接近戦ではかなり強い部類に入る。
俺の能力は『限界突破』。
体の一部を急激に発達させる能力だ。
足に使えば跳躍は100メートルを超え、手に使えば無傷で一戸建てを吹き飛ばせる程だ。
接近戦は先ず足に能力を使い瞬時に敵の懐へ入る。そして腕から拳にかけて能力を使い、敵を屠る。
戦法としてはこのワンパターンのみだが、相手が対応できた試しがない。ブザーと共に敵は吹き飛んでいる。
たとえ相手が防御系の能力であろうと枠外に飛ばしてしまえば関係ない。
そう。まして相手が普通科なら何も危惧することはない。ただ単純に今まで通りそつなくこなせばいいだけだ。
「死ねぇ!」
どうだ、この人間の速さを超えた俺の攻撃は!
お前に受け止め切れるか?銅ぇ。
飛んでいく俺と目が合い、銅は。
なっ・・・。笑ってる・・・だと・・・?
殴りかかる刹那、銅は笑っていた。馬鹿にでもするように。
銅はこの目にもとまらぬ殴打を半身でかわし、手の甲で軽く弾く。
何故見えるのか。本来残像しか残らないこの能力を。
銅はとんっと脇腹に手を当てる。
ぐにゃ。
俺の脇腹はそんな音を立てたように思う。
一瞬にして触れられていた部分がまるで骨まで溶けて消えたかのように。
激痛より先に右下半身に一切の力が入らないことに気が付く。
そして地面へ伏せる際脇腹を抑えた時に感じる。
脇腹に皮膚以外何も残っていないことに。
あるべきはずの筋肉や骨盤の骨、内臓までもが消えていた。
いや、消えていたという表現は相応しくないかもしれない。
何かに置き換えられたと言った方が正しいかも知れない。
銅に触れられた場所を中心に半径何十センチかが水、まさに水のようになり、それまで体内にあったものが水に置き換えられ、それと共に声にならない叫びが喉を伝った。
皮が無かったら540mm弾で打ち抜かれたようになっていたことだろう。
銅は・・・一体何者なんだ。
+ + + +
訓練後、通常授業にて。
普通科教室に戻った銅は、尚も周りから注目を集めていた。
しかし誰も話しかけないのは銅が放つ独特な近寄りがたさが所以だろうか。
「それでは今日はここまでにします。日直号令」
「あ、あの、銅・・・君」
授業終了後、クラス委員の生徒が銅を訪ねる。
「・・・」
銅は無言で彼女の方へ振り返る。
「ひうっ・・・え、えと、さっきの、あれって・・・」
クラス全員が二人の一挙手一投足を見守る。
きっと誰が銅に話しかけるかで相談していたのだろう。そこでクラス委員に白羽の矢が立ったのだろうか。
「あれとは」
「ごごごごめんなさいっ!へ、へと、ささっき戦闘科の方を倒してたので・・・その」
気弱そうな少女だ。少し聞き返しただけでかなり動揺し怯えている。銅としてはそこまで威圧感を出してるつもりは無いのだが。
「ああ。あれは俺が倒した訳ではないよ」
「・・・へ?」
銅の思いもよらぬ返答に少女は困惑する。
「彼は戦闘前から若干腹痛を訴えていた。きっと能力を使った時に何かしら体内にダメージが入ってしまったんじゃないだろうか」
銅は自分が強いなどと思われたくないのか、何故か嘘をつく。
「そ、そうなんでしょうか・・・?」
「だから俺は何一つ能力を使ってないんだ。期待に沿えず申し訳ない」
言うと周りのクラスメイトは「なんだ、そうだったのか」と銅の根も葉もない嘘を信じ、廊下に出たり机を囲んで談笑を始めたりと、銅の発言で注目をされることは無くなった。
ふう・・・と銅は嘆息する。
これでなんとか行動を制限されずに済んだな。
+ + + +
「お、お前らマジでいいって・・・」
「おうおう銅調子こいてんじゃねえぞゴラァ?」
またか、と銅は頭を振る。
事の発端は数十分前。
帰りのホームルームが終わり、帰ろうとしていた矢先。
「銅ってやつ居るか?・・・お前か。ちょっと面貸せや」
呼び出されてしまった。佐藤琢磨の取り巻きらしき4人に。
しかし今回佐藤はこの恐喝には関わってないらしい。むしろ止めてるようにも見える。
呼び出した理由としてはやはり今日の訓練の結果が納得いかなかったからだろう。
銅は佐藤を睨む。
すると佐藤はジェスチャーで「ちげえよ!おれじゃねえって!」と返してくる。
・・・こいつは案外更生すればいいやつになるのではないかと銅は感じるも、今はそれどころじゃない。
ふうっと溜息、そして
「以前生徒会長に忠告された筈だが、いいのか」
と聞く。
「あ?知らねえよそんなのよぉ。てかよ、ぶつぶつ喋ってねえで殴り合おうぜ銅ぇ」
まあこいつは以前絡んできた連中の中にはいなかったから知らないのも当然か、銅は納得する。
「おい西田マジでいいってほんと。俺は別に気にしてねえってかここで怠慢張るのはまじでやべぇって」
佐藤が必死に西田とやらを静止する。
以前注意されたばかりで生徒会長の厄介になるのが怖いのか、蘇生式や回復能力を使える奴が居ない今、銅の攻撃を食らうのが怖いのか、はたまた本当に更生したのか。
三番目は無いとしてどちらかだろうと銅は予想する。
「なんだよ琢磨、お前がビビるなんて珍しいな」
佐藤は戦闘科の中でもかなり優秀なのだろう、周りの取り巻きが少し不思議そうにしている。
この中で一番佐藤が強いとしたら止めるのは妥当だ。強いやつが勝てなかったものを運の介在しない勝負でビギナーズラックを発揮するのは不可能だ。止めているのも彼なりの優しさだろうに。
それに気づかないバカ4人はあほ面をかましている。
「まあいい。とりあえず今の会話は全て録音している。喧嘩するもしないも勝手だが、全員停学程度は覚悟しておけ」
少し卑怯だがこれが一番手っ取り早い方法だろう。
「だから何だよ?てめえとの怠慢となんも関係ねぇだろがあぁ?」
ああアホだ。正真正銘のアホだこいつ、と銅は見損なう。
こういう時の為に生徒会役員は皆連絡先を開示している。すぐに助けに行くことは出来なくとも電話をつなぎ会話を聞いてもらうだけでも証拠になる。
銅は「そうか」とだけ呟き、ポケットからレクスを取り出し連絡しようと行動を起こす。
「お前らもういいって言ってんだろいい加減にしねえとマジでキレんぞおい」
レクスを操作していた銅は、その言葉に手を止める。
「さっきからなんなんだよおめえはよぉ。あ?やめろって言ったらやめろやマジでよ。な?」
一番銅につっかかってきていた奴の肩を押しながら説教をし始める佐藤。
それから銅に振り向き
「すまん、連れが迷惑かけた。俺の監督不行き届きだった。謝る」
と、素直に頭を下げる。
「そうだな。とても迷惑だ。二度としないように言ってもらわないと困る」
「・・・ああ」
銅の正論にもキレずに認める。
最初からこれだけの社交性を身につけて会話出来れば。と銅は思う。
ともあれ一段落がついて、ようやく解放された銅。
既に陽が傾き、生徒の数も疎らだ。
今日も一人、帰路につく。
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