神高入学編Ⅴ
「それで、どうしたのかな?もめてるように見えたけど」
物腰は柔らかだが、圧倒的な威圧感を漂わせる生徒会長。流石『絶海のペルセポネ』と恐れられるだけの事はあるなと銅は感じる。
「もし暴力沙汰の喧嘩であれば風紀委員長として然るべき場所に報告せねばならんが」
生徒会長ともう一人、風紀委員長である苗木稚菜もセットでこの場に現れたのは不幸と言わずして何というか。兎に角、彼らにとって最悪の事態であることに変わりはないだろう。
「まあまあわかなちゃん、ここは私に任せて?」
少々高圧的に話を切り出した稚菜を静止し、生徒会長が一歩前に出る。
「まず皆さんに聞きたいことが二つあります。一つ目は何故このような人気のない場所で、戦闘科3名が普通科1名に対し尋常ではない剣幕で迫っていたのか。そして二つ目。今、私が能力で止めていますが、もし止めていなかった場合、あなたは普通科の方に何をするつもりだったんでしょうか。よく考えて発言をなさってくださいね」
かなり核心に迫った質問をされ、顔から血の色が薄れていく三人。
「そ・・・れは・・・」
目が泳ぎに泳ぎまくっている三人をよそに、苗木は睨み付けるように生徒会長、銅を含め”監視”している。
銅はふうっと息を吐き、三人の前へ出た。
「生徒会長、横槍失礼します。これは一種の度胸試しのつもりだったんですよ」
この行動には流石に生徒会長も多少驚いたようで
「ど、度胸試し?」
銅の言葉にただオウム返しをしただけになってしまっている。
「はい。私と彼は一年生の頃からの知り合いで、時々こうしてふざけ合う仲なのですよ。今は迫真の演技で殴りかかる”フリ”をし、先に音を上げた方の負け、というゲームの最中でした」
と、付け焼刃ではあるが中々の言い訳をすらすらと言葉にする銅。
この発言には流石の生徒会長も呆気を取られた。
「それは・・・本当ですか?」
生徒会長は三人に向かい事実関係を確認する。
「あ・・・あ!そうです、そうですよ、俺は昔からコイツと仲良かったんですよ!」
突然舞い降りた逃げるチャンスにポケット君はすかさず便乗した。
これでこの件はただの遊びだったと言うことで終止符を打つ、かと思いきや
「そうか。彼と君は仲が良かったんだな?そして今もそのノリとやらで遊んでいたと」
口をはさんできたのは言わずもがな、苗木だった。
「そ・・・そうっすよ」
少し戸惑いつつも肯定するポケット君。
「戦闘科と普通科がねぇ。・・・わかった。では君。ええと、名前は」
「銅です」
「銅、彼の名前と現在のクラス、昨年のクラスを”君が私に”教えてくれないか」
やはり彼女、苗木は頭が切れるようだ。確かに仲が良ければそのような情報は当然知っているはずだ。もし答えられなければ今の話は全てフィクションだと裏付ける事となる。
当然それを聞いたポケット君は絶望している。なぜなら銅と出会ったのは今日が初で自己紹介などしていないからだ。先輩から送られてきた情報を一方的に知っているだけだ。
銅にそれを答えるのは不可能だった。
「・・・神御影高校2年E組。出席番号2517。佐藤琢磨。昨年のクラスは1年G組。出席番号1712。血液型はB型。誕生日は12月5日。家族は4歳離れた弟がいる。父親は自衛隊をしており、母は若くして他界。今は弟と実質二人暮らし。・・・と言ったところでよろしいでしょうか。苗木先輩」
「「「!!」」」
ここにいた全員が驚いた。
ポケット君こと佐藤琢磨は不可能だと諦め、先輩二人は絶対に答えられないだろうと確信していた。他戦闘科二人も内心停学程度は覚悟していた。
しかし銅は答えた。何一つ戸惑わずに。
「・・・あっているのか?」
苗木先輩は驚きを隠せぬままにその佐藤琢磨と言われた生徒に確認をする。
「は、はい、これ・・・生徒手帳・・・」
佐藤は当てられた驚きよりも自分が知られていたという恐怖から手が震えていた。
「・・・た、確かに名前は佐藤琢磨、クラスはE・・・ね」
生徒手帳を受け取った生徒会長は中身を確認し、先程の発言に齟齬がなかったことを認める。
「分かっていただけましたか。私と彼は”友達”なんですよ」
その言葉に佐藤は得体の知れない未知数の恐怖を感じた。きっと生涯でこれほど鳥肌が立ったのは初なのではないか。
「・・・分かりました。ひとまずはそういう事にしておきます。しかし、もうこのような誤解を招く行動は控えるようにしてください。私は今忠告しました。次は容赦しませんよ?」
やはりどこか含みがあるように感じる笑顔で、生徒会長は話を終える。
「は。善処します」
「それじゃわかなちゃん、戻ろっか」
さっきまでの威圧感が嘘のように消え、一女子高生としての、普通の女の子らしい爽やかな顔で苗木にはにかむ。
「あ、ああ」
+ + + +
「お、おい銅。この借りはぜってえに返す。実践形式の試合、楽しみに待っとけ」
生徒会長が校舎に戻っていった後。
「・・・」
去り際にそう呟き、佐藤と取り巻き二人が帰っていった。
「・・・はぁ」
銅は深くため息を吐き出し、レクスを開く。
「生徒会長、水無月香織・・・」
普通用もなしに校舎裏を風紀委員長と来る筈がない。
きっとそういう事なんだろうと。銅は嫌に重たい雲の下、予想しうる限り最悪な事態を胸に秘め、帰路につく。
きっと明日は雨になるだろうな、加香音。
神高入学編・終
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