神高入学編Ⅳ
「WAWAWA忘れも~♪・・・と」
歌を軽く口ずさんでると、普段鳴るはずのない携帯端末、『テリオニズ』(通称レクス)が振動し、ポケットから取り出す。
「・・・克樹先輩か・・・あか、がね、締める・・・なるほどな」
内容を簡潔にまとめると
銅白也って奴が調子こいてる。お前らでいっぺん締めて戦闘科の格の違いってのを見せてやれ。
といったところか。
「しっかり情報まで添付してやがる、さっすが先輩わかってるう~」
神高の生徒は生徒手帳に書いてあるナンバーを高校のホームページに打ち込む事である程度開示されている個人情報を閲覧する事ができる。無論、セキュリティは万全を期しており、神高の関係者以外は(親、親戚含め)見ることができない。情報を第三者に流そうとしても神高に登録されていないレクスIDであれば、そこでブロックが掛かり、開けなくなる。
「もしもし、俺。今克樹先輩から連絡あってよお、あとで送信するヤツを校舎裏に連れてきてくんね?・・・まじ、さんきゅ、んじゃ」
仲のいい奴に電話を掛け、増援を煽る。
締めるったって流石に暴力沙汰にしちゃやばいだろうから、軽く脅す程度で良いだろ。普通科の生徒らしいから殴らせろとか言ったら泣いて許しを乞うまであるな。そうだよ、今月ちょっとピンチだし少し金取るくらい大丈夫だろ。口実としてはこうだな。
「殴らせろ。戦闘科をなめた罰だ。嫌なら土下座しろ。よし、許してやる代わりに金目の物置いていけ」
・・・完璧すぎる。流石俺だ。ってこれ、普通に金稼ぎできんじゃん。今日からこれで遊び放題だな、がはは。
そんな事を考えていたのは十分前。
しかし現実はそうも上手くいかなかった。
「・・・了解した。一発殴れ」
そう、彼は発した。
予定していた計画だと銅は恐怖に震え、渋々金を出し、何をされるか分からない畏怖から誰にも相談出来ず、都合のいい金づるに転落する筈だった。
だが、彼は落ち着いていた。こんな状況屁でもないかのように。
「お、おお、いいんだな?本気で殴るぞ?」
明らかにポケット君は焦っている。多少誤差はあったとて問題なく進む筈だったが、流石に実際殴るのは躊躇われた。
「ああ、構わない」
拳に息を吹きかけ、シャドーボクシングの真似事をして威嚇するも銅は顔色一つ変えない。
「い、今ならまだ謝れば許してやらんこともない・・・ぞ」
敢えて簡単な打開策を提案して見せるが。
「問題ない、不服なら二発でも構わない」
むしろその上を行かれ引くに引けない状態に追い込まれる。
「あ・・・お」
逆に追い込まれてしまったものをどう切り抜けるか悩みこむ。
「どうした、殴らないのか」
銅は少し退屈そうに問う。何故こいつはこんなにも余裕なんだろうか。
「うるせえ!今殴るから黙ってろや!」
人間は追い込まれるとキレる習性がある。
その言葉を聞いた銅は深くため息を吐き出し、
「・・・時間の無駄だったか。たかが一発人を殴る事すら出来ない腑抜けを相手にしている時間は無い。俺に喧嘩を売る前にその弱い心をせめて人に見せられるくらい太くしてから出直してこい。以上だ」
そういうと銅は堂々と校門へ歩き始める。
コイツは・・・銅はいまなんつった?
普通科の、今さっき知ったばかりの普通科の落ちこぼれに腑抜け扱いされただと?ふざけんなよ?俺は戦闘科だ、普通科のお前なんかよりよっぽど優れている。
こいつ、痛い目みせてやんねえといけねぇなぁ。
「おい待てよ雑魚」
後ろからポケット君の声が聞こえ、銅は立ち止まる。
「こっちが下手に出たからって調子のんなよカス」
その言葉を聞いた銅は口角を軽く釣り上げた。
「なんだ、まだ何か用か。俺に話しかけるのは根性がついてからにしろ」
振り返り、銅は分かりやすく相手を挑発する。
「てめえなんかよりよっぽど根性あんだよ。逃げてねえでこっちこいやゴミぃ」
ポケット君も負けず劣らず銅を煽っていく。
「逃げる、か。俺は何度も殴れと催促したはずだが」
確実に図星を突かれ、一瞬反応が遅れたポケット君であったがすぐに言い返す。
「うるせえ黙ってろゴミが!」
「痛い所を突かれたら返答を放棄し有耶無耶にするか。全く以って話にならないな」
「てめぇマジで殺す!」
ここでようやくポケット君が本気で殴りかかってくる。
手が青白い光を帯びてることからして『能力』を発動した事は間違いない。
銅はそれに向かい手をかざしカウンターを・・・
「はいっ!そこまで!」
しようと動いた矢先、パンっと高い音が響き、同時、ポケット君の動きが完全に止まった。
「なにやってるのかな?君たちは」
声の方へ振り返るとそこには
「生徒・・・会長」
うんこ座り君2号がその人物を呼ぶ。
「はーい、生徒会長ですよ?」
現生徒会長、水無月香織がいた。
ブクマ、高評価、感想お待ちしてます。