神高入学編Ⅲ
ここの制服は普通科と戦闘科で別れている。
普通科が白、戦闘科が黒、といった具合に正反対の色だ。
A~Dまでの教室が普通科、E~Hまでの教室が戦闘科となっている。
銅はH側の階段、つまり戦闘科側の階段を使い下に降りた。彼らの言い分はこうだ。
戦闘科側の階段及び廊下は俺らのだ。てめえらは来るな。
元々戦闘科と普通科では隔たりがあり、戦闘科の方が優位と言う謎の概念が存在する。
実際戦闘科は倍率が普通科より高く、入りにくい傾向はある。しかし銅のように自ら望んで普通科に入る者も少なくない。
だが彼らにとっては関係ないのだろう。普通科=弱い。戦闘科=強い。と言った頭の弱い考え方をしている。
「なんか言ってみろよおい」
ぼんっと肩をどつかれる。
「・・・そうか」
そこで漸く銅は口を開いた。が、これ以上開くつもりはないようだ。
三人に向かってお辞儀をし、階段を下ろうとする。
「おら待てや!」
去ろうとした銅であったがド派手パンチ野郎に襟をつかまれ引っ張られる。
「先輩には敬語つかうんとちゃうんか。あ?」
眉間にしわを寄せ精一杯威嚇しているド派手パンチ野郎にもう一度お辞儀をし、階段へ踵を返す。
「てめえぶっ殺すぞ!」
何にキレたのか、声を荒げパンチ野郎が手を振りかぶって銅を殴ろうとするモーションを起こした。
背後から殺気を感じ取った銅は反射的にカウンターを仕掛けそうになったが
「なにやってんだ?」
廊下の方から資料を持った先生が歩いてきた。
「せ、先生・・・」
パンチ野郎が目を泳がせ明らかに動揺の色を見せる。
「い、いやなんもっすよ!な?!」
うんこ座り君も慌てて弁明を始める。
「あ、ああ」
周りもそれに同調する。
それから先生は銅を一瞥し、全くの無傷かつ落ち着いた態度を銅がとっていたため胸を撫でおろす。
「そうか。ならお前ら三人これ運ぶの手伝え」
「はい!」
「ああお前、名前は?」
戦闘科を引率しながら資料を運ぶ先生が思い出したかのように銅に質問を投げかける。
「・・・銅です」
言うと先生は何も言わずまた歩き始めた。
戦闘科の一方的な当てつけは先生の登場によって幕を閉じた。
先生の大半が折り紙付きの戦闘力でなければここまで簡単に収拾はつかなかっただろう。
銅はありがたやありがたやと心の中で先生に感謝しながら階段を下りた。
+ + + +
放課後、校門付近。
そのまま家に帰る生徒、友人と立ち話をする生徒、携帯用端末で遊ぶ生徒。
様々見受けられる。銅は一番目に該当する。
当然親しい友人などいない銅は一人だ。
襲うなら都合がいい。
「おい銅」
振り返ると黒制服、戦闘科がいた。
「・・・」
いつもの如く無言で返す銅。
「こっちこいや」
戦闘科の生徒は半身振り返った状態で行く場所を示唆している。
断りそのまま帰ってもいいが・・・。
銅は頷き、その生徒についていく。
理由としては二つ。
断り騒がれでもしたら面倒だ。関係していない俺まで厄介事に巻き込まれるのは避けたい。
そして名前を知っているのは不自然だ。俺は先輩どころか同級生でさえ知っている者はいない。まして戦闘科である彼が俺の名前を知る術は無い。
にも拘わらず知っているのには必ず何か裏がある。
・・・粗方予想はつくが。
連れていかれた先には数人戦闘科の生徒が待ち構えていた。
場所は校舎裏。かなりベタだが確かに人目に付きにくい。つまり人に見られたくない、もしくは聞かれたくない何かをするのは必至だ。
「よーあかがねぇ、待ってたぞ」
早々話しかけてきたのはポケットに手を突っ込んでいる、大した特徴のない男。
「さっき克樹先輩から連絡あってよぉ、悪いんだけど、一発殴られてくんねぇ?」
ヘラヘラと笑いながら恐喝紛いの要望を押し付ける。
ここで銅は疑問が解け、理解した。名前を知られていたのは階段の件で先生に名前を問われた際に三人に聞かれていた為だと。そして八つ当たりを自分の後輩にさせ、気晴らしでもしようと考えたんだと。
「なんか喋ってみろよおい」
ポケット君の隣にいたうんこ座り君2号が威圧的に銅を見やる。
こういう類いの人間は何故こうも喋らせたがるのか。
そこで銅は面倒になったのか、こう言葉を発した。
「・・・了解した。一発殴れ」
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