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神高入学編Ⅱ

4月10日。午前8時30分。

2078年度、入学式。

別称、『覚醒日』。


桜は未だ咲かず枯葉が舞い筑紫が背を伸ばす。

気温も低いため新入生のリボンが春風で揺れる事も無い。皆上に何かを羽織っている為だ。

彼らは一様に同じ表情をして見せる。

俯き、入学式という新たなスタートに”絶望”している。

何故彼らは希望に胸を膨らませるべき日に何かを悟り、悲哀に満ちた表情を浮かべるのか。


答えは一つ。


今日は死刑宣告の日とも捉えられる為だ。



+    +    +    +



「一般生徒はこちら、順応後の生徒はあちら、無適正の方は証明書を受付に預け、そのままお進み下さい」

新入生案内のスタッフが大きな声で身振り手振りを踏まえ進路を説明している。


一般生徒、つまり一般生徒だ。全国どこにでもいる、”これまでは”普通の学生生活を過ごしていた、高校に入る生徒の9割方を占める生徒。順応後、と言うのは家庭内の事情などによって既にビュレチヒトが投与されている、そして異能力が開花した生徒。


無適正。それは詰まる所『一般人以下である』という事の証。

それが指す意味。


「・・・はい、それでは通路右側へどうぞ。次の方・・・高橋様、ですか。それでは右側・・・え、証明書?・・・ぶふっそのままっおすすみください・・・ふふっ」

証明書とやらを受け取ったパイプ椅子に座る案内係の女性は何がおかしいのか笑いだす。

それに釣られるように周りもざわめく。

「おい、あいつ無適正だってよ」

「まじ?かわいそ。無能とか」

「うわー関わんないどこ。無適正が移りそうだし」


こういう事だ。

能力が普通の世界で「無能」と言うのは動かないロボットと同義である。

今日は戦争中であり、相手は通常弾の通らない装甲である。その絶対的不利を覆す為の力がビュレチヒトであり唯一身を守る術なのである。

身を守ることの出来ない生徒は誰かに依存しなければならない。同年代の生徒に頭を下げなければならない。


この意味が分かるだろうか。


「無適正」と判断された生徒は学生時代が始まる前から終わっているのだ。

基本カリキュラムが普通科、戦闘科問わず戦争に中心を置かれている。2年生になると実践がある。

果たして無能力者は能力者とまともに戦闘ができるだろうか。

答えは否だ。


人間には限界がある。不可能がある。

だがビュレチヒトは不可能を可能にする能力がある。

人間は不可能を目の前にした時必ずしも一様の表情を浮かべる。


絶望だ。


人間から見た「ヴェルヴァ―ナ」は姿形の同じ”別種”である。

逆にヴェルヴァ―ナから見た「人間」は姿形の同じ”劣等種”である。


その劣等種が上位互換と苦楽を共にする事が可能だろうか。


「くっ・・・なんで・・・」


ただ「薬が合わない」だけで世界が変わる。見方が変わる。仲間が敵に変わる。

彼は今日からどうなるだろうか。


これがかつて”民主主義”を掲げた日本の姿である。



+    +    +    +


「・・・を心がけて日々を過ごしていって下さい。それでは・・・」


第一体育館で行われた入学式も全過程を終え、各々自分が配属された教室へと向かう。

銅は2-Aに名前を連ねていた。


神御影かみみかげ大学附属神御影高等学校。

銅が通うこの高校は全国でも有数のヴェルヴァ―ナ教育学校である。能力ある者が残り、能力無き者は淘汰されるこの時世を象徴するような実力主義の学校だ。

過去、数十年前、ビュレチヒトが能力発現の道具では無かった時代は一般的な高校であったが、国がビュレチヒトの服用を義務化して以降、戦闘科を作り、戦いに特化した「ビューレ」を育成する機関になった。


銅はただゆっくりと教室へ向かう。

周りの喧騒を気にせぬままに。ただ一人、教室へと。

彼を「銅白也」として認知している人間は指で数える程度。それも教師などの義務的立場にいる人間のみだと言っても過言ではない。

一年だ。一年間誰にも認知されず、誰とも会話せず。それで二年に上がった。上がってしまった。

唯一交わした言葉と言えば入学当初の自己紹介程度だろうか。それ以来口を開かない彼は何を思うのか。



「えー、おはようございます。今日から2-Aの担任になった真壁智和まかべともかずだ。去年歴史の授業を担当してたから知ってる奴は多いと思う。まあこれから2年間お前らと過ごす訳だ。よろしく頼む」

9時20分。真壁の簡単な挨拶から進級後最初のオリエンテーションへと移る。

「顔なじみもいる事だろうが、恒例行事だ、名前の若い順から自己紹介してけ」

真壁の合図の直後、はいっと返事し立ち上がる目の前の生徒。

「えーと、青木まさやです。趣味はサッカー、好きなスポーツもサッカー、去年は1-Cでした。これから二年間よろしくお願いしまーす」

ぱちぱちと拍手が教室内に響き、青木と言った生徒はへこへこしながら着席する。

「次は・・・銅」

クラス名簿に目を通していた真壁が銅を呼ぶ。

呼ばれた彼は淡々と席を立ち

「・・・銅 白也。昨年は1-Aに所属していました。特出した趣味はありません。お願いします」

皆に届くようはっきりと無難な挨拶を済ませる。

先程と同様同クラスの生徒から拍手で歓迎される。


たっぷり50分ほど時間を使い自己紹介、配布物、提出物などの行事を終わらせ、今日の日程が終了する。

「今日はこれで解散だが、もう二年生だ。明日からは通常通り授業を行うので忘れないように。起立」




+    +    +    +




「この後どうする?遊び行く?」

帰り支度を済ませ廊下に出ると既に準備を終えた生徒たちが自由に集い、そこかしこで談笑している。

「あーんじゃDの佐々木さん誘っていこーぜ」

「お、いいね」

気楽なものだ。確かに戦時中と言えど日本に上陸してくるような大胆な真似をする部隊はいないだろう。しかし楽観しすぎでは足元をすくわれるというものだ。

「おいお前ら!今は戦時中だぞ!そんな事では足元をすくわれかねんぞ!分かっているのか!」

案の定通りかかった先生に有難いお叱りを受ける生徒。

その脇を通り帰路につく銅。

同じ生徒でありながら対極を意味するかのような図だ。



ここ神御影高校、略称『神高』は一年生が一階。二年生が三階。三年生が二階と、少々戸惑う配置になっている。

銅が二つあるうちの2-H側に近い階段から二階に降り、それから一階へ降りようとした時。

「・・・おい」

三年生だろうか、うんこ座りをした生徒が誰かを呼んでいる。

銅は自分ではないだろうと、そのまま足を進める。

「お前だよお前」

声と同時、頭に何か柔らかめの物質が当たったのを感じ、振り返る。

「お前何無視してくれてんの」

銅はその生徒より先に床に落ちた白い物体に目を向ける。


なるほど、消しゴムだったのか


銅はそこで納得し、一階に降りる。

「おいてめえ舐めてんのか!」

階段に足をのばしたところで怒声と共にかなりの重量の物体が背中に当たったのを確認する。


・・・これは教科書の入ったバッグか。


大体の重さと面積からこれはバッグだと予想した銅。

振り返って・・・よしビンゴ。


予想が当たった事に喜びを感じ、満足した銅は帰路につく。

「てめえいい加減にしろよ」

その声が聞こえた頃には遅かった。肩を捕まれ無理矢理その生徒と目が合う状態になったのだ。

「何無視してんだって聞いてんだよああ?」

内心これは面倒なことになったと落ち込む銅。

「てめえいい加減口開けないとぶん殴るぞ」

殴っていいから早く終わらないか。など思ってしまう銅。

と、そこへ

「どーしたよかっちゃん」

「うぃーす」

この生徒の連れだろうか、バリバリ着崩した制服にド派手な髪色にパンチの効いた髪型のいかつい変な奴と、わざと伸ばしてるのか、馬鹿みたいに長い髪の毛を金に染め、かっこいいと思ってるのか搔き上げた髪が特徴的なチャラい変な奴が追加注文された。

「よお、コイツだよコイツ」

銅の胸のあたりをドンっと押し、標的が誰かを伝える。

「あ~・・・なるほどな」

何かを察したド派手パンチ野郎。

「おいいいかお前。ここはなぁ」

銅をバカにした顔と話し方で黒い制服の三人は

「戦闘科のテリトリーなんだよ」


白い制服の銅を見ていた。


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