神高争乱編Ⅸ
彼女はニコニコと銅の隣を歩く。
「・・・はぁ」
銅はため息をつく。彼女、春夏冬は気付いていないのだろうか。
自分がかなり目立っていることに。
クラス委員で人当たりもよく、少し恥ずかしがり屋な所も可愛げがある。加えてかなり整った顔立ちで、髪型も飾らない、さらさらとした少し長めの髪の毛だ。そんな素敵な容姿の女の子というだけで男子からの視線を集めるのにも関わらず、裏の無さそうな癒やしを与える愛嬌を振りまくのだ。先生や同性からの支持も厚い。
そんな娘が謎の男と二人で歩いているこの状況はまずい。
別に学校のマドンナだとか、学内アイドルといった様な持ち上げられ方をしているわけではない。
それでも、可愛い女の子は目立つ。
そして、その隣に男子がいればもっと目立つ。
だから、この状況はまずいのだ。
銅はトイレから帰ってくると、向かいの壁に背もたれしながら銅を待つ春夏冬が目に映る。
「あ、お帰りなさい」
優しく笑う彼女の無意識は、色んな男子生徒を意識させるだろう。
「・・・」
普段と相変わらず無視し、移動先の教室へ向かう。
「・・・返事くらい返して欲しかったなぁ」
と、拗ねたように口を尖らせ、銅に対し珍しく憎まれ口を叩く。
それに対し銅は、お帰りに対する返事はただいましか無いが、この場合だとそれは適切では無い。だとすれば、なんと返事を返せば良かったのだろうか。と、こちらも珍しく、相手を思いやっている様だった。
+ + + +
「銅君、おはよっ」
朝から元気よく挨拶をしてくるのは言わずもがな、春夏冬だ。
その無邪気な笑顔は引き込まれるように見入ってしまうほど魅力的で、並の男子ならばいちころだろう。
「・・・あぁ」
それに対し、銅も無愛想ながらしっかりと返事を返す。
以前、返事が返ってこなくて拗ねてしまった春夏冬の為に、銅はほんの少しでも相槌をするようになった。
春夏冬が銅と行動するようになってから10日程経過した。
この光景も見慣れてきた事だろう。
しかし、何故かその二人を噂するかにちらちら見てはコソコソと話す周りの生徒。
目立っているのは承知だが、今までとは何かが違う騒がれ方だなと銅。
無論、春夏冬は一切気にしていない様だが。
3時間目終了。
次の授業は移動教室があり、チャイムが鳴るなりその教科の教科書を持った春夏冬が銅の机の前へとやって来る。
「銅君、お待たせ?」
何故か語尾にはてなを付ける癖のある春夏冬。銅自体待っていないし呼んでもいない。
銅は無言で立ち上がり、荷物を持って歩き出す。
それになれた様子で隣に着き、歩く春夏冬。
視線の原因はこれではあるまいなと、隣の少女を横目に見る銅。
視線に気付いたか、上目がちに銅を見つめ、何故見られているのか分からなかったのか、きょとんとしたまま微笑みでその視線に返事をした。
そして周りの女子たちがどっと沸いた。
銅は納得する。視線の原因はコイツだと確信する。
周りの声に耳を傾けてみれば「やっぱそうだよ!」とか「意外な組み合わせだねー」とか。
周りの生徒は銅と春夏冬が付き合っていると勘違いしているようだ。
きっと今の目線のぶつかり合いを『熱い視線で彼女を見つめる彼氏。それに答えるように優しく微笑む彼女』とでも思っているのだろう。
厄介な勘違いをされてしまったな、と頭を悩ませる銅だった。
それにしても珍妙な話だ。
銅はともかく、春夏冬は友達が多い筈だ。
ならば一緒に行動を始めた時点で付き合っているかの確認くらい取るだろう。友達なら。(尚、その友達との会話の仕方を銅は知らない様子)
その問いには間違いなくノーと言うはず。
それなのに何故騒がれるのか。
と、照れ隠しと言う言葉を知らない銅であった。
それからというもの、一緒に行動しては女子から黄色い声が上がり、男子からはつまらなそうな顔を向けられる。
銅自体彼女の付きまといがなくなればそれに超したことは無いのだが。
さすがにこの周りの騒ぎっぷりに春夏冬も気付いたのか、
「どうしたんだろう、みんな今日は元気だなー?」
と呟いていた。
やはり春夏冬は鈍いのだろう、ずっとぽわぽわとしている。
自分が話題の中心にいることに何故気付けないのか。
廊下を二人で歩いている後ろにも誰かしらの視線を感じる銅。
何も気付いていない脳天気な春夏冬。
「春夏冬」
いよいよもって居づらくなったか、銅から話しかける。
「は、はい?」
まさか銅から話しかけてくるとは思っていなかったのだろう、少し動揺しているようだ。
「俺と行動するようになって、周りは何か言ってなかったか」
足を止めず、声もできるだけ最小限にして、周りに聞かれるのを嫌う。
「う~ん、そんな言われて無いと思いますよ?」
少し考えた後、否定する春夏冬。
そんな、ということは少なからず何人かには銅との関係性を聞かれたのだろう。
「・・・そうか。では聞き方を変える。俺たちの関係性について、周りにはなんと説明した」
これでたどり着く答えは銅の求めている回答になるだろう。
「えぇ~、そんな、普通ですよ?隠さないといけないところだけ隠して」
そう言った刹那、銅は彼女がとんでもなく天然で鈍感な頭お花畑の事を思い出していた。
「『私から(銅がオズを倒していたのを見たと)言って、10日位前から(春夏冬が強くなるために銅が)付き合ってるんだ~』って」
私から言って、10日位前から付き合ってるんだ~って。
そんなもの。
そんなもの周りが聞けば
「私から(銅が好きって)言って、10日位前から(銅と)付き合ってるんだ~」
に聞こえるに決まっているだろう。
確かに間違えてはいない。
だがしかし、こんな内容の隠し方で誤解しない生徒などいる訳が無い。
「・・・・・・・・・はぁ」
銅は生まれてから一番深いため息をした。
神高争乱編・終
やっぱり試行錯誤していても自分はコメディ向きなんだなと自覚してしまう程に、この壮大なテーマは自分に合っていないと感じた。
が、人と人との関係にシリアスな部分は多くも必要ない。普段は笑って楽しんで、つらいときには泣いて悲しんで。
そんな喜怒哀楽があるからこそ人であって、それだから人間は面白い。
だから、戦時中であろうが少しのコメディがあっても良いだろうと。俺はそう思った。
ブクマ、高評価、感想お待ちしています。