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婚約破棄大作戦

評価してくださった方ありがとうございます。

さあ婚約破棄だ!といってもすぐに実行できるわけじゃない。何故ならアーサー様のほうが身分が上なのだ。私の家のほうから婚約破棄を言い出すわけにはいかない。家に迷惑をかける方法はだめです。いや、婚約破棄の時点でかなり迷惑をかけると思いますが。


というわけで今後の目標としては相手からこんなやつとは婚約破棄するぜ!と言わせるためにとことん嫌われていきたいわけだ。生憎だが嫌われる方法は嫌というほど熟知しているのでノートに書きだして実行することにした。




作戦1、毎日執着に話しかける。

これはとにかく話しかけ、コイツウザいなと思わせる作戦である。


これを堂々と声の人に説明すると


――なにこれ、好かれるための努力作戦か何かですかね。


となかなか冷めた声で言われた。あれ、あなた私のファンの方でしたよね?




何はともあれ作戦実行!昼休みに中庭でターゲットの後ろ姿を発見したので話しかけてみようと思います。


「アーサー様」


さらさらと風になびいて流れる美しい金色の髪を煩わしそうに耳にかけながらこちらに振り返るアーサー様の深い青色と目が合う。


ドクンと心臓がはねる音がした。


今日まで話しかけるのも控えていたからか、正面の顔を見るのも久しぶりで頬に熱が集まってくるのがわかった。見上げないといけないほど身長差があるとか、体つきは男らしく成長していてしなやかな筋肉がついているとか、近寄ってみて初めて分かる情報が飛び込んできて頭はパンクしそうになる。


話すことに困らないようにと事前に案をたくさん考えたはずなのに、頭が真っ白になって言葉の一つも出てこない。どうしよう、どうしよう。何か言わなければ嫌われてしまう。いや、嫌われるために話しかけているのだからそれでいいのだろうか。


顔が真っ赤になっているのが自覚できるからこそ何度もうつむきたくなるのをこらえて、声を出そうとする。


「あ、ぅ……っ!」

「アーサー様!」

「!」


しかし私がしっかりとした単語を話す前にアーサー様に話しかけた人物がいた。

胸程まである薄桃色の髪をふわりとなびかせてこちらにやってくる愛らしい少女、クレリア=アンジェロ侯爵令嬢だ。


「……あっ!お話し中に申し訳ありませんでしたキャロル様、私の不注意です」

「いいえ、気にしていませんからどうぞお顔を上げてくださいませ」

「ありがとうございます。キャロル様はお優しい方なのですね」


おそらくアーサー様に隠れて私の姿が見えなかったのだろう。クレリア嬢は話を中断してしまったことに頭を下げた。

彼女の言葉遣いはしっかりしており、動きには少々ぎこちないところもあるが堂々としていて平民っぽさはまるで感じられない。成績も著しく真面目な生徒として先生方からは認められてきていると聞く。


声の夢物語が急に現実味を帯びてくる。胸がぎゅっと締めつけられる感覚が苦しい。私は今ちゃんと笑えているのだろうか。怒っていないのだという態度を示せているだろうか。それくらい胸の中は感情が荒れ狂っていた。


(私、まだアーサー様が好きなのね)


いきなり気持ちを切り替えるのは難しい。物語の影響なのか本心なのかはわからないが、私はアーサー様と添い遂げる未来を夢見ている。それは違いようもない事実だ。


自覚するとさらに胸が苦しくなった。自分で選んだ未来のはずなのにもう決心が揺らぎそうになる。このままここにいると泣きそうで逃げ出したい衝動に駆られるけれど、それは失礼にあたり家に迷惑をかけてしまうとぐっと留まった。


「それで何か用事でもあったのか」


感情を何も感じさせない声でアーサー様はクレリア嬢に問う。それに少し気後れした様子のクレリア嬢は2、3回瞬きをすると可愛らしい笑顔でこう言った。


「よければそこのテラスでお話でもしようかと思いまして」

「断る、俺は暇じゃない」


ぴしゃりと一蹴。取り付く島もない。クレリア嬢は断れると思っていなかったのか、冷えた声に恐縮したのか固まってしまっている。そんな彼女に興味がないようにこちらのほうを見下ろすアーサー様は私にも要件を聞いてきた。


「大した用事ではないのです。見たところお忙しい様子ですのでまた日を改めます」

「そうか」


そういうとアーサー様はすらりとした足を動かして早々に立ち去った。姿が見えなくなるまでぼうっと見つめていると後ろから独り言のようなものが聞こえる。


「この世界はロードがないから面倒ね」


下手をしたら風の音でかき消されてしまいそうなほどに小さな声。それでも私の耳にはしっかりと届いた。


「それではキャロル様、私も失礼いたしますわね」

「え、ええ」


振り返れば笑顔のままのクレリア嬢は優雅に去っていく。残された私は一人、先ほどの言葉の意味を考えていたが予鈴のチャイム音で我に返りやや急いで教室に戻った。


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