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作戦会議と実行

クレリア嬢の行動の理由を考えてみても5番さんに聞いてみてもわからなかった。だから直接聞きに行こう、そう思って屋上に呼び出した放課後の屋上。


小さな空中庭園になっているそこで語られたのは彼女の過去。話をまとめるのなら孤児院で育ち、初恋の人を追いかけてきたらほかの男性と政略結婚させられそうになっている。加えて乙女ゲームのヒロインということを思い出し、いっぱいいっぱいであると言ったところだろうか。


そして話が終わると彼女は問いかけた。どうすればよかったのかと。


どう答えればいいのだろう、慰める言葉をかけようか少し迷ってしかしきれいごとを言うのも違うだろうと思い、相手を真っ直ぐ見つめて素直な気持ちを伝えることにした。


「……過去を変えることは不可能で、私にもどうすれば正解かなんてわかりません」


誰にだって変えたい過去はあって、こうすればよかった、ああすればよかったと悩みながら生きている。でもそんな魔法みたいなものはどこにもなくて、振り返ることは大切だと思うけれどそれにすがるのは間違っている。それが今の私の考え。


「けれど今から未来を変えることは可能です」

「でも今更……っ!」

「私もお手伝いいたします」


一歩前に進んで白くなるまで握りしめられた手を包む。私より少し高い彼女を見上げればその目には涙がにじんでいた。


「クレリアさん、私と一緒に幸せな未来を探しに行きませんか?」






幸せな未来を探しに行きましょう。そう言われてうなずいてしまったのはきっと彼女ならなんとかしてくれるのではないかと思ったから。ええ、甘えた考え方です。それは私が一番理解しております。


他人の力を利用しようとするからダメなのかな。でも貴族社会問題は私の力じゃどうにもできなかったしなぁ。


そんなことを考えながら私は現在キャロル様に指示された通り、エリック様をとある場所に案内していた。


放課後話した後、私はラパン家に招かれ話し合いという名の作戦会議をすることになった。

しかし私の学園での立場はあまりよろしくない。元平民で侮られ隙あらば陥れようとする令嬢令息がいないわけではないので気を抜けないし、公爵令嬢であるシェリー様に目をつけれてしまっている。このような状況になった場合余計な行動を慎み、噂が静まるのを待つしか私には打つ手がないと思うのだが。


馬車に揺られラパン侯爵家に行く途中に間に考えをまとめたが、私の答えはやはり変わらなかった。つながりがもっとあれば何か変わったのかもしれないが、引き取られてから学園に入学する間は勉強漬けの日々でお茶会などにも参加させてもらえなかったため、力を貸してくれそうな知り合いは少ない。本当にどうするのだろう。


「いらっしゃい、クレリアさん」


屋敷につけば客間に通され、キャロル様が可愛らしい笑顔で迎えてくれた。

慣れてきたマナーを瞬時に頭の中で復習し一切のミスもないように紅茶を口に運べば、楽にしてくださっていいのですよと言われてしまった。まだぎこちなさは出てきてしまっているらしい。


「それで作戦会議のことなのですけれどね」

「あ、はっはい……」


軽くお菓子のことを話した後に作戦会議の話題が出てビクリと肩がはねてしまった。うつむいて見えた紅茶に映る私の瞳は不安げに揺れている。

それでもこれは私のためにキャロル様が時間をとってくれたこと。その時間を無下にすることは彼女に対する侮蔑になり得る。そう思って顔をあげて真っ直ぐ目を見つめ返す。もしかしたら睨みつけるような視線になっていたのかもしれないが、キャロル様は嬉しそうに笑ってくれた。


「ありがとうございます。それで先ほどのお話ですが、初恋を叶えるためにはまず相手を探さなければいけないですわ」

「ええ、私一人では限界があります」

「人探しとなればやはり人脈は必要です。というわけで恩を売りましょう」


リナジオンの箱庭にはそれぞれ攻略キャラクターに思いを寄せる女性がいる。いわゆるライバル令嬢というものでキャロルやシェリーもそこに含まれている。


アーサールートならばとある事情から女性不信になりキャロルに辛く当たるようになり、エリックルートならば素直になれないシェリーがエリックに悪態をついてしまうなど攻略対象とライバル令嬢の間には何かしらのすれ違いが発生している。

バッドエンドではそのすれ違いが解消され、ライバル令嬢に攻略対象をとられてしまうというもので(ただしキャロルは除く)、幸せそうな彼らのスチルが見られるエンドはバッドながら人気のあるエンドであった。


まあ人気がどうこうはいいとして、重要なのはすれ違いの部分。これはヒロインと攻略対象が仲良くなり、ライバル令嬢に危機感を持たせなければ自然に解消されることはおそらくない。そして現時点では本当に友人関係であるからそこまで危機感を持っている令嬢は多くはないだろう。


そこで彼女たちの橋渡し役をすることで恩を売ろうという提案をしてきた。ライバル令嬢である方々とある程度仲のいいキャロルと攻略キャラクターと友人関係にあるクレリアが手を組めば上手くいくはずだと。


そうして私は現在エリック様とシェリー様の縁を結ぶため、こうして彼をキャロル様とシェリー様が話しているであろう個室へ案内しているのだ。

表向きは私の茶会の練習相手の一人として。




確保した部屋番号を確認して、その部屋の前にたどり着けば途端に緊張感が増す。私の仕事といえばこのままノックもせずにドアを開けてエリック様に対する本音を吐き出しているシェリー様をエリック様に見せるだけなのだが、ここで失敗すれば私の立場はますます悪くなってしまう。そんな保身が私の動きを一瞬止める。

なんだか最近悪いことばかり考えている、その考えを振り払うように軽く頭を振りドアノブに手をかけてドアを開けた。


「キャロルさん、私はもうダメですわ。今回のことで絶対にエリック様に見限られましたもの、今頃婚約破棄の話があがっている頃ですわ。……うぅっこんなにもお慕いしているのにどうして口を開けば悪態ばかりっ、こんな自分大嫌い」

「どうかご自分を責めないで。あなたの気持ちはエリック様にきっと伝わるはずです、……そうですよね、エリック様?」

「キャロルさん?リリィのほうを見てどうかしまし、たの……」


うつむいたままキャロルの手を包んで弱音を吐いているのは、プライド高き公爵家のシェリー=リーヴス嬢、その人だった。弱音に穏やかな声で言葉を返すのはキャロル=ラパン嬢。後姿しか見えないが橙色に若草色のリボンと低身長という特徴的な彼女は後姿だけで十分わかってしまう。

そんな彼女は言葉の途中に私、否私の背後にいるエリック様のほうを向いて問いかけた。

その様子を変に思ったシェリー様は涙で濡れた目元をレースのハンカチで拭いながら顔をあげる。今にも泣きだしそうに歪んでいた顔つきは、私たちの姿を見ればキョトンとした顔に変わる。目をパチパチ瞬かせ、状況を理解できていない様子だった。


私はドアの端によけ、シェリー様と同じく呆然としているエリック様を軽く小突く。ハッとした彼は小走りで彼女のもとに向かい、その白い手を壊れ物に触れるようにそっと触れた。

指が触れた感触にシェリー様もハッとして立ち上がり、何かを言おうと口を開くが何も言えずにパクパクしている。顔は真っ赤で泣いた跡があり、慌てふためく彼女の姿は傲慢なところが玉に瑕だと言われる公爵令嬢と同一人物だとはとても思えなかった。


「あっ、あの、これは、その違うくて、えっと」

「え、違うのですか?」

「ふぇ!?ぅ、あ、ええと、その……」


落ち着きなくそわそわする彼女とじっと確かめるように彼女を真剣な顔で見る彼は少女漫画のカップルのようで可愛らしい。くっつくまで傍観者の位置でずっと見ていたいと思っていたのだが、近くまで来ていたキャロル様に外に出るように指示された。


「あの二人を残していいんですか?」

「大丈夫です、シェリー様はチャンスを逃す方ではありませんから。相談事は落ち着いてからお話ししましょう。今水を差すのは逆効果です」

「……そうですね」


今回のことでシェリー様の協力が得られる可能性は高くなった。だから私の思い人はみつかることだろう。でもそれだけじゃまだ一回り以上年上の男に嫁がされる私の未来は変わらない。


(たしか攻略キャラの中に次期宰相様がいたはず……)


男の家は有力でありながら黒い噂が絶えない、しかし証拠がつかめないとされている侯爵家。宰相に協力を仰げばなんとか没落させて嫁ぐという未来を変えられないだろうか。


学園の廊下を歩きながら考えをまとめる。上手くいかない可能性はある。それでも何もしなければ私は初恋の人と結ばれることはできない。嫌いだと断られるのは覚悟しているつもりだけれど、家の関係で結婚できないなんて絶対に嫌だ。今回上手くいったことでそんな欲がでてくる。


「ねえ、キャロル様。私の考えを聞いてくださいませんか?」


でも一人で突っ走って失敗するのは嫌だから、協力者に相談したいと思った。


更新が遅れて申し訳ありません。最近リアルが忙しいので8月のようにすぐにあげるのは無理そうですが、終わりも近いので頑張る所存です。最終話までお付き合いいただけると幸いです。

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