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夏の夜のはじめ木曜日。

掲載日:2008/08/18

『夏の昼下がり日曜日。』のお祭り中編です。

『夏の夕暮れ木曜日。』をご覧になってからお読みください。

真っ赤な夕日もすっかり沈んだ頃。



紺色の空の一番星を眺めながら、二人で歩く私と梢君。


お祭りは毎年夜になってから始まるので、近所の神社まではゆっくり行くことにした。



「楽しみだね、お祭り!」


カランコロンと下駄を鳴らしながら尋ねれば。……繋いだ手に力が篭る。


「ほら……。君、下駄履きなれてないんだから。ちゃんと気をつけて」


そう言って、さりげなく歩きやすい所に誘導してくれる梢君。


神社まではちょっとした砂利道が続いているので、確かに慣れてない下駄だと歩きにくい。


実を言えば、舗装されたコンクリートの遊歩道でも転びかけていた。


……梢君がいなかったら、もう傷だらけだっただろうな。


素直に感謝しつつ、梢君の骨ばった、しっかりした手を繋ぎ直して、そっと隣を歩く横顔を見上げた。


「ありがとう、梢君。っていうか、梢君も気をつけてね?」


「俺?」


「だって、梢君も下駄だから。転ぶんじゃないかと思って」


梢君も今日は浴衣なので、下駄もそろえてあった。


私だって慣れてないけど、梢君なんて私より慣れてないんじゃ。


砂利道なんて転んだら絶対傷だらけになるし。



……小さい頃はそれで拗ねて帰るなんてこともあったな。



――花火見るためにも、もしもの時は私が支えてあげなきゃ。


浴衣越しに、ぎゅっと腕を組むと。



 意地悪げな微笑みと……頭を撫でる、あたたかなぬくもりが返ってきた。



「……誰にもの言ってるんだか。……俺は君ほど間抜けじゃないよ」


「ま、まぬけっ?!」


せっかく心配したのに、まぬけ呼ばわり!?


むっとして頬を膨らませると、梢君はいつもの子供っぽい、悪戯げな微笑みを浮かべた。


「でしょ? ……君ってば昔からぬけてたから、自分の足に引っかかって転ぶなんて大得意だったし」


そういえば……。


確かに、梢君は転んで拗ねたことはあるけれど……それはすっごい小さい時に1,2回だけ。


どっちかというと、私が転んで泣いてる方が圧倒的に多かった。


「君は転んで泣くたび俺に抱きついてきて。……しかも、泣き止んだ直後にまた転んで。


 ……そんなに俺のこと好きだった?」


「そんなことは……! ……あ、ったような……」


反論しようとも思ったけど、抱きついてたのは本当だったので止めておいた。



それにしても、小さい頃の私……なんて迂闊なんだろう。


今でもたまに自分の足につまずいて転ぶことはあるけれど。


 まさか、梢君に慰められ……そして、泣き顔を見られるなんて。


昔の梢君だって、4つ違いなだけでそんなに大人なわけじゃないから、困っただろうな。


……私も意外と迷惑かけてるんだよね。



幼い梢君の苦労を思い、軽く落ち込んでいると。



「大丈夫だよ。……君が転んで、泣かないように。……俺が助けてあげるから」



「梢君……!」


優しい微笑み。……普段は子供っぽいけど、優しい時は優しいよね。


感動していると……それは、一瞬で意地悪げな微笑みに変わった。


「……この歳で転んでる人って相当イタいからね。もし君が転んだら、他人のふりするから抱きついてこないで」


「うわっひどっっ!」


まぁ、そんなことだろうと思ったけど。……梢君なら、私が転びそうになっても無視してさっさと進んで行きかねないもん。


ため息をつくと、梢君は変わらず意地悪そうな表情で呟く。


「……まぁ、君みたいな筋金入りの間抜けでも、気をつけてれば大丈夫だよ」


「もう、まだ言うのっ?」


――さっきから、からかわれてばっかり。



……すぐ拗ねる、子供っぽい梢君。意地悪なところも全然変わってない。


こんな感じで、花火まで一緒にいれるかな?


不安で、少し見上げると。先を見つめる梢君の横顔。


すっかり暗くなってしまった砂利道、細かな表情までは見えなかった。



「だって君って、いくら言っても言うこと聞いてくれないから……――あ、着いたよ。神社」


さっきから、うっすら聞こえてきていた祭囃子。


見上げると、赤い鳥居の下に並ぶ大小の屋台。はしゃぐ人々。


……で、美味しそうな、食べ物が混じったお祭りの匂い。



「お腹すいた! 早く行こう!」


「さすが。……食欲旺盛だね」


さっきまでの気分もすっかり晴れて、途端に心が躍りだす。


リンゴ飴に、やきそば、たこ焼き、カキ氷……そしてわたあめ。想像するだけでわくわくする。


繋いだ手を引くと、梢君も楽しそうに微笑んだ。



近所の神社で行われる、小規模なお盆のお祭り。


人の集まった夜の半ばぐらいに盆踊りが始まる。


そして。夜の最後には……小さいけれど、ちょっとした花火大会。


その後も屋台は続く予定だけれど、だいたい花火を締めくくりとして帰るのが定番。



だから、夕飯はぬいてきたんだけど。


「……ふあ〜、おいひー!」


「君。……口に物入れてしゃべらない」


「むぐ。〜〜はぁ、梢君も食べる?」


手に持ったのは、ベルギー製のチョコがかかったチョコバナナ。


さっそく目に付いたものから買ってしまった。


「うん。ちょうだい」


梢君は私の手ごと、棒を掴むと……なんと、半分ぐらい食べてしまった。


「あぁーっ梢君っ! 絶対食べすぎでしょ!」


「……そう?」


「だってチョコの部分もうないし!」


残ったのは、ただのバナナの部分だけ。


私が恨めしそうにそれを眺めていると。


「じゃあこれあげる。……口あけて」


「? あー……」


口の中に広がる、甘いクリームと甘酸っぱいストロベリーの味。……あ。クレープ。


「……おいしい?」


「うん、おいしいっ! 甘いの好きだね梢君は」


梢君は意外、でもないけど甘党。


私も女の子だから甘いものは好きだけれど、どちらかと言えば梢君のほうが甘いものが好きだった。


――昔から、本当変わってない。……食べ合いっこすると、私がいつも損するところも。


そして、色々種類があるのになぜかいつもストロベリーを選ぶところも、全然。


今度は一気に食べられないようなものにしようかな、なんて思いながら他の店を探していると。



「きゃぁっ……!!?」


――……頬を、ざらりとした感触が伝った。


な、何今の?!


何事かと思い見上げると……唇を舐めて、意地悪げに微笑んでいる梢君の姿。


しかも、悪戯した後の子供みたいなそんな雰囲気。



も、もしかして……。



「……頬、クリームついてたよ。取ってあげたんだから感謝してよね」



クリーム? さっきのクレープ食べた時かな……。ついてたんだ。



というか……!


「えと、……取ったって……?」


嫌な予感がして、満足そうな梢君に尋ねる。


「君、おいしかったよ?」



「ね、まさか……さっき…………舐めた?」


おそるおそる見上げると。




「当然でしょ……? もったいないし」





途端。



……頬がありえないくらい熱くなって、さっき触れられた部分がくすぐったくなる。


舐めた? ってことは、さっきのって……舌だよね。



だって……だって、ええっ?!


新婚さんじゃないんだから、普通口で言うか、指で取るでしょ?! どこのバカップルが口で取るなんてこと……っ!


恥ずかしすぎるっ!! 知り合いに見られたら絶対やばい!!


っていうか、人目を気にせずそんなことやってのける梢君に驚く。




さっきのうっすら間接キスぐらいは、昔から一緒にいるので慣れてる私だけど……これは予想外。




戸惑いつつ、見上げると……。


どう見ても、私の反応を見て楽しんでる顔。


「……何? 悪い……?」


「〜〜……う〜、べつにっ!」


睨みつけながら言うと。さらに楽しそうに微笑む。


……ダメだ。文句言うと、さらになんか言われちゃいそう。



「そう。……じゃあ、次行こう」


そんな私を軽くスルーすると、まだ続く屋台の道を指差した。


「〜〜え、でもまだカキ氷も食べたいし……」


「全部回ってからね。……ほら、手」


離れていた手を繋ぎ直す。


なんかご機嫌な梢君に引かれて、再び人の間を縫って歩き出した。




――はぁ。なんか今日は梢君に振り回されてる気がする。




最初から覚悟してたけど、思ったよりも梢君って……二人っきりだと大胆。


去年までは家族と一緒だったから手だって繋がなかったけれど、今年は片時も離したくないらしい。



……やっぱりわがままな梢君にため息をついた。




だけど。



人をかきわけて歩く梢君の後ろにつきながら、そっと気づかれないよう覗いてみる。


さすがに、二人きりの時のような甘い顔じゃないけれど。……いつもの落ち着いた表情。


……いつもなら、人混みが嫌いだからと言って、すでに拗ねているはずだけど。



――梢君、今日は機嫌がいいみたい。



最悪の場合、家を出る時点で帰ることも予想していただけに、神社まで来てチョコバナナを食べれただけでもすごいことだった。



  ここまできたら、花火も一緒に見てみたいな。



祭りの最後にある花火。


そんなに大きくないし、短い花火大会。



だけど、せっかく二人で来たんだから、花火も二人一緒に。




……そして、そのためには梢君を拗ねさせないことが重要で。





ふと。梢君の足が止まる。



目の前にあるのは、一軒の屋台。


大勢の人が並んでいるわけでもなく、まばらに人がいる程度。


「梢君? なんかあった?」


人の隙間から覗くと。そこには。




――大きな水槽いっぱいに泳いでいる、小さな金魚たち。




赤と白と黒が、しっぽをなびかせている。


古ぼけた屋台の看板には、『いくす魚金』もとい『金魚すくい』の文字。




あぁ……やばい。金魚すくいだ……っ!




金魚を眺めている梢君。



私はその手を……そっと引っ張った。



「なに……? どうかした……?」


梢君は、少し驚いたように尋ねてくる。


「えっと……う〜、ほら、あっちとか面白そうじゃない?」


「……たい焼き? まだ食べるの?」


「え、うん」


呆れる梢君。私は目が合わないよう、屋台を眺めるふりをした。



とにかく、梢君に金魚すくいをさせてはいけない。




だって――毎年梢君は、金魚を一匹もすくえなくて拗ねてしまうから。




小さい頃から、不器用だった梢君。



水につけた瞬間やぶいたりしてしまう強兵で、挑戦しては全然すくえなくて拗ねていた。


そして、負けず嫌いなのも彼の特徴。できないってわかってても、どうしてもやると言ってきかない。


……それでも、最近はやっと2匹くらいすくえるようになってきて。


けど、梢君のお母さんがこれまた負けず嫌い。


梢君に勝負を挑んで、38匹との大差をつけて勝ってしまった。


……まぁ、拗ねちゃうのもわかる気がするけれど。



――とにかく、梢君に金魚すくいをさせたら、拗ねる、まではいかないものの。


 少なくとも……機嫌が悪くなることは間違いない。



よし、できるだけここには近寄らないようにしよう。



「って……あれ? 梢君?」


気づくと、隣にいた梢君がいない。


あわてて、周りを見渡すと。



……すでに、水槽の前でポイを構えている、梢君の姿。



「えっ?! ちょっと、梢君?!」


慌てて側によると、気づいたように顔をあげる梢君。オレンジの裸電球が、綺麗な顔を映し出す。


……あ、結構真剣な表情だ……。じゃ、なくて!!


「梢君、あの、えと……」


どうすれば、止められるんだろう。


無理に止めると、逆に機嫌が悪くなるし……!


「……何? 君もやりたいの?」


「違うー!」


もうやる気満々?!


こうなったら、もう梢君は止められない。



命運を握るのは、水槽をすいすい泳ぐ金魚たち。



花火見させて下さい――!



一人、固く目を閉じて祈っていると……梢君は……そっと、微笑んだ。




「……ちゃんと、見てて……?」




 夏の夜のはじめ頃木曜日。――小さな飛沫が、一番星と輝いた。


お読みくださりありがとうございます。

えー……すいません。本当は前編後編でいくつもりだったんですが、なんか書いてたら長くなってしまい、中篇となってしまいました。私の力が至らないせいです。すいません。

まぁ次こそは後編です。題名だけは『夏の月明かり木曜日。』と決まってるので、見かけたらよろしくお願いします!


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