職場体験
高校の授業の一環で職場体験プログラムに参加したわたしは、親族のコネで映画撮影所に行かせてもらえることになった。たいてい職場体験といえば販売業や接客業などといったところだけど、なんとか潜り込むことができたの、そう映画撮影所に!
でも演劇部に所属しているからといって、いきなり出演させてもらえるわけもなく裏方で職場体験することになったの。その役割は見学者の案内係だったの。まあ、接客業を希望しないといけなかったし、それに素人が出来る仕事も限られているのでしかたなかった。
ただ映画撮影所といっても、テーマパークのような広大な敷地に様々な建物が立ち並んでいるので、観光地化していて多くの見学者がいて大変だった。それでもお目当ての特撮撮影スタジオ担当になれたのはうれしかった。
そのスタジオに隣接している資料館で案内係補助をすることになったけど、そこには特撮作品で使用したセットや着ぐるみのうち、人気が高くて公開しても問題ないものを展示していたので、うれしくて仕方なかった。もちろんお目当てはヒーローやヒロインのキャラクターではなく、やられやくの怪獣の方だった。
だけど、見学者は正義の側ばかり見たがるので見学者のリクエストに応じているとどうしても怪獣のエリアには行けなかった。でも、見学者の中には怪獣が好きな人もいたので、その時は喜々として案内することが出来たので、良い時もあった。
「こちらの電気怪獣エレントンですが、核燃発電所を襲ったときに放射線を浴びて女性化したのでこんな胸が大きくなったのです。まあ、今の時代恐ろしくって使えない設定ですが、のどかな昭和時代の作品ですから」
わたしは、つい脱線して自分が着たい女性型怪獣着ぐるみの事を話すと、案内している中年オヤジに変な顔をされてしまった。
「きみ、きみって高校生だろ? どうして、こんな三十年前の怪獣をしっているの? いっては悪いけどヲタクという雰囲気じゃないし」
「いえ、その、その着ぐるみを着てみたいなあなんて思って、調べたことがありまして・・・」
わたしはしまったと思ったけど、その男性は少しニヤニヤしながら言っていた。
「君みたいにヒロインじゃなくて醜いキャラクターの着ぐるみを着たい娘がいるんだな。その夢叶ったらいいよね」
そういって、その男性は去っていった。わたしは少し自分の願望をカミングアウトして理解してくれた人がいたことが少しうれしかった。