プロローグ:憧れ
わたしが住む町は映像作品を創作するための施設が充実していた。映画のセットはもちろんスタジオやテーマパーク、さらには映画会社の本社まで全てが存在していた。だから小さい頃から同級生はみんな映画やテレビのスターを夢見ていた。もちろん、それは誰もかれもなれるものではなかったけど。
みんな主役、男の子ならヒーロー、女の子ならヒロインを憧れの眼差しでみつめているのが常だけど、わたしが憧れていたのは裏方の仕事だ。しかも美術や大道具ではなく女の子がみんな憧れるものではなかった。
わたしが憧れていたのは着ぐるみの内臓になって演技する、スーツアクトレスになることだった。わたしは着ぐるみの中に入って映像作品に出ることに憧れていた。
スーツアクトレスは呼吸が困難になる身体を圧迫する衣装を身に着け、視界の利かない中を人並以上の運動能力を発揮しなければいけなかった。
スーツアクトレスの着る衣装は戦隊モノに出てくる変身後のヒロインキャラや女戦闘員といった薄手のものならさほど難しくはなかったけど、わたしがなりたかったのは怪獣の着ぐるみの内臓だった。
そのような怪獣の着ぐるみにあこがれを持ち始めたきっかけは、弟が見ていた特撮ヒーローものだ。その作品では遊星からの侵略者がいたけど、それを演じていた若い女性が変身して怪獣になるというストーリーだった。
普通の女の子ならそんなのを見たら嫌悪感しか感じないはずなのに、わたしは違っていた。女の子が見ても可愛らしい女性が醜い姿になるのがなんとなくツボに入ってしまったのだ。
あとで、そのことを友人にいっても誰も同意してくれなかった。本当に絢華は変な娘だと・・・
わたしは本気でスーツアクトレスを目指したいと思ったが、最初のうちは方法が分からなかったけど、いろいろと調べてみると大きな条件があった。なぜかプロダクションの募集要項によれば「若干名、学歴高校以上」とあった。中学を卒業したらなりたいと思っていたわたしはショックを受けて、しかたなく高校に進学したの。
高校では成績もよく容姿端麗などとチヤホラされていたけど、夢はやっぱり怪獣のような醜い姿だと人が言う着ぐるみの中に入るスーツアクトレスだった。でも、その夢は叶わないものだと諦めていた時ひょんなことから怪獣の着ぐるみに入ることになったの。でもそれは大きな騒動を引き起こすことになったの。