表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 邂逅編
9/57

第9話 農村と食料事情

 暫く平原の上空を飛んでいると、まだ距離はあるが農村らしきものが見えて来た。


「フェリオス、この辺りで降りてくれ」

「クァッ」


 分かった、と一鳴きして、何も無い平原に降りて行くフェリオス。念の為、街道からは外れた場所だ。

 クレハ達の反応から見て、飛竜と言うのも余り一般的ではないのかも知れない。気にし過ぎと思わなくもないが、今は迂闊に目撃されない方が良いだろう。

 地上に降り立ち、傍らのフェリオスに目を向けて考える。


(やはり目立つよな······一旦、戻すしかないか)


 折角逃げて来ても、飛竜を連れていたら見つけて下さいと言っているようなものだ。まぁ、悪いことをした訳でもないのだから、別に逃げ回る必要は全く無いのだが。この世界に馴染むまでは、出来るだけ自由を確保しておきたいと言うのが本音だ。


「悪いな、呼び出したばかりだっていうのに」


 そう言いながら召喚ホイッスルを取り出す。今一度吹けば、フェリオスは元の場所に戻ることになる。何処から召喚されて何処に還るのかは知らないが。一説によると召喚モンスター達の棲む場所が、此処とは違う異空間に在るらしいという話だが、本当かどうかは定かでない。

 しかし吹こうとすると、ダメッとでも言うように、笛を持つ右手にフェリオスが噛み付いて来た。無論、本気で噛み付いている訳ではないが、戻りたくないという意思の強さは感じさせる。


「お前······」

「クァ、クァ」


 イヤイヤをするようにふるふると首を振るフェリオス。哀しみを湛えた円らな瞳を見ると、つい罪悪感に負けそうになるが。


「しかしなぁ、お前を連れていると騒ぎになるかも知れないんだよ。暫くは、飛竜の扱いが分かるまでは我慢してくれないか?」

「クァァ······」


 項垂れるフェリオス。

 理解わかってくれたか、と思った次の瞬間。


「クアァァァ───ッッ!」


 突然叫び声を上げ、その身体から光を放ち始めた。


「なっ、何だっ!?」


 反射的にフェリオスから離れて、不測の事態に対応出来るよう身構える。

 光は次第に輝きを増し、やがてフェリオスの身体が見えなくなる程に包み込んでいく。眩しさに見ていられなくなり顔を背けていると、唐突にそれは収まった。

 そして、目を細めてフェリオスの居た方を確認すると。


「なん······だと!?」


 そこには一頭の白馬が居た。

 まさかとは思うが。


「お前······フェリオスなのか?」

「ヒヒン!」


 そうだ、と言わんばかりにいななく。


(マジかよ······)


 この世界に来てから色々と驚かされたが、今回のは極めつけだった。自分だけでなく騎乗ライドモンスターにまでチートな能力が備わっているなど、予想外もいいところだ。言うまでもなく、ゲームにはこんな変身能力など無かった。とすれば、これも後付けということだ。一体、何処まで都合良く出来ているのか。


(何が目的なんだ······?)


 これを仕組んだ何者かは自分に何をさせたいのか、その意図が全く見えて来ない。もっとも判断材料が皆無の現時点では、それは当然なのだが。得体の知れない不安にさいなまれるのも致し方ないことだろう。


「ブルルッ?」


 どうしたの?と顔を擦りつけて来るフェリオス。

 今までもそうだったが、これも【自動翻訳】の性能の内なのか、フェリオスの言っていることが何となく理解わかるようだ。フェリオスの方も、明らかに此方の言っていることを理解している。もしかしたら、フェリオスだけが特別なのかも知れないが。


「ブルルルゥ?」


 これでいいよね?と言うので上出来だ、と答えると、褒めて褒めて、と頭を差し出して来た。撫でてやると、気持ち良さそうに目を細める。

 そして今度は、じゃあご飯!と言ってきた。


「そう言えば、約束だったな」


 とは言っても、今収納インベントリに有るのはステータスアップ用の料理と、大森林で手に入れた魔物の肉くらいだ。


「今は肉しかないぞ?馬になったらニンジンでも食うのかね?」


 そう言うと。


「ヒヒ───ンッ!」


 肉───っ!と叫んで、また輝き始めた。

 そして光が収まると、再び飛竜の姿に戻っていた。


「成る程、戻るのも自由自在って訳か」


 感心しつつ、収納から猪の魔物マッドボアの肉を取り出した。


「これでいいか?」


 と肉の塊をフェリオスの前に置く。


「クアッ!」


 うん!と一鳴きして、嬉しそうに食べ始めた。


「やれやれ······」


 しかし、これで問題が一つ解決したことになる。

 後は自分自身の食料だが。流石にフェリオスのように生肉を食べる気にはなれない。かと言って、調理しようにも器材も調味料もない。せめて塩でも有れば、まだ何とかなるんだろうけど。


「この先の村で何か手に入ればいいんだが······」


 過度の期待は禁物だが、心配し過ぎるのも悪い癖だな。油断する必要はないが、もう少し気楽に行く方が良いのかも知れない。

 そんなことを考えながら、幸せそうに肉を食べるフェリオスを眺めていると、此方こっちまで空腹を覚えて来た。村までは我慢しようとも思ったが、結局空腹には勝てず、ハンバーガーを一つ食べることとなった。

 その時、自分は肉を食べているにも拘わらず、フェリオスが物欲しそうに此方を見ていたのはご愛敬だ。




 再度馬になったフェリオスの足で10分程走った所に、その村は在った。

 村と言っても極小さなもので、粗末な家屋が7、8軒有るだけだった。

 だが、この村に来てまず驚いたのは、水田が有ったことだ。水田が有るということは、つまり米が有るかも知れないということだ。東方風のお国柄から、もしかしたらとは思っていたが。

 ともあれ、先ずはこの村の責任者と会ってみないことには始まらない。

 フェリオスから降り、手綱を引きながら村の中を進む。一番手近に居る、入ったときから此方を伺っていた、野良仕事をしている中年の夫婦らしき二人に声を掛けてみた。


「すまないが、この村の責任者と話がしたい。何方どちらにおられるだろうか」


 出来るだけ威圧的にならないように心掛けて訊ねると、多少緊張がほぐれたのか、恐る恐るだが答えてくれた。


「それなら、一番奥の家に居ますだ」


 と、男の方が指を差した。

 すると、事情を察したのか、その家から初老の男性が出て来て、此方に向かって来るようだった。

 近くまで来ると、その男性は口を開く。


「わしがこの村の村長ですだ。見ての通り、何も無い村ですだ。どのような御用向きで?」


 思い切り警戒されていた。

 それはそうか。こんな辺鄙へんぴな村にいきなり騎士の格好をした人間がたった一人で現れれば、何事かと思うだろう。


(しまったな······衣装を替えるんだった。フェリオスのことで頭が一杯で、そこまで気が回らなかった)


 今更仕方がないので、単刀直入に切り出した。


「事情があって旅の途中なのだが、少し水と食料を分けて貰えないだろうか。勿論、代金は支払う」


 そう言うと、村長は拍子抜けしたようなホッとしたような複雑な顔をしていた。


「それが済んだら、直ぐにでも出て行く。どうだろうか?」


 その一言が決め手となって、村長が折れた。


「分かりました。お分けしますだ」

「済まない、助かる」




 そして今、目の前には米俵や野菜等が、山のようにうず高く積まれている。流石にこれは引くぐらいの量だった。

 どうしてこうなったかと言うと。


 代金の話になった時、この国の通貨事情を知らなかった為、ゲーム時の貨幣ゴルド(まんま金貨だった)を1枚出して、


「これは使えるか?」


 と訊くと。


「金貨なんか貰っても釣りが出せねぇだよ!?」


 と驚かれたのだ。どうやら、かなりの上位貨幣らしい。

 やっぱりこのパターンか、と思いつつ、少々無理はあるが別の大陸から来たということにして、この国の(恐らくはこの世界の、だろうが)貨幣レートを訊いてみたのだ。

 大方の予想通り、白金貨>金貨>銀貨>銅貨で100枚ごとのレートという大雑把なものだった。

 銅貨1枚で大体パン1個程度ということらしいので、およそ100円位の価値だろうか。とすると、金貨は100万円相当になるのか······。確かに、食料を買い付けるには大き過ぎる金額だ。

 とは言え、今手持ちはこの金貨しかない。それも、ゲームでコツコツ貯めた2000万Gゴルド程······。20兆って何だよ、意味が分からん。どこの国家予算だ。もう色々お腹一杯で、食傷気味って感じだ。


「悪いが、今はそれしか無いんだ。釣りはいいから出せるだけ持って来てもらえるか?」


 但し無理はしなくていい、本当に余っている分だけで構わないと言い含めて、持って来てもらうことにしたのだ。

 幸いと言うか、今年は豊作だったらしく、余剰分は市場に出しても買い叩かれるだけなので、蓄えとして残してあったということで、むしろ渡りに船だったようだ。

 そう言う事情もあってか、村人達は嬉々として、まるで貢ぎ物でも捧げるように作物を運び出して来た。今目の前に積まれた山のような食料は、つまりはそういうことだったのだ。



「本当に、これ全て持って行きなさるんで?」


 村長が心配して訊いてきた。馬一頭で運べる量ではないからだ。


「そちらこそ、本当に無理はしていないんだな?」

「へえ、どうせ残して置いても腐らせるだけですだ。持って行ってもらった方が助かりますだ」

「なら問題ない」


 そう答えて、山のように積まれた食料と水の入った樽(村人達が井戸から詰めてくれた)を、収納インベントリに収め始める。次から次へと消えていく様子に、村人達は顎が外れんばかりに驚いていた。


「アイテムパック持ちだっただか······」


 村長だけが何か知っているようで、驚いてはいるが村人達程ではなかった。


(アイテムパック?何だそれは。アイテムボックスみたいなものか?)


 聞いたことの無い言葉に首を傾げる。だがこれで、レアではあっても、収納に関するスキルか、若しくはアイテムらしきものが存在することは分かった。だからと言って、大っぴらにして良いものでもなさそうだが。

 後、調味料に関しても訊いてみたところ、そこまで貴重なものでもないらしく、小さな村なので量は無かったが、塩と胡椒を多少分けてもらえた。それなりの街に行けば、普通に手に入るとのことだ。



 水と食料を全て収め終え、あんぐりとした村人達を尻目に、村長に礼を言って村を後にした。その時、村人達が総出で見送りをしてくれたのだが、まぁ喜ばれたのなら何よりだ。

 村長の話によると、此処から更に南に行くと湖が在り、その湖畔にユバというそこそこ大きい街が在るらしい。馬車でも1週間程掛かると言っていたが、空からならもっと早いだろう。ずっと手前で降りたりとか、工夫は必要だが。

 取り敢えずは、そのユバの街に向かってみることにしよう。


(まずは両替が急務だな)


 金貨のままでは使いづらいことが分かった。スーパーに100万持って買い物に行くようなものだからな。日常では銀貨があれば十分だろう。

 それと、情報と言ったらギルドか。冒険者ギルドのようなものがあればいいが。尤も、余計なトラブルとも遭いそうな気もするな······。考えるのはよそう。

 実は、何より楽しみなことがあった。その街には温泉が有るらしいのだ。


(湯船に浸かって一杯、うん、楽しみだ)


 今から期待に胸を膨らませ、意気揚々とフェリオスとの旅路を進むのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ