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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 邂逅編
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第8話 白き飛竜フェリオス

 神か悪魔かと言ったら、おそらく悪魔の仕業に違いない。それも悪戯好きの小悪魔、と言ったたぐいのものだ。悪意が有るかは別として、運命を弄ぶのは好きなようだ。

 元のゲームDFダークファンタジアVIIには【勇者】というクラスはない。それどころか、英雄は居ても勇者などと言う存在もその言葉すらも出て来ていない。当然ながら伝説の類もなかった。それがこのタイミングで現れたということは───。


「やはり迂闊だったか······」


 如何にも勇者的な行動をしてしまったことが原因なのだろう。英雄願望などないし善人ぶるつもりもないが、見てしまった以上見過ごすことも出来ない。見捨てる選択肢は最初から無かった。こんな世界だ、意に沿わぬ選択を強いられる場面もあるかも知れない。だからこそ、それ以外ではなるべく人間らしい選択をしていきたいと思うのだ。




「勇者殿───っ!」


 クレハ達が此方に駆け寄って来る。

 二人共、満面の笑みだ。何故かサギリは顔を赤らめているが。期待に満ちた視線が容赦なく突き刺さる。


(選択としては間違ってなかった······よな?)


 二人の笑顔を見れば仕方の無いことだったと言えるだろう。ならば答えは一つ。


「三十六計逃げるに如かず、だ」


 情報は惜しいが手は幾らでもある。今は思うように動ける自由の方が重要だった。

 収納インベントリから召喚ホイッスルを取り出す。無音の笛を吹き鳴らすと、虚空から騎乗ライドモンスターが現れる。


「なっ───飛竜だと!?」


 クレハが驚愕の声を上げて立ち止まり、上空を見上げていた。そこに現れたのはゲームでも相棒だった純白の飛竜。


「フェリオス!」


 その名を呼ぶと、白き飛竜フェリオスは急降下して此方に向かって来る。


「クァァァァ───ッッ!」


 嬉し気に鳴くフェリオスに地面すれすれで飛び乗り、とどまることなくそのまま又上空へと舞い上がる。


「あっ、勇者殿!?」


 此方の意図に気付いたのだろう。クレハ達が焦った様子で追い掛けて来た。


「お待ち下され───っ!」


【瞬動】は高低には対応出来ない上に、既にもう可成りの高さまで来ている。元より地上を走る馬よりも遥かに速いのだ。【韋駄天】をもってしても神速の飛竜には追い着ける道理がなかった。

 ちらっと振り返ると、諦めて項垂れているクレハ達が小さく見えた。


「悪いな、いずれまた会うこともあるさ」


 あの二人とは何故か縁があるような気がしていた。と言うか、あの様子だときっと探そうとするに違いない。だが今は捕まる訳にはいかないのだ。若干の罪悪感を振り切って、更に高く飛び続ける。




「おお」


 砦を飛び越え、眼前に広がる雲一つ無い蒼天に思わず溜め息が漏れる。アーメットを外し、風の匂いや感触を肌で味わう。開放感も手伝ってか、この上なく空気が美味うまい。

 眼下には果てしなく続く平原、後方には少し前まで彷徨さまよっていた大森林と、その先にそびえる雄大な山脈。世界の広さを改めて思い知り、感慨に耽っていると。

 フェリオスが長い首を此方に向けてつついて来た。


「クァッ、クァッ」


 何やら抗議の声を上げて尚もつついて来る。


「!───分かった分かった、悪かったよ忘れてて」


 どうやら、呼び出すのが遅かったことに拗ねているようだ。

 ゲームでは別に意思の疎通とかあった訳ではない。戦闘も一緒に出来たが、攻撃、防御、回復等の簡単な優先順位を決めておくだけで、後は基本AI任せだ。乗り物としても、結局は自分が操作していた訳だしな。

 確かにレアな白竜だったので気に入っていたし、卵から育てただけあって愛着もあった。それが今、こうして人格(竜格?)ある生き物として目の前に居るのは何とも不思議な感覚だ。


(こいつ、ゲームの時の記憶とか有るのかね?)


「クワッ」

「あ、こら、かじるなっ」


 上の空だったのが気に入らなかったのか、人の頭を齧って来た。甘噛み程度だがそこは飛竜、普通の人間だったら血だらけになっているところだ。


「分かったから。後で美味い物でも食わせてやるから勘弁な」

「クァア?」


 本当?とでも言うように嬉しそうに一鳴きすると、ようやく前を向いた。


「全く······」


 だが、これで孤独な一人旅でなくなったのは有難い。いくらチートな能力が有ろうと、連れが居ないのは寂しいものだ。


「これからよろしく頼むぜ」


 フェリオスの首を優しく撫でながら言う。


「クァアアア───ッ!」


 任せろ!と鳴く声が高らかに大空に響き渡る。

 やるべきことや知るべきこと、考えるべきことは山程有って、これからのことを考えると頭が痛いが。

 今暫くは、この大空の散歩を楽しむとしようか。





「行ってしまわれましたね······」

「······ああ」


 クレハ達は、白夜が飛び去った方角を見つめて呆然と立ち尽くしていた。


「何故お逃げになられたのでしょうか?」


 サギリが訊ねると、クレハは悲痛な面持ちで声を絞り出す。


「······勇者が現れたとなれば、何処の国も放ってはおくまい。それは我が国とて同じこと。おそらくあの御方は、国に取り込まれることを恐れたのだろう。目立つことを好まれぬようでもあった」

「そう言えば、ずっと兜で顔を隠しておられましたね」


 サギリの言葉に、何やら考え込み始めるクレハ。


「クレハ様?如何いかがされましたか?」

「兜······そうか兜か」

「え?······あっ」


 サギリも何かに気付いたようだ。


「あの兜の形はミセリアだ。ミセリアの騎士を探すのだ、サギリ」


 DFVllでは種族によってアーメット等の頭装備の形状が異なる場合がある。エルフやハーフリングは尖った耳、魔族や竜人族なら角というように、その特徴に合わせて頭装備の形状も変化するのだ。当然、ミセリアやウォルド(犬耳)等の獣人族の場合も同様だ。白夜は顔は隠しても、その辺りのことはすっかり忘れていた。


「だが良いか、これは国の為ではない。あの御方の望まぬ結果にしてはならぬ。極力秘密裏に事を運ぶのだ」

「仰せのままに」

「発見しても接触は禁ずる。動向を探って逐一報告せよ」

「御意、早速手配致します」


 シュバッとサギリはその場から姿を消す。


「命を救って頂いたのに礼も満足に出来ていないのだ。何より、その御名が知りたい······。逃がしはしませんぞ、勇者殿」


 一人決意を固めるクレハだったが。その時───。



「クレハ様ぁ~~~!」


 一頭の騎馬が駆け寄って来る。二人掛けで、手綱を取る騎士の後ろには女性が乗っていた。

 ラナ・リーアシュタットだった。


「ラナ殿!?」


 クレハの近くまで来て騎馬が止まると、騎士の手を借りてラナが降りて来る。


「敵が退いたとは言え、まだ危険です。何故なにゆえこのような場所へ······?」


 クレハはそう言いつつ、お付きの騎士の方へチラリと非難の視線を向ける。


「自分は止めたのですが、ラナ様がどうしてもとおっしゃられて致し方なく······申し訳ありません」


 お付きの女性騎士アルマが、バツが悪そうに謝罪する。


「ごめんなさい、私が無理を言ったのですわぁ。───それで、あの方はどちらに?」

「あの方?もしや勇者殿のことか」

「まぁ!勇者様ですの!?」


 自分の予感が間違っていなかったことに歓喜の声を上げるラナ。

 あれ程の魔力、勇者ならば納得の出来る話だ。クレハも何故分かったのかとは訊かなかった。クレハには魔力を感知する能力は無いが、ラナなら何かを感じ取っていたとしても不思議はない。


「それで、その勇者様は今どちらに?」

「それが······もう行ってしまわれました」

「まぁ!」


 一転して落胆の表情を見せるラナ。


「もう、いらっしゃらないんですの?残念ですわぁ······一目お会いしてみたかったんですのに」

 

 ラナの恋する乙女のような物言いに、おや?と言う顔をするクレハ。


(このむすめも勇者に魅入られたか。実際に会った訳でもないのに、良くここまで思い入れられるものだ。魔力を感じ取れない自分には理解わからない話だな)


「せめてお名前を。その方のお名前は何て仰るんですの?」

「あ──実はその······我々を助けた後、名も告げずに去ってしまわれて······」


 クレハにとって、それは痛恨の極みだった。礼も言えず名も聞けずでは、武人としての沽券に関わる問題だ。尤も正体を隠そうとしていたくらいだ、訊いたところで素直に教えてくれたかは疑問だが。


「そうなのですかぁ······奥床しい方でいらしたのね···」

「っ!?」


 クレハは思わず吹き出しそうになった。


(そう言う捉え方もあるのだな。確かに思慮深く、品格ある佇まいはしていたが)


 ラナが頬を膨らませて睨んでいるのに気付き、コホンと軽く咳払いして。


「いや失礼。兎も角、戦闘は終わりました。一先ず城塞に戻りましょう」

 

 ラナ達を促すと、クレハも自らの騎馬を呼び出して乗り込む。そして、まだ不満気なラナに向かって言う。


「後程ゆっくりと、勇者殿の話を聞かせて差し上げますよ」

「!───はいっ、是非!」


 途端に満面の笑みとなった。


(現金なものだ)


 苦笑いするクレハ。

 撤退したとは言え、また何時いつ敵の襲撃があるか分からない。死傷者の確認とその対応、補給や部隊の再編等、やらなければならない事は山積みだった。まともに時間が取れるのは夜遅くなってからだろう。それでも、この娘は押し掛けて来そうだが。

 サギリが抜かりなく撤収の指示を出していた為、兵士達も列を成して帰還の途に就いていた。

 その中を進みながら、クレハは独りちる。


「長い夜になりそうだ······」

 

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