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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 邂逅編
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第7話 勇者降臨

「ん?」


 その時白夜は、何かが猛スピードで近付いて来る気配に気付いた。見ると激しい土煙を巻き上げ、此方に向かって爆進して来る何か・・がいた。


「ヌオオオオォォォッッ!」


 どうやら羅刹族のようだが、良く見るとその後ろからクレハ達が追って来ているのが見える。


「何だ、ありゃあ?」

「お気をつけ下されっ、勇者・・殿!」


 クレハが叫ぶ。

 何やら聞き捨てならない言葉が聞こえて来た気がするが、それどころではなかった。瞬く間に接近してきた羅刹族撞鬼ドウキが、その手の長槍を白夜に向けて突進して来たのだ。


「おっと」


 白夜は聖剣を抜きつつ後方に飛び退く。

 直後に白夜の居た場所を長槍が抉り、勢い余って地面に突き刺さる。まるで爆薬でも仕込んでいるかのように地面が爆砕した。金剛鬼の金棒に勝るとも劣らない威力だ。

 その撞鬼は、金剛鬼のむくろを見た途端固まっていた。

 様子を伺っていると、クレハとサギリが【瞬動】で白夜の横に現れた。


「一体どういうことだ?」


 白夜は撞鬼から目を離さずに訊ねる。


「それが······突然何かを叫んだと思ったら、急に走り出したのです」


 クレハの代わりにサギリが答えた。


「我々も訳が判らずに後を追って来たのですが······」


 仲間の死を感じて駆けつけて来たとでも言うのか?白夜は胡乱うろん気だが、事実こうやって来ているのだ。魔物にしか理解らない何かがあるのかも知れない。

 クレハ達は撞鬼の視線の先に目を向ける。


「金剛鬼を倒されたのだな。流石は勇者殿」

「ちょっと待て、その勇者殿ってのは何だ?」


 白夜が訊くと、逆に二人共きょとんとした顔をしていた。この人は何を言っているんだ的な顔をされ、若干イラっとする白夜。


「勇者とはあらゆるスキルと魔法を使いこなすと言われている人類の救世主のことです。ご存じなのではないですか?」


 サギリがさも当然のように言う。


「ご存じないし、そんな者でもない」


 白夜はきっぱりと否定するが、二人は信じていない顔だ。


「ちっ、まあいい。そんなことより、そろそろ来るぞ」


 撞鬼が身体を震わせ、唸り始めていた。


「ォォォォ、ヨクモ······ヨクモォ······」

「?」

「ヨクモアニジャヲォォォッッ!」


 雄叫びを上げて猛然と白夜に襲い掛かって来た。


(兄者?こいつら兄弟か?)


 魔物にも肉親の情愛等というものがあるのか。兄弟の繋がりが相手の死を報せたとでも言うのだろうか。白夜には眉唾ものだったが。


「二人共離れていろ」


 クレハ達を下がらせて白夜は前に出る。

 撞鬼はその名のごとく烈火のきを繰り出して来る。それを盾で往なした白夜はそのまま一太刀浴びせようとするも、想像以上に引き戻しが速く、二撃目を剣で受けざるを得なかった。そこで終わりではなく、続いて繰り出された三撃目を身体を捻って躱した。その勢いに押され、つい間合いを離してしまう。


「三段突きってやつか」


 体勢を整えながら、白夜は思わず感心していた。


(金剛鬼より強いんじゃないか?)


 スピードは間違いなくこっちが上だろう。無論それだけで強さは計れないが、技量的には金剛鬼を越えているように思える。レベルと単純な膂力りょりょくならば金剛鬼に軍配が上がるが。


「勇者殿っ!」


 苦戦しているように見えたのか、クレハの声が飛ぶ。


(勇者じゃないっての。だがまぁ油断してたのも確かだ。今更遊ぶ理由もないしな)


 元より、恨みや憎しみで動くような奴を生かして帰すつもりもない。

 白夜は早々に決着をつけることにした。




「ウリャウリャウリャウリャァァッ!」


 三段どころではない怒濤の連突きで攻め立てて来る撞鬼。

 しかし白夜は残像を纏ってゆらゆらと動き、まとを絞らせない回避スキル【陽炎かげろう】でそれをことごとく躱し切る。そして連突きの終わり際、戻りの瞬間を狙って10%の全力で踏み込んだ。


「っ!?」


 出力10%とは言え半ば本気で斬り上げたにも拘わらず、腕ごと叩き斬るはずの攻撃は長槍の柄を切ったにとどまった。引き戻しの最中、咄嗟に後ろに跳んだようだ。動作の途中で動きを切り替える等、並大抵の瞬発力じゃない。


(こいつはマジでやるな)


 金剛鬼は10%でも圧倒出来ていたのだから、その技量は推して知るべしだろう。こんな相手を皇国軍はどうやって抑えていたのか気になるところだ。


(益々逃がす訳にはいかなくなったな)


 武器えものを失った撞鬼は悔し気に歯噛みしながら一瞬迷いの表情を見せたが、直ぐに懐から何かの骨で出来たような笛を取り出して高らかに吹き鳴らした。

 すると、まとまりも何もなく暴れ回っていた羅刹兵達が一斉に退き始めたのだ。撤退の合図だったようだ。


(判断も早い。指揮官としても優秀か)


 撞鬼は更に別の笛を取り出して吹くが、今度は音がしない。犬笛のようなものかも知れない。


「あれは······!?」


 何処からともなく二足歩行の小型の竜が現れる。

 騎乗ライドモンスター。

 飼い慣らしたモンスターを騎乗用として扱える、ゲームでもお馴染みのシステムだ。


(あれがあったのを忘れていたか······)


 白夜はバツの悪い顔になる。もっと早く思い出していたら、森からの脱出もずっと楽になっていただろうから。




 撞鬼は呼び出した騎竜に跨がり、脱兎のごとく駆け出した。


「コノクツジョクハワスレンゾッ!オボエテイロッ」


 どこの悪役だ、というような捨て台詞を吐く撞鬼。

 覚えているのはお前の方だろう、と内心で突っ込みつつ、白夜は出力を100%に戻して【韋駄天】全力ダッシュからの【瞬動】で逃走する撞鬼の前に出る。


「ナニィィ!?」

「何都合のいこと言っている。逃がす訳ないだろう」


 この手の話の展開では、見す見す逃がした敵が、後々自分や味方の絶体絶命の危機ピンチを招いたりするものと相場が決まっている。余計な伏線はいらないのだ。

 既に方向転換は不可能と判断した撞鬼は、全速力で駆け抜けることを選択した。

 微動だにしない白夜とすれ違う瞬間。


「!───チクショウッ······」


 すれ違い様に放った【居合いスラッシュ】が、騎竜ごと撞鬼の首を跳ねる。惰性で十数m進んだ後に崩れ落ちる撞鬼。白夜は振り返りもせずに聖剣を鞘に納める。


態々わざわざ禍根を残すようなマネすると思うか」




 一部始終を見ていたクレハ達は心底シビレていた。

 その強さもることながら、非情なまでに冷静で淡々と事を運ぶ白夜の姿に。

 勇者とはくあるものか、と。

 それは大いなる勘違いではあるのだが、クレハ達にとっては見たことが全て。そして理屈でなく感じたことが重要なのだ。


「私は、私達は真に仕えるべき相手を見つけたのやも知れぬな······」


 クレハがポツリと呟く。それに共感しながらもサギリはサギリで、抱き抱えられた時のことを思い出して顔を赤らめていた。もしこの場に白夜が居たなら思ったかも知れない。


「大丈夫か、この国の軍は」と。



 一方、撤退中の羅刹軍の中。


「オノレオノレ──ッ!アニジャタチ・・ノウラミ、イツカカナラズハラスゾッ、マッテイロッ!」


 最後の名持ち、斬鬼ザンキいきり立っていた。

 禍根は残っていたようだ。


 

 本人の預かり知らぬところで三人と1体から標的ターゲット認定されていることなど夢にも思っていない白夜は、この時またしても更なる啓示を受けていた。

 今回追加されたのはスキルではなかった。


「マジか······」


 増えていたのは新たなクラス。


「勇者」だった。


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