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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 邂逅編
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第6話 金剛鬼

 ナノワ皇国クラナギ領の軍事拠点、カガチ城塞。

 開かれた平原に在る為に要害としてより哨戒としての役割が大きく、長く伸びた監視塔がその特徴となっていた。最大収容兵員は1万程と規模こそ然程さほど大きくないものの、周囲を幅5m程の堀で囲まれ、全辺に忍び返しを備えた攻めにくい造りとなっている。因みに和のイメージが強いナノワ皇国だが、この城塞は日本の城のような姿はしておらず、シンプルな石造りの砦である。


 

 白夜が戦闘に介入し始めた頃、城塞内は増援やら負傷者の対応やらで大童おおわらわの様子だった。その一角で負傷者の手当てをしている一人の女性がいた。

 名をラナ・リーアシュタットと言う。

 白夜は回復魔法の使い手が居ないことを不思議に思っていたようだが、実は居ない訳ではなかった。本来神官や司祭等の回復魔法の使い手は戦闘要員ではない為、例え戦場まで随行したとしても前線まで出ることはなく、後方に待機していたり砦詰めになったりするのが普通なのである。

 ラナも神官として皇国軍に随行して来た一人だった。


「あらぁ?この魔力は······」


 ラナは思わず治療の手を止めて首を傾げる。

 この時ラナは【魔力感知】のスキルで白夜の魔力を感じ取っていた。かなりの距離が有るにも拘わらず感知出来たのは、ラナの優秀さもあるが、それだけ白夜の魔力が大きかった所為でもあった。


「なんて力強い回復魔力なのかしらぁ······それにとても暖かい······」


 ラナはおっとりした口調で、心なし熱に浮かされたような上気した表情でうっとりしていた。


「こんな魔力はお祖父様、いえ教皇様からだって感じたことない······一体、どなたなのかしらぁ···?」

 

 羅刹族は元より魔法を使えない。今回随行した皇国軍にも、これ程の魔力の持ち主は居なかったはずだ。少なくともラナの知る限りは。

 ラナ・リーアシュタットはナノワ皇国の人間ではない。友好国である隣国のトルメニア神聖国から修行の名目で出向して来た身であった。トルメニア神聖国は女神ファナリアを信仰する宗教国家で、その布教は皇国内にも広く及んでいる。

 ラナの祖父リーアシュタット枢機卿は現教皇とも親交の深い聖教庁の重鎮であり、ラナ自身も幼い頃からその才能を高く評価され将来を嘱望されて来た。今はまだ神官の身だが、出向を終えて帰国し転職クラスチェンジの儀を執り行えば、司祭となることが決まっている。


(お会いしてみたい······)


 まだ16歳の少女であるラナは、今まで出会ったことのない感覚に恋にも似た想いを抱き、白夜という存在に興味津々となっていた。

 しかし今はまだ運命の歯車は交わらない。二人が出会うのはもっと先の話となる。




(さて、格好カッコつけてはみたものの、どうするかな)


 白夜は金剛鬼を前にして暫し考える。とは言っても【高速思考】スキルが有る為、本の一瞬のことだが。

 唯倒すだけなら直ぐにでも片がつく。白夜にとっては岩鬼も金剛鬼も大差ない相手だ。【金剛】のスキルは実力が伯仲していれば驚異となるが、単に防御力が倍になるだけで物理攻撃無効という訳ではない。それ以上の力をもって攻撃すれば簡単に貫けるのだ。

 尤も例え物理無効でも、それ以外の攻撃方法は幾らでも有るが。


(ここは一つ実験させてもらうとしよう)


 実は先程【サークル・ウェーブ】を放った後に、また例の啓示が有ったのだ。今回新たに加わったスキルは【出力調整】。攻撃力(魔法攻撃力)や防御力(魔法防御力)を5%刻みで調節が可能となる。各ステータスも変更することは出来るが、バランス取りが難しく今は弄らない方が無難だろう。そう白夜は考えた。


(防御力を下げる意味が理解わからないな。取り敢えず攻撃力を50%まで下げてみるか)



「ヌオリャアァァッ!」


 金剛鬼が渾身の力で金棒を振り下ろして来た。

 白夜はそれに剣を合わせるが、敢えて打ち返さずに受けるにとどめた。受けた感触から力の差を感じ取る為だ。


(まだまだ余裕が有りそうだな。30%にしてみるか)


 その後何度か打ち合って徐々に出力を下げていき、最終的に5%でほぼ拮抗した。


(て言うか、これ以上は下げられないし)


 0%には出来ないので当然ではあるが。

 正直、20分の1まで下げなければならなかったことに白夜は愕然としていた。もし【出力調整】を覚えていなかったら、普段の生活にも支障をきたしていたかもしれないのだ。


(もう普段は5%のままでいいな)


 金剛鬼以上の存在がそうそう往来に居ることもないだろう。



 一方、唯受けるだけの白夜に、金剛鬼は業を煮やし始めていた。


「ウヌゥッ、キサマナゼホンキヲダサンッ!?」


 それに対し、白夜はシレっと返す。


「本気を出したら直ぐ終わってしまうだろ」

「オノレッ!グロウスルノカッ!」


 金剛鬼の怒りの一撃を白夜が受け止めた瞬間、金剛鬼は切り札の咆哮を放つ。


「カアァァッッッ───ッ!」


 だが白夜は涼しい顔で。


「悪いが、それは効かないんでな」

「ナニッ!?」


 同時に【シールド・バッシュ】で金剛鬼を弾き飛ばす。


「グワッ!」


 のけぞり、たたらを踏む金剛鬼。

 金縛りの正体は咆哮に付加されたスタン効果だ。スタンは一定時間(とは言っても本の数秒だが)相手の動きを止める状態異常で、この効果を持つスキルや魔法でやっかいな特殊技や魔法等の出掛かりを止めてキャンセルさせる、と言った使い方が良くされる。但し、元から耐性があったり、何度も使い過ぎて蓄積耐性が付いたりすると効果が無くなるので、使いどころが難しかったりもするのだが。

 白夜はレベルが上がった所為か、全ての状態異常耐性がほぼMAXになっていた為、効果がなかったという訳だ。


「分かった、もういいわ」

「ナンダトッ!?」


 金剛鬼は猛り狂ったように連打を浴びせ、白夜に反撃のいとまを与えぬとばかりに怒濤の猛攻に出るが、白夜はその全てを巧みに捌いて、そして最後に。


「もう実験は終わりだって言ったんだよっ!」

「ガッッ!」


 出力を10%まで上げ、金棒を思いきり跳ね上げる。白夜もようやく理解ってきたのだが、【高速思考】の本領は戦闘中でのこういったメニュー操作にあるようだ。慣れて来るとメニューボードを開く必要すらなく、思考するだけで調整が可能だった。

 金剛鬼は跳ね上げられた金棒の勢いで後ろに仰け反り、大きく体勢を崩す。その隙に白夜は、聖剣に魔力を注ぎ始めた。


「最後にもう一つ試させてもらうぞ」


 次第に聖剣に魔力が集中し、その輝きを増していく。

 魔力を持たない羅刹族だが、白夜の剣気にただならぬものを感じたのだろう。金剛鬼はそれを阻止しようと無理矢理体勢を立て直し、死に物狂いで白夜に向かって行った。


「サセンッ!」

「もう遅い」


 金剛鬼が金棒を振りかぶった時、既に白夜の発動体勢は整っていた。間髪入れず技を繰り出す。


「ラスト・クルセード!」


 解き放たれた光の斬撃が金剛鬼の目を焼き、同時にその身に最期をもたらす。

 聖騎士パラディンの最大奥義【ラスト・クルセード】は、その名の通り相手を十字に切り裂く片手剣武器ウェポンスキルだ。光属性の魔法剣であり、威力は絶大だがその魔力を込めるのに若干の溜めが必要な為、実戦ではいささか使いづらい。これは忍者の【破軍零式・阿修羅炎舞】も含めた奥義系全般に言えることでもあるが。


「バッ、バカナ······オレノコンゴウガ······」


 金剛鬼の身体が縦と横にズレていく。


「残念だったな。そいつは物理防御無効だ」


 白夜は聖剣を鞘に納めながら、崩れ落ちる金剛鬼を見ていた。


(普通に斬ることも出来た、とは言わぬが花か)


 血の海に沈んだ金剛鬼を一瞥し、ふと自分の未来にも思いを馳せる。レベル1000とは言っても不死身という訳ではないだろう。転んだだけでも痛みを感じるのだ。戦闘では無敵に見えても、高い所から落ちれば死ぬ可能性だってある。試してみようとは思わないが。

 改めてこの世界が命の危険に満ちていることを思い知り、己の慢心を戒める白夜だった。



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