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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 邂逅編
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第5話 無双

(危なっ!)


【瞬動】でギリギリ割って入り、ボス鬼の攻撃と投げつけられた岩石を受け止めたのだが、内心冷や汗ものだった。間一髪で颯爽と登場とか傍目にはさぞ劇的に見えるだろうが、当事者にとっては心臓に悪いことこの上ない。余裕があるに越したことはないのだ。


「キサマ、ナニモノダッ」


(うおっ、喋った!?)


 ボス鬼、金剛鬼の誰何すいかの声に驚く。

 この世界の魔物は喋るのがデフォルトなのか?待てよ、【自動翻訳】の所為せいか?ああ、でもオークとかは喋ってなかったな。それに、他の雑魚羅刹共は奇声を発するだけで喋っている様子はない。もしかしてレベルとか上がって知力がある程度高くなると喋れるようになるとか?案外そうかも知れない。

 間近で見る羅刹族は正しく鬼そのものだった。額の両側から伸びる角、下顎から突き出た2本の牙、筋骨隆々の3mを越える体躯に如何いかにもな金棒。その凶悪な面構えと、苦しげな表情の可憐な少女を見比べて。


(やっぱ、こっちが悪党だな)


 独断と偏見で決めつけ、金剛鬼に言い放つ。


「女を苛める奴に名乗る名はないな」


 そして取り敢えず蹴っておくと。


「ゴワッッ───ッッ!?」


 思いの外派手に吹っ飛んで行った。


(おっと、まだ力の加減がうまく出来ないな。まぁいいか)


 それよりも彼女達の治療が先だ。特に女将軍の方がヤバそうだ。

 腰が抜けたようにヘタり込む忍装束の少女サギリを抱える。随分と軽いな。いや、自分の力が強いのか。


「え?ちょっ······」


 若干の非難の声を無視して、そのまま女将軍のいる方へと大きく跳躍する。しつこく投げつけられた岩石をかわしつつ、女将軍クレハの傍らに降り立ちサギリを解放すると、彼女はクレハの元に駆け寄り、互いの安否を確認し合う。


「お主は一体······?」


 クレハは驚きと警戒が入り交じった様な戸惑いの表情で此方を見ていた。予想以上の美人ではあったが、その左腕は使い物にならない程ズタズタで、痛みを堪える顔が余計に痛々しい。

 問い掛けには答えず、先ずは魔法を唱える。


「グランヒール」


 上位の範囲回復魔法【グランヒール】。

 カテゴリーとしては神聖魔法なのだが、本来聖騎士パラディンには使えないものだ。司祭をサブかアンダーに付けることで使えるようになる。範囲で味方に作用する魔法は原則としてPTパーティメンバーに限られていた為、効果があるか不安だったのだが、PTの定義が曖昧なこの世界では、どうやら任意に効果を及ぼす相手を選べるようだ。

 因みにだが、最高位の【グローバルヒール】というものもあるが、これはメインクラスが司祭の時のみ使用可能だ。スキルや魔法の中には、そういった使用制限の有るものも幾つか存在する。


「「!?」」


 自分の身体が見る見る回復していくことに驚く二人。最も酷かったクレハの左腕も、傷一つ残らず綺麗に元通りになっていた。破壊された装備は元に戻らないが。


(何でこんなに驚いてるんだ?)


 聖騎士パラディンなのだから回復魔法くらい使うだろうに。それとも【グランヒール】を使ったからか?それだってサブ次第でどうにでもなるものだ。それにしても、この軍隊には回復魔法の使い手の一人や二人居ないのかね?

 内心で首を傾げていると、何やら二人で目配せし合って首を振ったりしている。


(何なんだ?一体······)


 此方を見て思案を巡らせているようだが、敵か味方か計りかねているといったところか?


(敵じゃないと思うんだがなぁ)


 思わぬ急展開について行けてないのかも知れないが、せめて礼くらい言って欲しいものだ。まぁ此方も個人的都合から勝手に介入した訳だし、情報さえ手に入ればそれでいいのだけれど。

 別に非難がましい目をしていた訳でもないのだが(アーメットで元々見えないだろうが)、そんな心の声が聞こえたのかクレハが何かを言い掛けて。


「!」


 突然身構える。

 岩鬼ガンキがまた岩を投げつけてきていたのだ。

 此方でも分かっていたので特に慌てるでもなく、動こうとした二人を制してスキルを発動させる。


「プロテクション・ウォール」


 瞬時に三人を取り囲むように耐物理障壁が展開する。

 この【プロテクション・ウォール】はプレイヤーのVIT値に依存する為、レベル1000の今ではとんでもない強度となっていた。当然ながらレベル70程度の攻撃が通用するはずもなく、投げつけられた岩石は障壁に阻まれてあっさりと弾け飛ぶ。

 そして案の定、二人はこれでもかというくらい呆気に取られていた。それはそうだろう。この【プロテクション・ウォール】は本来、耐物理と銘打っているように物理攻撃無効というものではない。レベル99時のVIT値では3~5割程度のダメージ軽減が精々だったのである。10倍以上のVIT値となった現状では、対物理に於いてはほぼ無敵と言ってもいいだろう。

 因みに耐魔法障壁の【マジック・シェル】というのもあるが、見たところ羅刹族は物理特化の種族らしい(飽くまで所見ではだが)ので、今回は必要無さそうだ。

 それにしても。


「いい加減、鬱陶しいな」


 生意気にも悔し気に地団駄を踏んでいる岩鬼ガンキを見据えて、取り敢えずあいつから片付けることにした。


「そこを動くなよ。この中に居れば安全だからな」


 唖然とした様子の二人にそう言い放ち、即座に【瞬動】でその場を離れる。

 一瞬にして20m程離れた所に居た岩鬼の眼前に現れると、岩鬼は驚いたと言うより呆けた顔をしており、一切の反応も許さずに【瞬動】からの勢いのまま剣を振り抜いて後方に流れる。


(よしっ、上手くいった)


 思わず北叟ほくそ笑んでしまったが、最初に【韋駄天】を使った時には上手く止まれなかったのに、先程割って入る時にはきっちり止まれたからくりは、実は【瞬動】にある。河を渡った際に気付いたのだが、【瞬動】には転移中の運動エネルギーを0に出来るという特性があったのだ。それだけでなく、慣れればある程度の勢いを残したりという調節も可能なようだ。今回は【韋駄天】を使っていた訳ではないが、試しにやってみてそれが上手くいったという訳だ。

 岩鬼は、おそらく何をされたかも理解わかっていないだろう。大昔の剣の達人はその太刀筋の鋭さ故に、相手に斬られたことすら気付かせなかった、と言う話を良く聞くが、それと同じことが起こっていた。

 数瞬の間の後、両断された上半身がずり落ち、岩鬼は自分が死んだことにも気付かずに絶命した。


「うえぇ······」


 血の海に臓物を撒き散らした岩鬼を見て、思わず顔をしかめる。

 だが魔物とは言え、言葉を話す生物を殺したことに対する忌避感というものは余り感じなかった。最初にオークを倒してからこっち、ずっと不思議に思っていたのだが、どうも日本人としての命を奪うことへの倫理観と言った根元的なものが、この身体と共に作り替えられているような、そんな気さえしている。自分を此方に呼んだ何者かの思惑かは分からないが、今考えても仕方の無いことだし、特に悪意は感じていないので気にしないことにした。おそらく、この世界で生きて行くのに都合が良く、且つ必要なことなのだろう。取り敢えずはそう思っておこう。

 岩鬼を倒したことで周りが警戒するかと思いきや、逆に此方を標的と見定めて雑兵鬼共が群がって来た。


「コイツら、余り頭が良くないな。脳筋種族か」


 何の考えもなしに奇声を発して、只殴り掛かって来るだけだった。幹部級以下の連中は、オツムの出来がオーク辺りと大して変わりないようだ。やはり言葉を喋れる基準はINT値にあるのかも知れない。そう言えばゲームでも、現人神と呼ばれるその種族のトップクラスのNMネームド・モンスターは喋っていたな、とどうでもいいことを思い出す。


「サークル・ウェーブ!」


 羅刹兵が5体程範囲内に入って来たところで、技を繰り出す。

 片手剣用の武器ウェポンスキルである【サークル・ウェーブ】は、自身を中心に半径5mの円形範囲に衝撃波を放つ技なのだが、攻撃力は余り高くなく、集団戦に於いて敵対心ヘイトを集めるのに使うのが関の山だった。

 はずなのだが───。

 威力がおかしかった。


「マジか······」


 範囲内に居た羅刹共が残らず消し飛んでいた。それも跡形もなく。正直ドン引きだった。


「これは早いとこ手加減を覚えないと、この先まともに動けなくなるぞ······」


 ボヤキつつも、一向に怯むことなく懲りもせずにたかってくる雑兵共を、片っ端から蹴散らしていく。

 すると押される一方だった皇国兵達も、最初は突然の成り行きに戸惑っていたようだったが、どうやら味方だと理解わかるとにわかに活気付いてきた。何やら救世主だの勇者だのと此方を称える声が聞こえて来たが、面倒になりそうなので聞こえなかったことにした。持ち直したのなら良しとしよう。

 要所々々で羅刹兵を間引いていると、いつの間にか復活していた金剛鬼がクレハ達に向かって行くのが目に入った。【プロテクション・ウォール】の効果はまだ続いているので中に居れば安全なはずなのだが、どうやら大人しく護られるのを良しとする性質たちではないらしく、障壁から出て迎え撃とうとしていた。


「気の強いことだ」


 まあそうでなければ将軍(かどうかはまだ分からないが)なんてやってられないのだろうが。見たところこの世界のレベル差というのは、思った以上に隔たりが有るように感じられる。それだけでは決してないとは思うが、今のままではおそらく何度やっても結果は同じだろう。

 軽く溜め息を吐きつつ、また怪我でもされたら面倒なので割って入ることにした。


「!?」


【瞬動】でクレハの前に出ると、彼女は意表を突かれた顔をしていた。


「動くなと言ったろう?」

「しっ、しかし、このまま終わる訳にはいかぬのだ」


 周りに示しがつかないってか?それとも矜持の問題か。気持ちはわからないでもないが。


「それよりもいいのか?」

「え?」

「周りを良く見ろ。折角持ち直してるんだ、指揮官ならやるべきことがあるんじゃないか?」

 

 そう言うと、クレハはハッとした顔をして振り返った。


「サギリ!」

「はっ、クレハ様」


 クレハが呼ぶや否や、瞬きする間も空けずにサギリは目の前でひざまずいていた。【瞬動】を使ったんだろうが、上官の機微を察してあらかじめ始動していなければ出来ないタイミングだ。可愛らしい見た目とは裏腹に相当有能なようだ。


「撞鬼隊のほうはどうなっている」

「はっ、第四、第五、第八に加え、第十一隊も回しておりましたが、抑えるのが精一杯で膠着状態にありました」


 おいおい、そんな状態でほっぽって来たのか?指揮官としてそれはどうなんだと言いたい。どれだけ女将軍クレハが大好きなんだ。もっともクレハがやられていたら、どの道全軍崩壊は免れなかっただろうけど。

 クレハは、サギリの報告に暫し考える仕草を見せた後、毅然として答える。


「わかった、先に行け。私もすぐに行く」

「御意っ」


 即座にまた消えるサギリ。

 クレハは此方に向き直るが、口を開く前に遮って言う。


「いいから行け。こっちは任せろ」

かたじけない。この礼は後ほど必ず。───御免っ」


 そう言ってクレハも【瞬動】で消える。


「さて」


 振り返るとそこには金剛鬼が仁王立ちしていた。


「待っててくれるとは意外だな」

「オレガヨウガアルノハキサマノホウダッ、コケニシテクレタレイヲサセテモラウゾ!」


 クレハはもう眼中に無いってことか。その方が都合はいいが。

 聖剣を抜き放って金剛鬼へと構える。


「それじゃあ、始めるとしようか」

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