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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 蛇神教団編
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閑話2 アリシアの憂鬱

短いですが、初めての主人公以外の視点です。

 全く、何て人なんでしょうか。

 まさか蛇神まで倒してしまうなんて思いもよりませんでした。

 まあ、本人が言うには倒した訳ではないらしいのですが、そもそも曲がりなりにも神と呼ばれる存在と相対して、生き残っていられること自体とんでもないことなのですけどね。私は直接見た訳ではありませんが、本当に凄まじい闘いだったようです。

 蛇神ザハラク、十二柱神の一柱に数えられる存在を、形はどうあれ退けられる、それがどういうことなのか本人は理解わかっているのでしょうか。それ程の力を持つ者がどういった目で見られるのかを。いえ、理解ってはいるのでしょうね。勇者であることを隠そうとしていたくらいですし、出来るだけ目立たないようにという気構えも見受けられました。ですけど、それが上手くいっていたとはとても思えません。

 採集や討伐の常時依頼の報告の時もそうです。


「え、何かまずかったか?」


 大量の報告内容を見て此方が呆れた顔をした時、何故か意外そうな顔をしていました。

 自重という言葉の意味をちゃんと知っているのでしょうか。人並外れた洞察力と論理的思考の持ち主の割には、どこか抜けたところがあります。自分で思う程徹底出来ていないようです。どうにも先が思いやられますね。

 今回の事も出来るだけ情報が広がらないように手を打つつもりではいますが、人の口に戸板は立てられません。ある程度の噂が広まるのは避けられないでしょう。救いは、実際に蛇神の復活を見て知っているのが生け贄の少女達と暁の旅団の面々くらいだということ。それも一応口止めはしておいたので、他の囚われだった人々や冒険者達には、教団の討伐という建前で通っているはずです。幸いと言っては何ですが、今はギルド長が不在で報告書に関してもある程度操作するでっちあげることが可能ですし。こういう時、副ギルド長という肩書きは便利ですね。尤も、今のギルド長は曾ての弟子ですから、幾らでも黙らせるネタは有りますけど。

 問題は逃亡したと言う教団の一部、確か督戦隊でしたか。少し気にかかりますね。宗主が不在だったことも含めて、ジェイドさんの言う通り、確かにこれで終わりとは思えません。何を企んでいるのかはさっぱり判りませんが、良からぬことであるのは間違いないでしょうね。どうも胸騒ぎがします。何やら、壮大な計画の一端のような気がしてなりません。考え過ぎでしょうか。

 ともあれ、彼女が勇者であることは間違いないようですから、その存在が広まれば少なからずトラブルを呼び込むだろうことは疑いありません。有象無象は元より、権力者達にとっても勇者の力は利用する価値の高いものです。いえ、権力者達にこそ、その利用価値は計り知れないでしょうね。特に国家に携わる者達にとっては、一人で戦局をも左右出来る戦略兵器にも匹敵する戦力となり得ますから。本来、人類存亡の危機に際して、その脅威となる存在に対抗すべく出現するのが勇者なのですが、それを己の野心の為に利用しようとする者が必ず出て来ます。勇者と言えど聖人ではありませんから、人類側が愚かで理不尽な行為を強いた場合、報復で返すこともあるようです。結果、滅びの道を歩んだ国家が今までにもありました。人類同士が争っている場合ではないという時に、本当に愚かなことですね。今回の件も、その一端でなければと思うのですが······。

 

 それにしても───。

 最初に勇者の噂を聞いた時には眉唾ものだと思いました。商人達の話ですから、儲け話のネタとして大袈裟に吹聴しているのではないかと。ですが、本人を目の前にした時、そんな疑念は一瞬で吹き飛んでしまいました。知っていた訳ではないのに、一目見て彼女がそうだと判ったのです。

 初めて目にした彼女は、精霊力に満ち溢れていました。普通の人には見えませんが、精霊と伴に生きるエルフには、周囲の精霊の動きがはっきりと見えます。そのエルフである自分から見ても、彼女程精霊に愛されている人を初めて見ました。それ程、光輝いていたのです。あの時は、平静を保つのが、顔に出さないようにするのが大変でした。なにしろ、この出会いを私は待っていたのですから。この日の為に受付嬢の仕事を続けていたと言っても過言ではありません。

 それでも尚、私は彼女のことを見誤っていました。まさかあれ程とは思っていなかったのです。

 エルフとは言え、まだ120年程しか生きていないので私も伝承でしか知らないのですが、どうもこれまでの勇者とはどこか違うように感じます。どこがどうと言葉に出来るものではないのですが······。


「いい加減にしろっ」


 何時までも尻尾を握って放さないセツナさんの頭に、白夜さんが拳骨を落としました。

 どういった心境か三人娘の好きにさせていた彼女ですが、どうやら我慢の限界に来たようです。そのまま洗い場を後にして、ズカズカと湯船の方に歩いて行きました。三人娘の方も名残惜しそうにしていましたが、概ね満足したようで、今度は自分の身体を洗い始めています。そんな長閑のどかな光景を見ると、つい先刻まで死闘を繰り広げていたとはとても思えませんね。

 今彼女は、ローラさんとタミアさんの二人に挟まれて小さくなっています。その姿はどこにでも居る普通の女の子です。これを見て、彼女が勇者だなんて誰が信じるでしょうか。

 でも、だからこそ、その真価を知る者には危うく映るのです。与し易いと侮られて下手なちょっかいをかけられることは十分に考えられます。彼女が勇者であることを知る知らないに拘わらず、その危険性は常に付き纏うでしょう。思えば、クレハさんはその危険性に気付いて、敢えて見守るに留めていたのかも知れませんね。恐らく彼女も、白夜さんに魅入られた一人なのでしょう。罪な人ですね、全く。

 やはりこれはお目付け役が必要ですね。

 彼女はどうも常識に疎いところがあるようです。それが別の大陸に居た所為なのか、それとも他の理由があるのかは判りませんが、まだまだ彼女には秘密が多そうです。正直、危なっかしくて目が放せません。セツナさんだけでは心許こころもとないですから、ここは年長者・・・として放っておく訳にはいきませんね。ええ、これは義務なのです。決して興味本意ではないのですよ。

 そんな決意も新たに。

 酒盛りを始めた白夜さん達の方へと向かって行きます。

 別に楽しそうだから混ざりたいとか、ちょっとしか思っていません。

 本当に、ええ、本当にちょっとだけです。


「楽しそうですね。私も混ぜて下さいな」


 

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