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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 蛇神教団編
45/57

第45話 予期せぬ幕切れ

 セツナ達が督戦隊と睨み合いの様相を呈し、膠着状態に陥りかけた頃、ジェイド等に遅れを取っていた暁の旅団の面々が漸く到着し雪崩れ込んで来たことで、事態は一気に混線模様となっていた。

 実力的には劣るものの数の暴力で督戦隊の意識を引き付けたことで、セツナに周囲に目を向ける余裕が生まれた。そして見たのである。

 白夜が【神気】に因って吹き飛ばされる光景を。


「っ!」


 セツナは声にならない悲鳴を上げた。

 大きく吹き飛んで、白夜が地面で派手にバウンドする様を信じられない思いで見ていた。

 先刻肩に直撃を食らって打ち倒された時にはこの場にいなかった為、セツナにとっては初めて見る白夜が倒される場面だったのだ。

 傍目には蛇神が何をしたのかはさっぱり理解らない。しかし白夜の尋常じゃない様子から、只事ではないということは確かだった。蛇神の気が爆発的に膨れ上がったのを感じ取っていたからだ。

 セツナだけでなく、ジェイドも蛇神の気配が変わったことに気付いていたが、別格の気を持つ魔剣の男には他の団員達では容易に近付けず、ジェイドが対峙する外はなかった。その為気にはなるものの、他所に気を割いている余裕はなかったのである。

 その後、白夜が蛇神に一方的に打ち込まれている姿を見て、セツナは唯々愕然とするしかなかった。


(そんなっ!お師匠様がっ······!?)


 セツナにとって白夜は、師匠であると共に絶対的な英雄ヒーローでもあった。勇者であると判った時にも、嬉しいと思うと同時に当然だという気持ちも強かった。自分が心酔し憧れた存在なのだから。

 正直に言って、神の領域がどういうものかはセツナには想像もつかない。それでも、何の変鉄もないように見えるあの気弾の一つ一つが、とんでもない威力を秘めているということは解る。気を読むことに長けたセツナには解ってしまう。今自分があそこへ飛び込んで行ったとしても、只の一発の気弾で消し飛ばされてしまうということが。そんな想像を絶する領域で曲がりなりにも踏み止まっていられること自体すごいことなのだが、レベルの格差があり過ぎて実感が伴わない。気を感じることは出来ても、突き抜け過ぎていて漠然としか理解が及ばなかったのだ。

 それ故に、信じられない、いや、信じたくはなかったのである。白夜が苦戦するところですら想像だにしていなかったのだから。それなのに、今視線の先では蛇神に依って一方的な攻撃に晒されている。反撃の余裕すらなくされるがままで、セツナの目にもその命運は風前の灯火に見えた。

 だからと言ってセツナに出来ることは何もなかった。助けに飛び出そうにも、結果が分かり切っていることに足を踏み出すなど論外で、何より蛇神の気に当てられて金縛りに遭ったかのように身体が動かない。叫び声を上げようとしても、口の中が渇き切っていて喉が麻痺したように声が出ない。唯、口唇くちびるから血が出る程歯噛みして見守る外はなかった。心の底から「悔しい」と思いながら。

 ところが───。

 事態は急激に一変する。


「えっ!?」


 もう見ていられないと目を背けかけたその時。

 ブンという音が聞こえたかと錯覚する程の速度で残像を残し、白夜の姿が掻き消えた。

 次の瞬間、気弾を撃ち出す蛇神の右腕が宙に舞っていた。

 居合いの要領で刀を振り抜いた格好の白夜と、呆然として斬り飛ばされた腕を目で追う蛇神ザハラク。

 突然の成り行きに、セツナも呆気に取られる。


(何?一体何が起こったの?)


 最早これまでかと思われた矢先の出来事に、セツナには理解が追い付かない。しかし、絶体絶命からの逆転劇とも思える光景に、もしかしてと言う気持ちも芽生え始める。

 期待と共に、セツナは状況も忘れてその顛末から目が離せなくなっていた。

 

「っ!」


 一瞬の自失から我に返ったザハラクが、追撃を躱して白夜から距離を取り、肘から先を斬り落とされた自分の右腕に目を向ける。既に出血は止まり断面は塞がり掛けているいるものの、再生が始まる気配はない。ピネドーアの魔改獣と違って、触手で欠損部位を繋げるようなことはなく、蛇神は直接再生することが出来る。但し、【神気】に因って付けられた傷は極端に再生が遅くなる。全く再生しなくなる訳ではないが、相手に送り込まれた【神気】に再生を阻害する働きがあるからだった。

 つまり、今受けた攻撃が【神気】を纏ったものだということにザハラクは気付いたのだ。元より【神気】の防御を打ち破って斬り付けられるのは【神気】の攻撃だけである。疑う余地もない。


「───クッ、クッククッ」


 ザハラクは悦びに撃ち震え、歓喜の雄叫びを上げる。


「ふははははっ───!とうとう来おったか!待っておったぞっ」


 腕を斬り落とされたというのに、喜び勇んで待っていたと言う蛇神に、セツナは面食らう。戦闘狂の快楽主義者。本当に神なのだろうかという疑念が沸き上がるが、その力は確かに人間の範疇を超えている。それは白夜も同様なのだが、これまで接してきてその人間らしさや温かみを肌で感じて来ているセツナにとっては、白夜が何者であろうと関係なかった。白夜に対する信頼と敬意はセツナの中で決して揺るぎ無いものとなっていたのだ。


(何、これ······)


 その後の闘いに、セツナは瞬きも忘れて見入っていた。───否、実際には全く目で捉えることは出来なかったのだが。それまで辛うじて見えていた残像すら見えなくなり、時折聞こえる【神気】と【神気】のぶつかり合う甲高い爆発音と、その際に発生する衝撃波の残滓だけが目の前で繰り広げられている闘いの痕跡だった。

 人間の知覚の限界を超えた領域に、セツナは唯々唖然とするしかない。

 暗殺者との闘いの時にも遠いと感じたセツナだったが、これは最早そんな次元の問題ではなかった。


(確かにすごいけど、でも······)


 そんな中で、セツナには若干の引っ掛かりがあった。

 確かに人間の領域を超えた闘いではあるが、飽くまでそれは常識の範囲内であるように思えるのだ。遺跡の入口で見た白夜の魔法の威力。そして、セツナは見ていないが遺跡の分厚い壁に大穴を空けた蛇神のエネルギー弾。もしその二人が本気で力を奮ったなら、この遺跡そのものが消し飛んでもおかしくない。

 白夜が周囲に気を遣って力を限定的に抑えるのはまだ理解る。その余裕があるかは分からないが、白夜の性格から言って無意識にそうしていても不思議はないだろう。しかし、蛇神の方にそれに付き合う義理はないはずだ。あたかも、敢えて同じ土俵で闘おうとしているように思えてならなかった。


(やっぱり、唯の戦闘狂バトルジャンキー?)


 益々もって神らしくないと思うセツナだった。


 果てしないと思われた目に見えぬ闘いにも終局が訪れる。

 数知れぬ激突を経て互いに限界を越え始めた結果、まるで呼吸を合わせたかのように動きを止め、一定の間合いを空けて二人は対峙した。お互い若干よろけながら肩で息をしてる。それでも尚、視線は相手を見据えたまま動かない。どうやら、お互い最後の一撃を窺っているようだ。どちらも表情に決意の色が漲っていた。

 ゴクリ、と見ているセツナも固唾を飲む。


「───っ!」


 決着までの経緯プロセスは、瞬きせずに目を凝らしていたにも拘わらず全く見えなかった。

 気付いた時には既に、白夜と蛇神は重なり合うように激突していた。

 時が止まり、そして───。


「お師匠様───っ!!」


 セツナの悲痛な叫び声が響き渡る。

 渇いた喉から絞り出されたその声が伝播すると、祭壇の間の中が一瞬にして静まり返る。

 誰もが闘いの手を止めて、その光景に目を奪われた。

 広間の中心で微動だにしない二人。

 白夜の刀が深々とザハラクの心臓を貫き、そしてザハラクの左手は手首までが白夜の胸へと埋まっていた。

 この闘いの終焉を皆が認識し───。

 そして、再び時が動き始める。





「!」


 セツナの叫び声で、どこか遠くに行っていた意識が引き戻される。


(この状況は······?)


 ザハラクの胸に刀を突き立てている現状に戸惑いつつも、朧気おぼろげながら記憶にある意識が飛んでからの経緯を思い起こしていた。どう整合しようとも、自分のやったこととは思えないのが困りものなのだが。

 どうやら知らない内に【神気】を使っていたようだが、その辺の記憶が曖昧で良く理解らない。あのアナウンスが【神気】解放のアナウンスだったのだろうか。相変わらず都合の良いタイミングと言うか、寧ろどうせならもっと早く解放しろと言いたい。ギリギリ過ぎて心臓に悪いわ。


(それにしても······)


 視線を胸元に落とし、もっと心臓に悪い光景を目にする。

 ザハラクの左手が自分の胸に埋まっている。傍から見たら胸を貫いているように見える・・・だろう。

 しかし良く考えれば、この不壊の身体が貫かれる訳がない。実際には、ザハラクの左手は手首から先が崩壊して・・・・崩れ去っているだけだった。そう、崩壊だ。一体ザハラクに何が起きたのか。


「フッ、どうやらここまでのようじゃの」


 ザハラクが、憑き物が落ちたかのように柔らかい笑みを零した。


「やはり、この身体ではたなんだか。まだ遊び足りないところではあるが、まあ良い。口惜しいが、それなりには楽しめたしの」

「······どういうことだ?」

「妾の器には不十分だったということじゃ。慣らしもせんうちに【神気】を放ったからの。無理が祟ったわ」


 元はと言えばカミラと信者達の身体だ。適正とでも言うのか、その身体が神降ろしには耐えられなかったということなのだろう。尤も、耐えられる人間が居るのかは甚だ疑問だが。

【神気】で心臓を貫いたことで拍車を掛けたのか、ザハラクの身体が端から崩壊を始めていた。


「······!」


 ザハラクの腕が、蛇の尻尾が、サラサラと砂のように崩れていく。崩壊を前にしても、ザハラクの表情に悲壮感はなく、どこか満足げでもあった。


「さて、妾はまた暫しの眠り・・につくとしよう。久方ぶりにそなたと闘えて楽しかったぞ」

「!───ま、待てっ、まだ訊きたいことが!」


 勝手にそっちだけ満足して消えようとしてんじゃねぇよっ。散々思わせ振りなこと言っておいて、巫山戯るな。

 ありったけの文句を言ってやりたかったが、そんな時間は無く。

 ザハラクは、最後にまた思わせ振りで不敵な笑みを浮かべた。


「知りたくば、オウリュウに聞くが良い」


 その言葉を残して完全に崩れ去った。

 残った灰のようなものは、霧散し跡形も残らずに消えていった。

 支えを無くして刀の切っ先が落ちる。と同時に、身体の力が抜け膝を突く。


「くそっ、最後まで勝手なやつめ······」


 悪態を吐きつつ、大きく息を漏らす。

 最早、精魂尽き果てていた。HPも3%を切り、表示バーがあったら残り数ミリというところだ。冗談でなく風前の灯火だった。首の皮一枚とは良く言ったものだ。


「シルフィード」


 おもむろにシルフィードを呼んだ。

 然程大きな声でなかったにも拘わらず、シルフィードは即座に側に寄って来ていた。元々魔力のバイパスで繋がっている為、言葉にしなくとも意思は伝わるのだが、まあ気分の問題だ。


「【癒しの風】を頼む」

「ん」


 シルフィードが頷き【癒しの風】を発動させると、風前の灯火だったHPが若干回復する。全快には程遠いが、少しはマシだろう。本来、並の人間なら軽く全回復させられる【癒しの風】なのだが、自分のHPは膨大だ。単に割合の問題である。遺跡の外に出て司祭をつければ自分で回復出来るのだが、まだ不測の事態が起こらないとも限らない。既に【神気】は切れてしまっているので、万が一のことが起こってポックリ逝ったら目も当てられないからな。まあ、無いとは思うが。


「お師匠様っ!」

「白夜!」

「白夜さんっ!」


 ついと視線を向けると、セツナ達が駆け寄って来るのが見える。

 思い思いの表情で此方に向かって来る様子を見ながら、ふとザハラクの言葉を思い返していた。


(オウリュウか······)


 名前からして龍か何かか?聞けってことは知性ある古龍エンシェントドラゴンとかだろうか。それとも、単に人の名前とかだったりもするか······。別の神ってことはないだろうな?


(······って、今はいいか。もう疲れたわ······)


 刀を放って脱力し、身体を大の字に投げ出した。

 考えるのは後だ。今暫くは、動くのも頭を使うのもしたくない気分だった。

 ふと、何か忘れているような気もしていたが。

 今は何もかもが億劫だった。

 駆け寄って来るセツナ達をボーッと眺めながら、このまま寝てしまいたいなどと考えていたのだった。


 


 蛇神討伐に沸き上がる皆を余所に、ジェイドは一人難しい顔をしていた。

 皆が蛇神が斃れる場面に意識を向けている間、ジェイドだけは魔剣の男からも目を離さずにいた為に意識操作・・・・から逃れることが出来たのだ。


「どうも、これで終わりって訳じゃなさそうだな······」


 呟きながら、壁の大穴に視線を向ける。

 恐らくは影使いの能力。それに依っていつの間にか消えていた、督戦隊の者達。ジェイド以外の者達は完全にその存在から意識を外されていた。蛇神が斃れると同時に姿を消したのだ。そこに何らかの意図があったのは間違いないだろう。

 ジェイドの予測通り、これは始まりに過ぎなかった。

 好むと好まざるとに拘わらず、何れ白夜達を巻き込む形となるのだが、それはまだ先の話である。


「フン、面白ぇじゃねぇか」


 蛇神の脅威をその目で見ても尚、そんなことが言えるジェイドは大概だったが。ある意味、これが今後のジェイドに一つの方向性を与えることとなる。

 が、取り敢えず今は。

 白夜を囲む輪に加わるべく歩き出すのだった。 



意識操作は認識阻害と似ているようですが少し違います。意識が逸れた隙に存在感を希薄にし、認識から外させる効果があるだけです。その為に、気を逸らしていなかったジェイドには効果がなかったという訳です。影使いだけに、影を薄くしたということですねw

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