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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 蛇神教団編
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第39話 死闘への序曲

「なん···だと······?」


 今、何と言った?仇敵だと?一体、どういうことだ?


「何を言っている?誰かと勘違いしてないか?」

「これは異なことを。そなた、覚えておらぬのか?」


 ザハラクは胡乱うろんげな顔で探るような目を向けて来る。

 覚えているも何も、この世界に来てからまだ半月と経っていないのだから、(本人曰く)500年も封印されていた蛇神との関わり合いなんてあるはずもない。元の世界にだって、蛇神の知り合いなど居てたまるか。そんな愉快(?)な人生を歩んで来たつもりは毛頭なかった。もしかしてゲームの中での話か?いや、ゲームでもこのタイプのボスキャラは出て来ていなかったはずだ。倒した覚えも封印した覚えもない。もっとも、ゲームでの恨みつらみを此処で言われても困るが。

 て言うか、普通に話が通じるんだな。案外、温厚で理性的なのか?仇敵って部分は引っ掛かるが、いきなり襲い掛かっては来ないようだしな。此処は慎重に話を進めて情報収集すべきか。戦わないで済むなら、それに越したことはないからな。此処に至るまでの経緯を考えると、そう簡単な話ではないとは思うが······。


「蛇神ザハラク、でいいんだよな?あんたの目的は何だ?これからどうするつもりなんだ?」

「如何にも、わらわは十二柱神が一神、蛇斉天のザハラクじゃ。にしても、目的とはまた異なことを聞く。そんなことまで忘れておるとはの」

「だから、誰と勘違いしてるか知らないが、人違いだと言っている。あんたとは初対面だ」

 

 飽くまでもその誰だか知らない知り合いのつもりで話して来るザハラクに、若干の苛つきを覚えて言い返していた。それに、肝心なことにも答えていない。わざとなのだろうか?


(ったく、誰と間違えてんだよ······。待てよ、500年······、500年前か······)


 500年前って言えば、確か前の勇者が現れたって話だったな。もしかして、その勇者と間違えてるのか?その勇者もミセリアだったのか?しくは、今の自分がその生まれ変わりとでもいう設定・・だったとしたら······。うーん、自分でもいささか荒唐無稽な話だとは思うが、今はそれくらいしか考え付かない。


「あんた、前の勇者と関わりがあるのか?もしそうなら、自分は別人だぞ?」

「前の勇者?······成る程のう、そういうことじゃったか······」


 ザハラクは、答えになっていない呟きを漏らしながら、感慨深げに頷いている。先刻さっきから微妙に会話が噛み合っていない。やっぱり、話が通じない相手なのだろうか······?それとも、意図的に論点をずらしてはぐらかされているのか。努めて冷静に話を進めようと心掛けてはいたが、一向に要領を得ない様子につい語気を荒げてしまっていた。


「そっちだけ納得してないで、理解わかるように説明してくれないか······?」

「おや、怒ったのかえ?やはり、そなたは違うようじゃ。───いや、今は・・、と言うべきかの」


 相変わらず、思わせ振りな発言でけむに巻いて来る。どうやら、まともに答える気はないらしい。海千山千という言葉が思い浮かぶ。探り合いは此方が分が悪いようだ。試しているとも考えられるが、おちょくっているようにも思える。仇敵というのは、案外間違っていないのかも知れないな。心の奥底で、何かが警鐘を鳴らしていた。目の前の相手が、決して相容れない存在であると。今こうして話しているのは、言わば前哨戦とでもいうところか。一見穏やかに話しているようだが、その実、ピリピリした空気が伝わって来ている。油断など、欠片も出来るような状況ではなかった。


「ふぅ······」


 一息いて気持ちを落ち着かせる。此処でペースを乱せば相手の思う壺だ。向こうに情報を渡す気がないのなら聞くだけ無駄だろう。元よりだと言っているのだから、素直に答える義理も義務もない。期待した此方が間違っていたのだ。


「もういい。これ以上は時間の無駄のようだ。だが、一つだけはっきりさせたい」

「なんじゃ?」


 やはりからかっていたのか、ニヤニヤと興味深げに此方を窺っていたザハラクが聞き返す。スルースキルを駆使して平静を装いながら、単刀直入のド直球ストレートを投げ掛ける。


「あんたは敵か?」


 訊くまでもないことと思いつつも、念の為だ。

 その言葉に、ザハラクはどこか楽しげに考える素振りをして。


「そうさの······、今のそなたとやり合う意味はないのじゃが···」


 そして、ニヤリと口角を上げて舌舐めずりをする。思わずゾクッとして、反射的に身構えていた。


「どれ、一つ小手調べと行こうかのっ」

「!」


 言うや否や、ザハラクが翳した掌から目に見えぬ何かが迸り、まるで地を這う蛇のように衝撃波が床石を削って迫って来る。


「ちっ!いきなりかよっ!」 


 十数mの間合いが有ったにも拘わらず、一瞬にして迫るそれをサイドステップで躱す。衝撃波はそのまま後方に突き進み、シルフィードの風の結界をも打ち破ってミリー達の横を通り過ぎる。


「キャッ!」

「っ!」


 当たらずとも、その余波で悲鳴を上げるミリー達。今回は当たらないコースだと分かっていたが、風の結界が役に立たない以上、今の位置取りでは不味い。シルフィードも、顔色は変わらないものの焦った様子で(飽くまで主観だが)結界を二重に張り直すが、それでも気休め程度だろう。瞬時にそう判断すると、射線を変える為、ザハラクの左に回り込むべく右へと走り出す。


「それっそれっ!」


 それに合わせて追撃の衝撃波が連射され、逃げるように躱しながら駆け抜ける。その際、地に伏していた信者達が巻き添えを食らって吹き飛ばされていたようだが気にしない。最早生きているのか死んでいるのかさえ分からない信者達だが、信仰の対象である蛇神にとどめを刺されるのであれば本望だろう。

 そんなことを気にしている余裕もなく、先回りして鼻先に放たれた衝撃波を急停止して避けると、その直後、一際大きい殺気を感じて背筋を凍らせる。


「それっ、避けねば死ぬぞっ」

「やばっ!」


 ザハラクが振り下ろした両手から巨大なエネルギー弾が撃ち出され、地を削りながら高速で向かって来る。途轍もない気配に、間違いなく当たれば唯では済まないと分かる。ご丁寧に急停止した反対側にも衝撃波を放って逃げ道を塞がれていた。


「ちぃっ!」


 覚悟を決め、刀を振り被ってエネルギー弾に向かい、そして───。


「むっ」


【瞬動】でザハラクの間近に現れて、その勢いのまま振りか被った刀で斬り付ける。ザハラクは、手刀の形で掲げた腕でそれを受け止める。肘の先が突き出たように伸びており、ガキッと中に金属でも仕込まれているかのような感触だった。


(固っ、オリハルコンでも入っているのか!?)


「ほっ、やるのう。そうでなくては面白くない」


 楽しげなザハラクの声を掻き消すように、背後で大爆発が起こる。入口を【爆裂弾】で破壊した時の比でない爆音と爆風、そして衝撃による揺れで、足元がグラつく。

 そこへザハラクの蛇の尾が鞭打つようにしなり、薙ぎ払って来た。


「っ!」


 バランスを崩しながらも咄嗟に後方に跳んで、辛うじてそれを躱す。ザハラク的には軽く払ったくらいのつもりだったんだろうが、常人ならその一撃で全身がバラバラになりかねないゾッとする程の唸りを上げていた。

 体勢を立て直しながらチラッと爆発のあった方に目を向けると、濛々もうもうと立ち込める粉塵の中、幾重にも重なった分厚い石壁を全てぶち破って、外の景色が見える程の大穴が空いていた。


(なんつー威力だ······)


 あれをまともに食らっていたら、比喩でも何でもなく命が消し飛んでいた可能性が高い。今更ながら、背筋に寒いものが走る。何より、この世界に来て初めて生命いのちの危機を感じていた。今まで対峙してきた相手は、皆遥かに格下の者ばかり。ある意味、卑怯とすら言える程の安全マージンの中で闘って来た。そのことには別に後ろめたさは感じていない。こんな訳の分からない世界に突然放り出されて、否が応でも生命のやり取りをしなければならない状況に追い込まれたのだ。折角備わったチート能力を使うことに、躊躇う必要がどこにあるのか。どこぞの物語の主人公のように、インチキな力と思い悩むこともなく、その辺は割り切っている。だからと言って、欲望に任せて力を振るうような真似をする気もないが。

 そして今、全力をもってしても通じないかも知れない相手を目の前にしている。ローブがボロボロになって殆ど形を留めていない状態の為、隠蔽の効果が無くなって【鑑定】が通ったのだが、名前以外の全てがアンノウンという結果だった。つまりは、此方よりもレベルが上か、或いはレベルの概念が無いとしても明らかに格上だということだ。気に食わない相手だが、曲がりなりにも神というだけのことはある。


「どうした?掛かって来ぬのかえ?」


 余裕からか、直ぐには追撃しては来ないでいた。掌に浮かべた小さなエネルギー弾を弄びながら、今尚最初の位置から動くことなく待ち構えている。


(ちっ、余裕だな······)


 刀を握り直しつつ、その様子を見て憮然とする。

 この期に及んで言っても仕方のないことだが、結局碌な情報も引き出せないまま戦闘に突入してしまったことに忸怩たる思いを抱いていた。一見すると話の通じる相手に見えるのに、その実謎掛けのような言葉を投げ掛けて惑わして来たり、あまつさえ明確な答えは何一つ示さないで実力行使に及んで来るとか、捉えどころが無さ過ぎる。本当に、何がしたいのか全く読めない厄介な相手だ。

 そう思いながらも、不思議と恐怖は感じていない。武者震いはあるが、このヤバい状況でどこか期待している自分がいることに気付いた。生命の危険があるにも拘わらず、全力を出せるこの状況をどこかで望んでいる自分がいることに。


(そんなキャラだったか?)


 思ってもみなかった自分の衝動に、意外感を禁じ得ないでいた。バトルジャンキーじゃないつもりだったんだがな······。これも、この身体に備わった何か・・なんだろうか?もしかして、それこそがザハラクの言う仇敵ということなのか。自分に宿るものの正体に、俄然興味が湧いて来た。ザハラクと闘えば、その一端を垣間見ることが出来るのかも知れない。代償が自分の生命というのは御免被りたいところだが······。


(まあ、やってみるしかないな)


【高速思考】を打ち切り、刀を持つ手に力を込める。


「待ちかねたぞっ」


 此方の覚悟を見て取ったザハラクが、手にしたエネルギー弾を無数に増殖させ、一斉に解き放った。


(容赦なしかっ)


 ばら蒔かれたエネルギー弾の雨を前にして、二刀を構え、迎え撃つ姿勢を見せる。

 死闘の本番が、此処に幕を開けたのだった。

 


 



 

実のところ、蛇神は正解を知っていますが、全てを語らせると此処で話が終わってしまいますので、こういったフワッとした内容の会話になっています。今はクロスワードの大まかな枠組みだけ示して、徐々に縦横のヒントを出していくつもりです。まあ、蛇神の性格でもありますので、おちょくっているのも確かですがw

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