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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 蛇神教団編
36/57

第36話 分身

 セツナは、驚きに満ちた目で此方を見ていた。


「どうやって······、いえ、どうして此方に来たのですか!?」


 一瞬で現れた方法も気になるのだろうが、セツナにとって問題はそこではないようだ。状況も忘れて、責めるような口調で捲し立ててくる。


「ミリーちゃんは、儀式の方はどうしたのですか!?」

「落ち着け。そっちには本体・・が行っている。心配はいらん」

「え?」


 セツナがポカンとした顔で目を見開いたのは、言葉の意味が理解わからなかったからというだけではなかった。キラキラとした燐光を振り撒きながら飛び回る、羽根の生えた小さな存在に目を奪われたからでもあったのだ。


「嘘、······妖精!?」


 それ・・がセツナの肩にちょこんと乗ると、セツナはまじまじと凝視していた。驚いてはいるが、特に危機感を感じていないようなのは、本能的に敵ではないと悟っているからだろう。


「そいつは妖精じゃない、契約精霊の一部・・だ。まあ、説明すると長くなる。そんなことより······」


 実際、のんびりと話している場合じゃなかった。ランスに縫い付けられた狼男ワーウルフが、心臓を貫かれているにも拘わらず、ジタバタと暴れていた。それを片手一本で押さえ付けている自分も大概だが。サジの方も此方を気にしつつも、武器なしでミノタウロスの攻撃から身をかわすので精一杯のようだ。

 まずは【気力譲渡】でセツナに気力を分け与える。これは侍のスキルでサジも使えるはずだが、多分強敵を前にその余裕は無いと思ったんだろうな。


「あ······」


 気力が回復して動けるようになったセツナが、気恥ずかしげに立ち上がる。


「······有り難う御座います、申し訳有りません」

「礼も謝罪も後だ。直ぐに片付ける。今暫く待っていろ」


 そう言ってサジの方に目を向け、何か言いたげにしながらも、ミノタウロスと対峙してそれどころじゃないサジに警告・・をする。


「避けろよ?」

「!?」


 言葉の意味を理解したのか、丁度此方に背を向けていたサジは、血相を変えて横に飛び退いた。

 狼男を縫い付けたままのランスを突き出すようして、【韋駄天】+【縮地】でミノタウロスに向かって突進する。桁外れのステータスが産み出す膂力と脚力で一瞬にして距離を詰め、そのままの勢いで狼男ごとミノタウロスをランスで貫く。狼男とミノタウロス、共に串刺しになった2体の魔物。ランスから手を放しても思うように動けずに、2体は唯叫び声を上げてもがいていた。

 その光景に、セツナもサジも唖然とする。だが驚くのはまだ早い。


「先刻の奥義」

「え?」

「発想は良かったが、狙うなら頭にすべきだったな」


 セツナにそう語り掛けながら刀を抜く。


あの技・・・借りるぞ」


 言いつつ、腰を落として片手平突きの構えを取る。出力は100%だ。実のところ、虎頭と獅子頭の時は50%の出力でしかなかった。更に言えば、狂信者の時は10%だ。幾ら全力を出すと言っても、常に100%で無駄な労力を使うのは考えなしの馬鹿のやることだ。状況に応じて変えるのは当然のことだろう。

 気力は直ぐに満ち、切っ先に気が集中して輝き始めた。明らかに普通とは違う気の大きさに、セツナ達も目を見張る。そして固唾を飲んで見守っていると。


「剛覇の太刀・呀突!」


 尋常ではない踏み込みから繰り出された技は、セツナの時とは比べ物にならない規模の衝撃波を伴って、重なりあう狼男とミノタウロスの頭部目掛けて襲い掛かる。結果───。


「············」


 セツナとサジは、二人共あんぐりと口を開けて絶句していた。

 狼男とミノタウロスは、共に頭どころか上半身ごと木っ端微塵に吹き飛ばされていたのだ。刺さっていたランスがカランと音を立てて床に落ち、支えを失くして2体の身体が倒れる。頭が消滅したことで、最早再生する気配は無いようだ。

 いち早く我に返ったのはサジの方だった。


「いやはや何とも、此処までとは······」


 サジの目には、怖れというより呆れの色が見える。まあ、散々苦労した相手をあっさりと片付けてしまったのだから、それも当然か。此方としても、何故サジが此処に居るのか問い質したいところだが、今はそれどころじゃない。お互い、擦り合わせは後回しだ。

 自分の技の完成形、と言うには些か敷居の高すぎるものを見せられ、呆然としていたセツナも漸く自分を取り戻し、駆け寄って来た。


「お師匠様!」


 二人が揃ったところで、簡単な状況説明をする。詳しく話している暇はないが、最低限の状況把握は必要だろう。

 時間は、セツナからミノタウロスの出現を聞いた頃まで遡る。




  

《ポーン》


《【並列思考】が解放されました 》

《【限定解除】が解放されました 》


 スキル解放のアナウンスが脳内に鳴り響く。一々確認するのが面倒だったのでアナウンスの内容を報せるように設定を変えておいたのだが、どのみち見てみなければ詳細は分からないのだから大して意味はなかったな。

 それにしても、このタイミングでこの二つか。


【並列思考】:同時に複数の思考が可能となる。それぞれを独立した人格として分離したり、また再統合も自在に出来る。


【限定解除】:武器防具のクラス縛りが無くなり、自由に装備が出来るようになる。また、各クラスの限定スキルや魔法を、サブやアンダーの場合でも使用が可能となる。それに伴い、SSのリキャスト時間が全クラス共有から個別のものに変更される。


 成る程な、【高速思考】とは別にこれがあったという訳か。しかし、独立した人格ってのはどういうことだ?自分の中に別の人格があったら、混乱するだけのような気もするが······。確かに自分がもう一人居ればセツナの方も対応は出来るんだろうが、人格は分離出来ても自分自身は分裂させられやしない。それでは無意味だ。

 いや、待てよ。【限定解除】か······。2hSがサブとアンダーのクラスのものも使える、それもクールタイムにある侍以外のなら使用可能となると······。

 唐突にアイデアが閃いた。


(その手があったか)


 どうも、この遺跡の中全体が戦闘フィールドと認識されているのか、目の前に敵がおらず戦闘体勢を取っていない時でも、クラスチェンジはおろかサブやアンダーの付け替えすらも出来なくなっていた。つまり、現在のクラス構成はメイン侍、サブ忍者、アンダー古代魔導師と、突入時のままなのだ。従って、現時点で使える2hSは忍者と古代魔導師のものだけな訳だが、重要なのは忍者の方だった。

 

「ちょっと待ってくれ」

「マスター?」

 

 足を止め、先導するように飛んでいたシルフィードを呼び止める。口数の少ないシルフィードは、それ以上は何も聞かず、ただ黙って待っていた。

 暫し頭の中で閃きを吟味し、そして考えが纏まると、実行に移すべく即座にスキルを発動させる。


「影分身!」


 スキルの発動と共に、もう一人、影の自分が出現する。影とは言っても自分と何ら変わりのない姿で、まさしく分裂したかのごとくそこに現れた。

 忍者のSSスペシャル・スキル【影分身】は、実体の有る自分の分身を作り出して別個に敵を攻撃させるスキルなのだが、ゲームでは自分に追従して勝手に攻撃をするという、単純に手数が増えるだけの存在だった。しかも、効果時間が最大で1分と短く、使いどころの難しいスキルでもあったのだ。その欠点も、レベルが上がったことで大幅にスキルの性能が上がり、何と最大効果時間30分にまで増えていた。別行動・・・させるには十分な時間と言えるだろう。

 早速【並列思考】で独立させた人格を影に植え付けると、無個性だった影の顔に表情が表れる。


「どうだ?」


 恐る恐る、影に訊ねる。【影分身】も普通とは違う使い方な上、人格の分離などという未知の領域のことで、全くの手探り状態なのだ。自信などあるはずもない。

 影は、掌を開いたり閉じたりして動きを確かめている。


「問題ないようだ。スキルや魔法も、普通に使えそうだ」

「そいつは良かった」


 自分自身と会話するのは、何とも奇妙な感覚だった。見たところ、完全に自分自身のコピーといった感じだ。パラノイアになりそうで怖いな。


ただ収納インベントリ装備格納ストレージは本体でしか使えないようだ。現行の装備品はそのまま使えるみたいだが。理屈は分からんがな」

「まあ、実体が有ると言っても仮初めのものだ。その辺りは仕方なかろう」


 おそらく、スキル発動時にコピーされたもの以外は取り出せないということだろう。それ以外は本体こちらが出して渡してやるしかない。その場合、分身が消えた後にそれがどうなるのか、気になるところだが。

 さて、本題は此処からだ。


「シルフィード、二人に別々の映像を見せることは可能か?」

「可能······でも、この方が早い···」


 言うや否や、シルフィードが指を回して空中につむじかぜを作り出すと、次の瞬間、それは小さな人の形へと変化する。体長30cm程の身体に羽根を生やしたそれは、ティンカーベルに良く似ていた。


「───妖精、か!?」

「妖精じゃない···私の分身······。力は無いけど、視せることは出来る···」


 ふむ、分身には分身って訳か。便利な能力だな。それに、説明しなくても此処まで対応出来るシルフィードの理解の早さに、正直驚いている。本当に頭が良いようだ。だが、これで別行動がし易くなった。

 シルフ(取り敢えず、分身をそう呼ぶことにする)が影の肩に乗り、同調を始めた。目を瞑ってその映像を見ている影に声を掛ける。


「そっちの様子はどうだ?」

「苦戦はしているが、暫く様子を見た方が良いかもな。何か仕掛けようとしているみたいだ」

 

 セツナの方の映像を見た影がそう答える。確かに、何かを見出みいだそうとしているセツナにとっては、これは良い機会なのかも知れない。だとすれば、迂闊に手を出すべきではないだろう。ギリギリまでは様子を見る。但し、ギリギリの線を見誤ったら元も子もないが。


「分かった、そっちは任せる。どうやら、ヤバいのは此方の方だ。先に飛ぶ・・ぞ」


 ヤバい状況なのが分かっていて足を止めたのは、飛ぶ方法が見つかったからだった。【限定解除】により、古代魔導師がメインでなければ使えなかった【テレポート】が使えるようになった為だ。【瞬動】と同様に見えている場所にしか飛べないものだが、最大距離25mの【瞬動】に対し、【テレポート】の移動距離は500mにも及ぶ。直線距離ならば、儀式の部屋まで十分届くのだ。シルフィードの目を使えば、見えているという条件も満たせる。


「ああ、───あ、ちょっと待った。飛ぶ前に、ランスを1本置いてってくれ」


 影の要請に、何故とは訊かなかった。同じ自分だ、考えていることは理解わかる。

 直ぐに装備格納から標準的なランスを1本出して、影に渡す。


「それじゃ、行くぞ。シルフィード」


 そう言うと、シルフィードが身を寄せて肩に手を乗せて来る。【テレポート】は自身に触れている者も一緒に飛ばすことが出来るのだ。何故シルフィードがそんなことを知っているのか疑問は残るが、契約したことに由る阿吽の呼吸とでも言うところか。

 そのシルフィードと共に、【テレポート】で儀式の部屋へと飛ぶ。影はセツナの方に集中していて、もう此方を見てはいなかった。セツナの方は影に任せておけば良いだろう。此方は此方でミリーの救出に集中するだけだ。

 果たして、待ち受けるのは鬼か蛇か。この時点ではまだ、予想だにしていない。





 シルフィードと契約して目となってもらっていること、今の自分が影で、本体の方が儀式の部屋に行っていること等を簡潔に説明すると、セツナはホッとした顔を見せる。


「それじゃあ、儀式は止められたんですね?」

「あー、いや······」


 今は自分の肩に乗っているシルフに向こうの状況を見せられているのだが───。


「ちょっと不味いことになった······」

「え?」


 閉じていた目を開き、セツナ達を見据えて上擦った声を上げる。


「蛇神が復活した」


 


  

【影分身】は実は、レベルで呼び出せる分身の数が増えます。レベル1000なら四体、サブでレベル500でも二体呼び出せるのです。【並列思考】も、複数・・となっているように、独立出来るのは一つだけではありません。今回一体しか呼び出さなかったのは、初めてのことで勝手が分からなかったことと、複数を把握仕切れるか自信が無かったからです。今後、複数を呼び出す場面があるかも知れません。

追記ですが、第10話でSSをサブで使えるような書き方をしている部分がありますが、特定の状況と書いてありますように、【限定解除】と同じ効果を及ぼすコンテンツがあり、その中でだけ使用可能な特殊な状況があるということなので。こんな細かいことに気付く人は居ないかも知れませんが、念の為。

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