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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 蛇神教団編
32/57

第32話 連鎖する窮地

基本的に、主人公以外の視点の場合三人称で描かれます。その方が混乱しないと思いますので。

 その時、何処からかくぐもった爆発音と共に、遺跡全体を揺るがすような重い響きが伝わって来た。ひび割れた天井からは、パラパラと石盤の欠片が降って来る。


「な、何?」


 ミリーは思わず頭上を仰ぎ見て、降り掛かる欠片を払い除ける。

 地下牢に居た者達が、皆一様に不安げな顔でざわつき始めていた。ミリーと同じ牢に居た二人も、暗い顔を上げて怯えた表情で天井を見ている。流石に運命を諦めたからと言って、このまま此処で生き埋めになるのは嫌なのだろう。先の見えない未来よりも、現実に襲い掛かる恐怖におののいていたのだ。


(爆発······だったのかな、今の?もしかして、誰かが助けに来た!?)


 それは希望的観測ではあったが、余りにも都合が良すぎる想像に、ミリー自身も本気でそう思っている訳ではなかった。但、もし母ローラが逃げおおせていたなら、何らかの手を打つだろうことは想像に難くないので、一瞬その考えが頭をよぎったのだが、こんなに早く助けが来る筈がない。幾ら何でも早過ぎると、直ぐに自らの考えを否定していた。まだ拐われてから3時間余りしか経ってないのだ。街に戻って救援を頼んだとしても、往復だけでも4時間以上は掛かるはず。尤も、時計等は持っていないので、これは飽くまでもミリーの体感時間でのことだ。まだ連れて来られてから然程さほど時間が経っていないのでその余裕があったが、何日も此処で過ごしていたら、他の二人のように憔悴して時間など気にしていられなかったかも知れない。

 何にせよ、当てになるか分からない憶測にすがるのは止めて、また牙を磨くのに精を出し始めたミリーだったが、実のところその想像は正鵠を射ていた。先程の爆発は、白夜が入口を魔法で破壊した音だったのだ。既にその揺れはもう収まっているが、大分離れた場所にある地下牢にまで届く程の音と響き。白夜の使用した魔法が、どれ程の威力だったかが分かる。それは当然ながら教団側にも侵入者の存在を知らしめることになる訳だが、この場合それが悪い方に作用し、状況に変化をもたらした。


「!?」


 暫くすると、ざわついていた周囲が一転して静まり返り、コツコツという足音だけが地下に響き渡る。

 誰かが来た。だが、まだ食事の時間ではない。巡回も先刻さっき来たばかりだ。ということは、取りも直さずそれは入荷・・出荷・・のどちらかということになる。自然と、誰もが自分の番かと戦々恐々になり、皆固唾を飲んで押し黙る。

 ミリーも、持っていたスプーンを後ろ手に隠し、息を潜めて様子を窺う。近付く気配と足音に、不安と焦燥に駆られるミリー。我知らず、心臓が早鐘を打つ。そんな永遠にも思える時間の果て。


(嘘······!?そんな、もう······!?)


 悪い予感というのは得てして当たるものだ。訪れた者が足を止めたのは、ミリー達が居る牢の前だった。

 ミリーが驚くのも無理はない。此処に連れて来られて直ぐに何となく感じたのだが、此処に長く居る程に精神が削られ、心が挫けて行くようだ。この劣悪な環境下では、致し方ないことかも知れない。それは同じ牢に居る二人を見ても明らかだった。奴隷として従順にさせるには、ある程度此処で心を折っておく必要があるのだろう。だとすれば、自分が直ぐに呼ばれることはないのではとミリーは高を括くっていたのだ。この期に及んで考えたのは、自分ではなく他の二人ではないかということだが、流石に自分本意だと自己嫌悪に陥り、嫌な考えを振り払うようにかぶりを振る。

 牢の前に立ったのは、此処に連れて来た盗賊達でも時折来る巡回の者達でもなかった。白いローブに頭の尖ったフードを被った怪しい人物と、それに付き従う同じく白いクロークの二人。ミリーにとっては初めて見る、蛇神教団の関係者だった。


(何なの、この人達······?)


 鮮血の蛇と蛇神教団の関係を知らないミリーは、目の前のとても盗賊には見えない者達を見て戸惑いを覚える。もしかして、直接奴隷を買いに来た人達だろうかとも思ったが、それにしては雰囲気が怪し過ぎる。本能的に、得体の知れない恐怖を感じていた。


「この者達か」


 ローブの人物がフードの下から、男とも女ともつかない籠った声を出す。


「はい、漸く三人揃いました」


 クロークの内の一人がそんなことを言う。此方はフードをしていないので男だと分かるが、何処と無く無機質で事務的な口調をしている。ミリーはそれを、気持ちが悪いと思った。自分達を人間として見ていない。そんな目をしていたからだ。


「月齢と地脈の魔力状況は今夜が最高の条件なのだが、どうやら邪魔が入ったようだ。多少の誤差は致し方ない、予定を早めるとの司教様の仰せだ。三人を儀式の間に連れて行け」

「はっ、畏まりました」


(儀式!?何のこと?)


 目の前の怪しげな人物達の会話に、ミリーは言い知れぬ危機感を募らせていた。儀式という不吉な言葉には、奴隷以上に身の危険を感じさせられる。自分はこれからどうなるのか。此処に来てミリーは、自分の想像を越えて事態が悪い方向へと進んでいることに気付き始めた。


「出ろ」


 クロークの男が、檻を開けてミリー等に出るように促す。

 ミリーは少し躊躇ったが、此処で逆らうのは得策ではないと考え、スプーンを袖口に隠しておずおずと牢から出る。幸い、手枷足枷の類いのものはされていない為、行動するのに不自由はない。だが、相手は三人だ。無策で突っ込んだところで勝ち目は無いだろう。機会を窺いつつ、今は大人しく従うフリをする。

 残った二人の少女はしゃがんだまま後退り、壁際で身を寄せ合って怯えていた。考えることを放棄はしていても、その身に迫る危機を本能的に察知して、拒絶の姿勢を見せているようだ。

 ローブの人物が合図をすると、クロークの二人が牢の中に入って少女達を引きずり出そうとする。

 期せずして機会チャンスが来たとミリーは思った。クロークの二人が中に入り、今牢の外に居るのは自分とローブの人物の二人だけ。相手の実力は不明だが、言ったところで自分はまだ子供だ。多少は訓練しているとは言え、大人相手にろくな武器も無しに正面からまともに立ち合えば分が悪いのは理解わかり切っている。

 考えていたのは不意を突くことだ。女子供と高を括っているのか、どうも余り警戒していないように見える。つけ入る隙は十分に有りそうだった。セツナからは、いざという時の立ち回り方を幾つか教わっていた。一つは不意を突くということと、もう一つは急所を狙うことだ。人間には幾つもの弱点がある。頭、首、心臓等、それら急所を護る為に鎧等の防具がある訳だが、唯一護りようのない部分が存在する。防弾ガラスや強化プラスチック等といったものの無いこの世界では、目だけは常に危険に曝されている。【心眼】等の特殊な場合を除き、見るということが不可欠な人間にとって、目だけは隠す訳にはいかないからだ。

 ローブの人物は、そのゆったりとしたローブの下にどんな防具を身に着けているかは分からない。皮鎧程度でも、幾ら尖らせたところで木製のスプーンの柄くらいでは、況してや非力な女の子の自分では、貫くことなどまず不可能だろう。やはり狙うとするならば目しかない。フードの中は陰になっていてその素顔までは窺い知れないが、深淵のごとき暗闇の奥から、双眸が炯々けいけいと光っているようにミリーには思えた。

 

(やるなら今しかない)


 隠し持っていたスプーンを、指の間から柄の部分を突き出すように握り込み、ギュッと力を入れる。緊張からか、てのひらがじっと汗ばんでいた。失敗すればどんな仕打ちが待ち受けているか、想像するだに恐ろしいが、この後の展開がミリーの予想通りなら、座してそれを受け入れることは出来ない。何もしなければ、このまま全てが終わってしまうかも知れないのだ。

 ゴクリと唾を飲み込む。フードの奥の見えない顔が、牢の中に意識を向けていると感じたミリーは、意を決して尖った柄の先端を相手に向け突進する。


「やぁ──っっ!」


 身長差から、やや突き上げるように突っ込むミリー。不意を突くのに声を上げてしまうのはミリーの未熟さ故か。セツナが見ていたなら、駄目出しをしていたことだろう。

 しかし、ローブの人物は完全に虚を突かれたかのように動いていなかった。尖った柄の先端がフードの中に吸い込まれる、そう思った刹那。


「!?」


 彼の者が頭を僅かに傾けただけで、スプーンの柄は何か固いものに当たって呆気なく折れてしまった。それと共に、ミリーの希望も儚く砕け散る。


(そんなっ······!?)


 その勢いで外れてしまったフードの下は、極小さな目出し穴が有るだけの能面のようなマスクをしていたのだ。無機質な面から覗くが、希望を断たれて打ちひしがれるミリーを冷たく睥睨へいげいする。


「活きが良いのは結構なことだ。生け贄はこうでなくてはな。だが、今は大人しくしていてもらおうか」


 感情の籠らない声でローブの人物がそう言うと、呆然とするミリーの首筋に手刀を叩き込む。一瞬にして意識が刈り取られ、崩れ落ちるミリー。暗闇に沈み行く意識の中、微かに残った思考でミリーは思った。


(やっぱり生け贄······私、これで終わっちゃうのかな······)


 そう思いながらも、この時ミリーはセツナに聞いた勇者の話を思い出していた。皇国軍の危機に颯爽と現れた勇者の話を。そして何故か、一度会ったきりなのに忘れられない白夜の姿を重ねていた。父カイルでも母ローラでもなく、ミリーにとっては強くて憧れる白夜を最後に思い浮かべながら、その意識を闇に落として行く。

 最後まで希望は捨てないと自分に言い聞かせて。




 森の中、白夜達の足跡を辿りながら進んでいたカイルの耳にも、爆発の音は届いていた。


「何だ?爆発か?」


 まだ距離はある為、音も小さく振動も極僅かなものだが、傭兵としてそれなりに経験を積んでいるカイルは、その爆発が魔法に因るものだと見抜いていた。それが進行方向から聞こえて来たのだ。自分が追っている者達が関わっていることは明らかだろう。カイルにとってそれは、目的地を知らせる信号弾にも等しかった。


「これではっきりしたな。俺以外にも救出に動いている者達がいる」


 どうしてこれ程早く動けたのか疑問は残るが、進行上の盗賊達はことごとく潰されていた。それも極めて手際が良く、その足跡からは如何に迅速に事が成されているかが窺える。カイルの経験上、何者かが明確な目的意識をもって突き進んでいることは確かだった。ミリーの件とは別口の可能性もあるが、目的が同じならそれはそれで構わない。利用できるものは利用させてもらうだけだ。


「運が良いと言うべきかな?偶然にしては出来過ぎの気もするが」


 若干の不安は過るものの、カイルは敢えて余計な迷いを捨てることにした。形振なりふりなど構っていられない。今はこの偶然に感謝し、予期せぬ僥倖を享受するのが吉だろう。爆発に因って、大体の方向ははっきりしたのだから。後はこのまま、真っ直ぐとそこへ向かうだけだ。


 改めて気を引き締め直し、目指す場所へと進み始めたカイルだったが。


「───!」


 暫く進んだところで、自分が何時の間にか囲まれてしまっていることに気付いた。

 白夜達は、【広域探査】を使って出来る限り手薄なルートを選んでいたのだが、それが此処に来て仇となった。爆発に依って異変に気付いた他の盗賊達が、連絡の途絶えた仲間達を不審に思い、様子を探りに一斉に集まって来てしまったのだ。

 カイルの元の傭兵ランクはB。結婚を期に辞めていなければ、Aランクにも届いただろう実力の持ち主だ。例え鮮血の蛇の盗賊が手練れでも、一人や二人くらいならどうにでも出来る。だが、今感じている気配は十人以上だ。流石に一人で相手をするには多過ぎる、手に余る人数だった。


(まずいな······どうする······?)


 まともに相手をするのは論外だ。形振り構っていられないとは言っても、そこまで無謀ではなかった。ならば、強行突破するか?


(いや、駄目だな)


 傭兵と冒険者とでは活動のカテゴリーが違う。大規模戦闘や護衛等、平地での活動の多い傭兵に比べ、冒険者は魔物の討伐や探索等で森での活動に慣れている。冒険者崩れの多い盗賊達にとって、森は言わばホームグラウンドと言っても良い。地の利は明らかに向こうにある。突破したところで、直ぐに追い着かれるのがオチだ。


(どうする······考えろ······此処で足止めを食う訳にはいかないんだ)


 しかし無情にも、考える間も無く数人の盗賊が目の前に姿を現す。最早、誰何することもしない。一様に殺気だった様子で武器を抜いて、カイルの前に立ちはだかる。まだ姿を見せない他の盗賊達も、ゆっくりと包囲の輪を狭めて来ているようだ。


(ちぃっ、やるしかないか)


 そう決断すると、カイルの行動は早かった。完全に包囲される前に各個撃破で数を減らす。そこに一縷の望みを賭けるしかない。此処に至っては、躊躇いだけが厳禁だ。

 カイルは瞬時に両腰から二本・・の剣を引き抜いて、【縮地】で一気に盗賊の一人に突っ込む。油断していた訳でもないだろうが、一瞬反応が遅れた盗賊は辛うじて一本の剣を弾くものの、もう一本の剣を避け切れずに頸動脈を斬り裂かれ、血飛沫を吹き上げて倒れる。


(まず一人!)


 その横に居た別の盗賊も黙って見ていた訳ではなく、仲間がやられている隙にカイルに斬り掛かっていたが、先に仕留めた男の倒れる方向を巧みに変えて障害物とし、それにたたらを踏んでいるところを死角から躍り出て斬り付ける。


(二人!)


 倒した相手には目もくれず、少し離れた場所に居た筈の三人目に矛先を向けようとすると。


「くっ!」


【縮地】ではないものの、それに迫る勢いと速度で踏み込んで来た三人目に、盗賊らしからぬ大剣が頭上から叩き込まれる。咄嗟に二本の剣をクロスさせて、それを受け止めるカイル。その太刀筋から、どうやら傭兵崩れのようだ。そうと分かれば、傭兵相手は慣れているカイルには対処がし易い。

 傭兵は対人戦に特化している為、武器戦闘の駆け引きに長け、フェイント等に引っ掛かりにくい。カイルは逆に敢えてフェイントを織り混ぜて、二本の剣を巧みに操り、相手を翻弄する。

 カイルのクラスは双剣士。刀剣士と同じく剣術士から派生する二次職で、刀剣士から侍へとクラスアップするように、双剣士からは忍者へとクラスアップが可能だ。カイルはそこまで極めてはいなかったが、その技量は盗賊の一人一人よりは遥かに上だった。

 一対一ならそうそう負けることはない。一対一ならば。だが───。


「!」


 大剣の男と打ち合っている間に、更に二人三人と盗賊が現れ、内一人が投げナイフを放って来た。

 斜め後ろから迫るナイフを右手の剣で払い除けるも、無理な体勢が祟り大剣の攻撃を左の剣一本で受けたことで跳ね飛ばされる。

 大きくよろけて体勢を崩すカイル。その間に大剣の男だけでなく、新たに現れた盗賊達にも囲まれてしまう。


(くそっ、次から次へと······)


 カイルは両手の剣で牽制しつつ、盗賊達の包囲からジリジリと後退りしながら、この窮地を脱する方法を必死に考える。このまま一斉に掛かって来られたらお仕舞いだ。追い詰められ、焦燥感に駆られたカイルは、つい逃避的とも言える有り得ないことを口走っていた。


「こんな時に相棒・・が居たら······」


 それは現実的には有る筈もないことだったが。無い物ねだりと分かってはいても、言わずにはいられなかったのだ。カイルは自嘲気味に口の端を上げ、例え無謀でも無理矢理道をこじ開けて行くしかないと覚悟を決める。

 そして正に盗賊達が一斉に、カイルへと襲い掛からんとしたその時。


「ぐはぁっっ!」


 盗賊の一人が、飛来して来たハチェットと呼ばれる手投げ斧を食らって悲鳴を上げる。

 次の瞬間、カイルを包囲していた一角の盗賊達が薙ぎ倒され、何者かが突入して来た。突然の成り行きに呆然とするカイルの横に並び立ち、巨大な斧を肩に担いで涼しい顔で嘯いた。


「呼んだか?」


 まるで何時ぞやの勇者のように颯爽と現れたのは、左頬に傷の有る精悍な男。それは、カイルも良く知っている男だった。カイルが男の名を叫ぶ。


「ジェイド!」





 

まだ引っ張ります。(汗)

伏線回収ゾーンに入っています。

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