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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 蛇神教団編
29/57

第29話 シルフィード

全編改稿しました。

台詞との間を改行するようにしたのですが、少しは読みやすくなったでしょうか?

ご意見ご感想をお聞かせ下さい。

※5/25 出力の表記が間違っていたので、代わりに装備品不壊のくだりを追加しました。

 一つの胴体に狼の首を3つ付けたケルベロスもどき。山羊の身体に獅子の頭と蛇の尻尾を持つ、有りがちなキマイラのようなもの。オークの首を切り離し、チューブか何かで繋いでいるのはデュラハンのつもりか?鼠に蝙蝠の羽根を生やしたものや、蜥蜴の頭を2つ繋げたもの等といった意味不明なものも数多く見られる。

 部屋の中にあった檻にいたのは、そんな実験体とでも言うべき魔物や動物の数々だったのだ。


(しかし······)


 こう言っては何だが、モデルとなっている魔物に比べてスケールの小ささといい継ぎはぎ感といい、どうにも滑稽な印象が拭えない。魔物とは言え、生命いのち玩具おもちゃにしているとしか思えないその所業には嫌悪感すら覚える。

 しかも、その殆どが死んでいたり弱り切っていたりしているので、大した裏付けもなく場当たり的にやった感が有り有りと浮かぶ。これ・・を為した人物に好意的でいられる要素は皆無と言っても良い。寧ろ、虫酸が走る思いだった。


『来て···』


 我に返り、声のする方へと向かう。声のする方とは言っても、直接聞こえている訳ではないので、多分に感覚的なものだが。但、不思議とその所在は、はっきりと感じ取れる。

 円筒型のサンプル群が立ち並ぶ間を潜り抜けて、部屋の奥へと進んで行く。

 気色の悪いサンプルには為るべく目を向けないようにして、それでも油断だけはせずに周囲の気配を窺いつつ、慎重に足を運ぶ。罠の存在にも十分注意しながら。

 サンプル群を抜けると、この部屋自体可成りの広さだったようで、やや開けた場所に出た。その所為か、周囲には若干ひんやりとした空気が漂っている。血の臭いは部屋に入った時から感じていたが、それに混じって薬品臭や機械的な何かのオゾン臭のようなものもし始めていた。

 そして目に入ったのは一つの檻。

 但し、普通の鉄格子の檻ではない。四方を鉄柱のような器具で取り囲み、そこから発生する電磁波のようなものが周囲に張り巡らされている。何か・・を閉じ込めておく為の特別製の檻、と言ったところか。

 その何か・・とは───。




「精霊······か?」


 電磁波の檻に囚われていたのは、半透明の女性の姿をした人ではない存在。【鑑定】した結果は、風の上位精霊シルフィードとなっていた。

 精霊は人々の生活には無くてはならない存在だ。火や水、風、土といったあらゆるものの中に存在し、魔力マナを原動力に事象として顕現する。精霊に善悪は無く、使い手に依ってその有り方は如何様いかようにも変わる。また、自然の中で意図せぬ災害を起こしたりもするが、そう言った無秩序な働きに方向性を持たせることが出来るのが上位精霊という存在なのである。


(っていう設定だったな、確か)


 実際にこの世界ではどうなのかは分からないが、少なくとも敵ではなさそうだ。悪意も感じられない。悪意と言うなら寧ろ、捕らえている奴等の方か。それは、この部屋の様子を見れば一目瞭然だろう。

 シルフィードは、人形のような表情の無い顔で此方をじっと見つめていた。白眼の無い目からは感情が読み取れないが、何処と無く懇願しているような視線を感じる。


「呼んだのはお前か?」


 檻に近付き、そう声を掛けると。


『待ってた···』


 直接の会話は出来ないのか、シルフィードは頷きながらそう念話で答える。此方からの念話はLPに話してしまいそうなので、今は直接言葉にした方が良さそうだ。


「待ってたというのは、そこから出して欲しいということか?」


 まあ、聞くまでもないことだろうが、一応確認してみる。


『お願い···』


 シルフィードは再度、はっきりと頷く。

 元より、助けを求める声に応じて此処まで来た訳だし、余程のことがないは限り助けるつもりでいた。上位精霊シルフィードだったのは予想外だったが。此処に至っても罠ではないとはまだ言い切れないが、状況をかんがみれば最早些細なことだった。迷っている時間は無い。罠なら罠ごと噛み砕けばいいことだ。


「分かった。少し下がっていろ」


 そう言って刀に手を掛けた時。




「困りますね、勝手なことをされては」


 不意に声を掛けられて、刀を抜きかけた手が止まる。

 突如として機材の陰から現れたのは、白衣を着た如何にも研究者といった風情の男だった。


(こいつ、今気配が······!?)


 不覚、と言うべきか。信じられないことに、気配を全く感じなかった。暗殺者の時でさえ、気配を感じ取ることは出来ていたというのに。だが見た感じ、そんな腕利きのようには見えないし、してや戦闘向きの人間とも思えない。ボサボサ頭に無精髭、丸眼鏡の小さなサングラスを鼻にちょこんと引っ掛けた(意味あるのか、これ?)、どう見ても学者肌の男だ。【鑑定】が効かないのはスキルなのか、それとも隠蔽の魔道具でもあるのか。人を食ったような笑みを浮かべ、此方を興味深そうに眺めている。

 何者だ、などと馬鹿なことは訊かなかった。誰何すいかされるべきは寧ろ此方の方だろうからな。

 驚きの表情を顔に出さないよう苦心しつつ、平静を装って話し掛ける。


「お前が此処の責任者か?」

「おや、これは失礼。私はこの研究所・・・の所長、ピネドーアと申します。短い間・・・ですが、お見知りおきを」


 男は大仰なポーズで芝居がかった挨拶をする。どこまでも人を食った奴だ。


「研究所、だと?あれは皆、お前の仕業か」

「おお、ご覧になられましたか。私の可愛い作品達を」

「作品······ね」


 両手を広げ、大袈裟な身振りで嬉しそうに語るピネドーアという男を、白い目で見ながら呟く。どうやらマッドサイエンティストという奴らしい。この世界に科学というものが有るかは知らないが。


「技術の粋を集めた研究成果です。素晴らしいでしょう?」


 ピネドーアは、さも功績を誇るかのように陶酔した表情だ。正直、理解に苦しむが、この手のタイプは自分の価値観の中でしか生きていないものだ。理解出来なくて当然だろう。理解したくもない。


「率直に言わせてもらって良いか?」

「ええ、どうぞ」

「悪趣味だな。ヘドが出る」


 そう吐き捨てるように言う。実際に唾を吐き捨てたい衝動をグッと堪えていた。


「おや、お気に召しませんでしたか。残念ですね」


 やはり理解出来ませんか、と肩をすくめるピネドーア。一々苛つく仕草だ。


「何が目的でこんなことをしている?」


 教団とも盗賊団とも関連性を見出だせない。こんな所でこんなことをしている意味が理解わからなかった。


「目的、ですか?」


 ピネドーアは、顎の無精髭を触りながら少し考えて。


「······趣味、ですかね」

「何だと?」


 それからニヤリと、してやったりの表情を作る。


「冗談です。蛇神ザハラク様の為ですよ」


 冗談には思えなかったが。ザハラク······それが蛇神の名前か。蛇神の為とはどういうことだ?


「お分かりになりませんか?復活なさった時に配下となるものが居なければ格好がつかないじゃありませんか」


 蛇神の配下を作る為ってことか?この悪趣味な生体実験は。


「そんなことの為に、こんな下らないことをしているのか······?」

「下らないとは心外ですねぇ。崇高な目的ですよ」


 やれやれといった感じで首を横に振る。

 やはりムカつくな、こいつ。それに、生かしておくと為にならなそうだ。何れ人体実験にも手を出しかねない。いや、もうやってるかも知れないな。平気で生け贄の儀式をするような教団の関係者なんだ。今更人間を犠牲にすることなど厭いもしないだろう。まあ、精霊に手を出している時点で既にアウトなんだけどな。


「もういい。時間の無駄だ」


 陸奥守良行を抜いてピネドーアに突き付ける。


「短い付き合いということだけは同感だ。他は何一つ共感出来ないがな」


 チラリと檻の方に視線を向けて。


「さっさとお前を排除して、シルフィードを解放することにしよう」

「おやおや、勇ましいお嬢さんですねぇ」


 ピネドーアはくっくと笑い、余裕の表情だ。


「何故、この部屋に見張りが居なかったか分かりますか?」

「知らんな。知る必要もないっ」


 そう言うや否や、問答無用でピネドーアに斬り付ける。態々、ご高説を聞いてやる義理もない。だが───。


「!」


 刀はピネドーアの身体をすり抜けていた。立体映像?いや、幻影か。道理で気配が無い訳だ。馬鹿正直に矢面に立つ程、愚かではないということか。


「話の途中で斬り掛かるとは、はしたないですねぇ。そんなことでは、お嫁の貰い手がありませんよ?」

「余計なお世話だ!」


 幻影はまだ残って喋り続けている。気配は無いのに存在感はあるとか、どういう理屈だ?それに、声も幻影から聞こえて来ている。これも技術的な何かなのか?


「まあ、いでしょう。この部屋に見張りが居ない理由は、既に強力なガーディアンが存在するからですよ」


 すると、幻影の向こう側から何かがのそりと姿を現した。

 魔物のようなものが2体。身体はオーガか羅刹族のものだろうか。3m近い巨体に、それぞれ虎と獅子の頭が乗っている。


(タ○ガーマスクとライ○ン丸かよっ)


 内心で思わず悪態を吐いていると、2体が同時に襲い掛かって来た。


(速い!?)


 2体の突撃スピードは、撞鬼を遥かに越えていた。質量と速度が釣り合ってない気がするが、余程無茶な強化でもしてるんだろうか。武器は持ってはおらず、金属のような光沢のウル○ァリンのような鋭いクローを抉るように繰り出して来る。


「私の最高傑作です。とくとご照覧あれ!」


 ピネドーアが得意気に語っている。やっぱりウザいな。この場に居たら、真っ先に斬り捨てているところだ。

 虎頭の一撃を避け、獅子頭の爪に刀を合わせる。キンッという金属音と共にそれを受け止めていた。その手応えに思わず眉をしかめる。

 DFVllでは武器や防具には耐久値という概念が無く、決して壊れず手入れや修理等の必要も無い仕様だった。故にそれらがこの世界に持ち込まれた時、それは「不壊」という特性として表れていたのである。つまり、全ての装備品がこの世界には他に無い唯一無二の物になってしまった。極端な話、例の竹光で真剣と打ち合うことも可能なのだ。自分のみならず、装備品にまでチートが備わっているなど誰が想像出来るだろう。

 そのチートな刀で、半ば切り落とすつもりで打ち合ったにも拘わらず、折れも切れもしないということは───。


「如何なるものも切り裂くオリハルコン製のクローです。決して折れませんよ」


 ちっ、何て無駄に豪勢な。だがそれなら───。


「ハッッ!」


 反転して豪腕を振り被る虎頭の腕を、瞬時に引き抜いた振分髪で半ばから断ち切り、強引に腕を跳ね上げてがら空きになった獅子頭の胴を、逆袈裟に斬り上げる。


「むっ!?」


 しかし次の瞬間、虎頭の腕から触手のようなものが伸び、切り落とされた腕を引き寄せてくっ着いてしまった。獅子頭の胴の傷も、まるで逆再生のように肉が盛り上がり元に戻っていく。


「どうです、羅刹族の強靭な身体にトロルの再生能力とレッドベアの膂力、マッドボアの突進力を兼ね備えた私の最高傑作は」


 成る程、再生能力か。それにしても妙だな。獅子頭の胴が断ち切れなかったのは何故だ?


「ああ、それと、スライムの物理耐性も入っていますからね。斬撃には可成り強い仕様になっていますよ。腕を斬り落とされたのには驚きましたが」


 此方の表情を読み取ったのか、ご丁寧に解説をして来る。だが、その余裕が命取りだ。


(そういうことなら)


 二刀を鞘に納め、陸奥守良行の方にだけ手を掛けて腰を落とす。


「何のつもりです?」

「黙って見ていろ」


 そして、再生を終えた2体が再び襲い掛かって来ると。


「シッッ───ッ!」


 身体がぶれて見える程のスピードで【居合いスラッシュ】を放つ。

【居合いスラッシュ】は刀スキルと片手剣スキルの複合武器ウエポンスキルだ。物理耐性に強いという特性を持っている。撞鬼を倒す時にも使ったWSだが、居合い抜きの要領で繰り出す為、反りのある刀の方が相性が良い。

 2方向から迫って来ていた2体の首が、振り被った腕ごと、ほぼ同時に跳ね飛ばされる。


「なっ!?」


 今まで余裕ぶっていたピネドーアが、驚きの声を上げた。


「馬鹿な!?一体何を?」


 ピネドーアの疑問には答える義理はないので無視をする。

 今使ったのは【重ね当て】という、瞬時に二回攻撃を繰り出す侍の2hSスキルだ。本来は同じ相手に重ねて攻撃を加えるものだが、微妙にタイミングをずらして2体を同時に攻撃したのだ。ゲームでは出来ない芸当だった。この世界は本当に自由度が高いな。


「ま、まだ終わりでは······」


 ピネドーアが苦し紛れに言う通り、倒れた2体の身体からまた触手が伸び、頭部や腕に繋がろうとしていた。


「終わりだよ」


 それを見過ごしたりはしない。瞬時に練り上げた魔力で【爆裂弾】を放ち、2体の頭部を粉々に破壊する。アンダーは古代魔導師のままだったのだ。入口での轍を踏まないよう、威力は抑え目にしてある。頭を潰せば、流石にもう再生はしないようだ。


「くっ」


 人を食ったような表情は鳴りを潜め、ピネドーアは憎々しげに此方を睨んでいた。


「······あなた、一体何者なんです?」

「答える筋合いはないな。知る必要もないことだ」


 次に会った時がお前の最後だ、と言外に告げる。今は探し出して始末している暇は無いんでな。


「仕方ありませんね。此処はもう終わりです。残念ですが、施設は此処だけではありませんのでね」


 他にも此処みたいな胸くその悪い場所があるってのか?考えたくもないな。


「フッフフ」


 ピネドーアは、最後にまた何かを企んでいるような不敵な笑みを浮かべる。


「何時かあなたを倒せるような作品を創って見せますよ。ああ、その精霊は健闘を称えまして進呈致しますよ。どうぞ、ご自由に」


 そして大仰に一礼し、


「では、ごきげんよう」


 と言い残して、幻影は消えていった。

 有り難迷惑な。また面倒な奴に目を付けられたな。ああいう手合いは、ゴキブリのように何処にでも姿を現しそうだ。次こそは始末をつけてやりたいところだ。


「さて」


 ピネドーアが消え去った場所から視線を移し、檻の中のシルフィードへと目を向ける。


「待たせたな。今出してやるぞ」


 事の成り行きを黙って見守っていたシルフィードは、無表情の中にも嬉しそうな雰囲気を漂わせていた。

 そして、解放すべく電磁波の支柱を叩き斬っていく。

 電磁波が途切れ、しがらみから解放されたシルフィードは、目の前に浮かび感謝の意を表す。


『ありがとう···』


 だが、次に発した言葉は意外なものだった。



『私と契約して···』

 

ピネドーア=PINE+DOOR=松+戸=松戸マッド、という言葉遊びですw

元ネタは、昔の友人の作品の登場人物、松○教授からです。

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