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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 蛇神教団編
28/57

第28話 導く声

今更ですが、サブタイトルを付けました。

「ったく、キリがないな。ハッ!」


 大挙して押し寄せて来る信者の群れを切り払いつつ、うんざりした声を出す。


「やっっ!本当にキリがありませんね」


 隣でセツナも刀を振るいながら、溜め息混じりに同意する。口調とは裏腹に、その太刀筋によどみはない。淡々とまるで作業のように切り伏せていくその姿は、とても16歳の少女とは思えない落ち着きぶりだ。今まで相当の修羅場を潜って来たと見える。

 



 現在はセツナと二人・・で遺跡の中を進んでいるが、外とはうって変わり、殆ど盗賊の姿は見当たらない。その代わりに行く手を遮るように現れたのは、大量の蛇神教団信者達だった。

 遺跡内は通路が狭く、それが迷路のように複雑に入り組んでいた。そこへ、道を埋め尽くすかのごとく信者達が立ち塞がっているものだから堪らない。思うように先に行けず、遅々として歩みが進まないのだ。

 信者達は、特にレベルが高い訳でも戦闘技能が優れている訳でもない。適当な武器を手に簡素な貫頭衣を着ただけの、村人に毛が生えた程度の者達ばかりだった。但しその物量は凄まじく、正に数の暴力、肉の壁と言ったところか。たちが悪いのは、こいつら揃いも揃って「洗脳」と「薬物中毒」の状態だったことだ。感覚が麻痺している所為か、【峰打ち】も【威圧】も余り効果が見られなかった。手足を切り落とそうが、致命傷を負おうが、這ってでも向かって来るのだ。その狂信者と呼ぶに相応しい異容には辟易するが、道を切り開くには息の根を止める他はすべが無かった。


「まるでゾンビだな······」

「ぞんび?」


 ふと呟いた言葉に、セツナが思わずといった感じで聞き返して来た。


(この世界にゾンビは居ないのか?)


 いや、呼び方が違うだけか。


「アンデッドとかリビングデッドってやつだ。そういうのは居ないのか?」

「ああ、屍鬼のことですね。確かに、そんな感じですね」


 セツナが納得した風に頷く。

 成る程、屍鬼か。言い得て妙だな。

 信者達は盗賊達と違って、全員が全員犯罪者という訳でもないのだが、邪教認定を受けた時点でその信者も討伐対象となっている。中には騙されて信者になった者もいるかもしれないが、そこまでは面倒見切れない。怪しい宗教なんぞに近付くこと自体、神にすがって幸せになろうなどという甘い考えから来るものだと思っている。まあ、上は上でそいつらから甘い汁を吸ってる奴等が居るんだろうが、地球の歴史上でも聖戦の名の元に、如何に他教徒を悪辣に弾圧して来たかを知ってる自分としては、同情する気も義理も無かった。全ては自己責任と甘んじてもらおう。

 ただ、まとめて一緒くたには吹き飛ばせない訳があった。

 取り敢えず第一陣を片付け、一息吐く間もなく新たに迫る第二陣の中にそれ・・を発見する。


「気を付けろ!教団とは関係ない奴隷・・が居るぞっ」


 セツナに向けて叫ぶ。

 そう、信者達の中に、奴隷としてさらわれた者達が混じっていたのだ。流石に無関係の者まで殺す訳にはいかない。こういうこともあろうかと、念の為にチェックしていた第一陣には居なかったが、一々【鑑定】しながら選別しなければならない為、余計に時間が掛かってしまっていた。【高速思考】がなければ、とてもじゃないが無理ゲーだった。時間稼ぎとしては極めて有効と言うほかない。とは言え、狙ってやっている訳ではないだろう。此方に【鑑定】持ちが居ることなど知るよしもないので、おそらくは人数合わせというところか。やっかいなことに変わりはないが。


「左奥の青髪の娘と正面やや右寄りの二番目の黒髪女性、それから右端のカチューシャの娘ですね」

「分かるのか!?」


 セツナが、ズバリ言い当てたことに驚く。セツナは【鑑定】を持ってないはずだ。


「命令されているだけの奴隷には邪気がありませんから。それに、信者は眼が濁っていますので一目で分かります」


 成る程、確かにな。どうやらスキルに頼っていたのは自分の方だったようだ。セツナの気を読む能力の高さに感心すると共に、見習うことにした。意識してみれば簡単なことだった。

 奴隷は隷属紋で縛られて命じられているだけで、洗脳も薬物中毒にもなっていない。売り物にするのだから当然と言えば当然だが、そのおかげで【峰打ち】が通用するのは助かる。


「殺すなよ」

「分かっています」


 頷くセツナと共に第二陣に突入し、奴隷娘達(娘ばかりなのは、女子供しか奴隷にしていないからだろう)は少々心苦しいが【峰打ち】で戦闘不能にしつつ、他は切り捨ててこれも突破。そして、間を置かずにまた立ち塞がる第三陣を前に決断する。


「やはりキリがないな。───セツナ!」

「何でしょう?」


 此方の考えを予想しているのか、セツナの表情には理解の色が浮かんでいた。


「此処を任せていか?」

「問題ありません。行って下さい」


 間髪入れず、そう答えるセツナ。躊躇いも不安も全く見られない。大したものだな。


「すまんな。頼んだぞ」


 これ以上時間は掛けていられない。セツナには悪いが、此処は先行させてもらう。

 第三陣に突入する直前で【瞬動】を使い、信者の群れを飛び越えて行く。【瞬動】は短距離転移をするものだが、その特性として見えている場所にしか飛べないというのがある。つまり壁抜けとかは出来ない訳だが、僅かな隙間でも向こう側が見えていれば飛べるのだ。信者達の合間を見つけて飛び越え、【瞬動】が使えずに残るしかないセツナに一瞬視線を向けるが、直ぐに意識を前に戻してそのまま突き進む。

 そこからは、ひたすら戦闘を避けて【瞬動】で躱しながら先を急ぐ。幾つか分かれ道もあったが、敢えて人の気配のする方を選んだ。進行ルートだからこそ、人を配置していると思ったからだ。

 だが───。

 暫くすると、全く人気ひとけが無くなった。愈々いよいよゴールが近いか?それとも、違う場所に迷い込んでしまったか?そんな考えが頭をよぎったその時。

 突然、頭の中に声が聞こえて来た。


『······助···けて』




 一方ミヤビは、二人から離れて単独行動をしていた。


 ──遺跡突入前──


「えっ?」

「お前には、囚われている人達の居場所を探ってもらう」


 ミヤビは、白夜の言葉に耳を疑った。


「冗談、ですよね?」


 敵の本拠地で単独行動をするなど、自殺行為に等しい。普通・・ならば。


「冗談ではない。見たところ、通路は可成り狭い。おそらく、纏まって動いても足止めを食らう可能性が高いだろう」


 それならば、誰か一人自由に動いて、出来るだけ早くミリーや他にも囚われている人達が居れば、それを探す方が建設的だと言える。何より、ミヤビにはその為の能力ちからがあることを、白夜は知っていた。


【影忍】シャドウ・ハイド、影を渡るスキルを持つお前ならば可能なはずだ」

「!───知っていたんですか」


 ミヤビは驚いて目を見開くも、直ぐに当然のことだったと気付く。


「いえ、全てをられていたんでしたね、そう言えば」


 既に【鑑定】されていたことをミヤビは思い出したのだ。

【影忍】は影に同化し、影から影へと渡ることが出来る極めて隠密性の高いスキルだ。但しこれは忍者のデフォルトスキルではない。ゲームには存在しないスキルだ。

 この世界では、クラスに関係なく生まれつき特殊なスキルを持っている者がまれにいる。その中にはユニークスキルと言うべき珍しいものもある。【影忍】は唯一無二という訳ではないが、それでも十分貴重で有用なスキルであることは確かだった。うっかりな面の目立つミヤビだが、本来・・密偵としては優秀と言って良く、それはこのスキルに依るところが大きい。白夜に気付かれたのは、単純に白夜の【気配察知】能力が高過ぎただけなのだ。

 白夜もそれは良く分かっていた。色々と弄ってはいたがその能力は認めており、だからこそ態々わざわざ連れて来たのだから。

 白夜は、至って真面目な表情で改めて訊く。


「頼めるか?」


 その真摯な態度に、ミヤビも感じるものがあったようだ。まるで御下命を受けたような高揚感に包まれていた。但し、この後の返答は些かどころではなく意表を突いたものだった。


「了解しましたっ。任せて下さい、ボス!」

「······は?」


 思わず、目を丸くする白夜。


「何だ、そのボスってのは?」

「あー、勇者様って呼ぶのは不味いでしょう?~さん、は畏れ多いし、~様も何か違うかなーと。やっぱり、ボスがしっくり来るんじゃないかと」

「あのなぁ······」


 白夜は頭痛を覚えて眉間に手を当てる。


「······別に呼び捨てでも構わないぞ?お前の方が年上なんだし」

「「えっ!?」」


 ミヤビだけでなく、セツナも驚いた声を上げる。


「何だ、セツナまで。一体幾つだと思ってたんだ?」

20歳はたち過ぎだとばかり······お幾つなのですか?」

「18だ」


 中身は兎も角、この世界での身体はれっきとした花も恥じらう18歳だった。


「嘘······」


 19歳のミヤビは信じられないといった顔だ。とてもじゃないが、18歳の、それも女性の貫禄とは思えなかった。ともすれば、24歳のクレハよりも上の風格がある。こういう世界故に、人々の人格の成熟は割と早めと言っても良いのだが、それにしてもこれは異常に思えた。ある意味、それは正しい認識だったが、ミヤビ達には知るよしもないことだ。


「まあい。こうしていても始まらない、行ってくれ」


 不毛な話を打ち切り、白夜は行動を促す。

 ミヤビも、やや釈然としない顔をしながらも、こんなことをしている場合じゃないと思ったのだろう。素直に頷いて、即座に動き出す。そして通路内にある燭台の光が作る影に潜り込んで姿を消した。


「ほう」


 初めてその光景を目にした白夜達は、感心した声を上げながらも、直ぐにその後を追うように遺跡内の通路を走り始めた。そして程なくして、押し寄せる教団信者の波と遭遇することとなる。




 白夜達が信者達と熾烈な、とは言っても一方的な戦闘を繰り広げている頃、ミヤビは一人地下の一角に入り込んでいた。

 牢と言えば地下と相場が決まっている、そんな考えから目指して来たのだが、今のところ人が囚われている場所もその形跡も見つかっていない。しかし、あながち的外れという訳でもなかった。セツナ程気を読む能力ちからに長けてはいないものの、教団信者ではない気配をミヤビは確かに感じていたのだ。


(おかしい······、確かに感じるのに影も形も見えない。信者の姿も殆どない。まるで、此方には何も無いと思わせたいみたいだ······)


 何も無いことが逆に不自然だった。案外、本当に何も無いのかも知れないが、それでもミヤビは疑心暗鬼を募らせていく。これは隠し部屋か隠し通路が、きっと何処かにあると。

 暫く床や壁を調べながら誰も居ない通路を進んでいると、唐突に手を掛けた壁からカチッという音がする。


「!?」


 すんでで【危険察知】が働き、咄嗟に反対側の壁に飛び退いたことで命拾いをした。

 罠が作動して壁から飛び出した矢が、壁に大の字に張り付いたミヤビの首筋に、ギリギリ皮一枚のところで外れて刺さっていた。


「ひぃっ」


 ミヤビは、そのままへなへなと崩れ落ちる。

 罠の存在は、寧ろ何かが隠されていることの証拠でもあったが、盗賊スカウトではないミヤビに、罠に対処するスキルは無い。確信は持てたものの、これで迂闊に探れなくなってしまった。

 手詰まりになったミヤビは途方に暮れる。そんな時、LPリンケージ・ピアスを通して白夜の声が聞こえてきた。




『今、何か言ったか?』


 念話で二人に問い掛ける。


『何も言ってませんよ?』

『此方も別に。何かあったのですか?』


 気の所為か?しかし───。



『お···願い······助け···て』



「!」


 気の所為じゃない!?セツナ達でもない。


『お前達、今聞こえなかったか?』

『いえ、何も?』

『何が聞こえたんですか?』

『助けて、と······』


 二人には聞こえてないのか。俺だけに聞こえているようだ。LPとは別の念話テレパシーで、誰かが呼び掛けているのか?誰が?何処から?


『ボス、大丈夫ですか?』

『お師匠様······』


 二人の声音には、何処か憐れみが含まれていた。


『頭がおかしくなった訳じゃないわっ』


 失敬な。こいつら、後でお仕置きだ。




『こっち······』


 声に導かれ、奥へ奥へと進んで行くと、次第にその声がはっきり聞き取れるようになって来た。


(近いな)


 そう思うと同時に、何とも形容し難い気配も伝わって来る。明らかに囚われているだろう人達ではない、異様な気配だ。盗賊でも信者でもない、おそらく人間ですらない。


『ここ···』


 やがて辿り着いたのは、やけに大きな閉ざされた扉の前だった。

 気配といい大仰おおぎょうな扉といい、如何にも何かありそうな部屋で、また罠という可能性もないではないが、此処まで来て確かめないという選択肢は無かった。とは言え、寄り道かも知れないと思うと若干の躊躇いを感じざるを得ない。

 見張りの一人も居ないのも気になる。大して重要な部屋ではないとも考えられる。だがそれでも、この部屋に入るべきだと何かが告げている気がするのだ。それに自分の予感も、此処で何らかの進展があると感じている。

 何より、折角お招き・・・あずかったんだ。有り難く受けようじゃないか。

 意を決して扉を開く。鍵は掛かっていなかった。

 果たして、その中は───。



「何だ、これは?」


 意外過ぎる光景に、思わず声が漏れる。

 大きな円筒状の容器に満たされた液体に浮かぶ、魔物のサンプルのようなもの。幾つもある檻には、明らかに人為的な手が加えられた魔物の成れの果てとでも言うべきモノ・・が入っていた。

 どうやら此処は、魔物に依る何かの実験場のようだった。 




ゾンビは無くてボスは有るのかと疑問に思うかも知れませんが、その辺はノリですのでご容赦下さいw

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