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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 邂逅編
14/57

第14話 冒険者ギルド

此方こちらが冒険者ギルドです」


 そう言ってセツナに案内されたのは、周囲よりも一際大きい三階建ての建物で、如何いかにも大店おおだなといった感じの店構えをしていた。

 その建物の前で看板を見上げて唖然とする。


「こう来たか······」


 木製の大きな看板には、デカデカとこう書かれていたのだ。


『口入屋』と。


 まあ、人材斡旋業と言えばそうなんだろうけど、確かヤクザのルーツだという説もあったはずだが······。冒険者がヤクザな商売かどうかは置いておくとして、何とも不安になって来るな。


「馬は此方にお繋ぎになって下さい」


 セツナに言われた方を見ると、そこには馬や馬車等を待機させておく厩舎があり、良く見ると魔獣使いの従魔らしきものも居るようだった。狼のような魔物や、ボーパルラビットに似たウサギ型の魔物等その種類は様々だが、流石に飛竜はいないようだった。

 愚図るフェリオスを宥めて待っているように言い聞かせ、セツナと共にギルドの中へ入って行く。

 入り口は何故か西部劇で見るようなスイングドアで、開いて中に入ると、そこは外から見た感じとは全く違う西欧風の造りになっていた。

 入って直ぐの所には受付らしきカウンターがあり、受付嬢とおぼしき女性が数人立っている。その向かいの壁側には、何枚もの紙が貼られた大きめのボードがあり、おそらく話には良く聞く依頼ボードというやつだろう。奥の方には、酒場か飲食スペースと思われるテーブル席が幾つも並んでいた。


「和洋折衷もいいところだな······」


 思わずぼそりと呟くと、


如何いかがされました?」


 とセツナが気に掛けて来たので、何でもないと答えてカウンターへと向かう。

 今は昼を少し回ったくらいの時間帯で、カウンターの前には他に人の姿はなかった。多分だが、皆午前中に依頼を受けて、今は出払っている状態なのかも知れない。奥のテーブル席でも、数人が飲食をしているのみだった。

 自分等が入って来た時も、その数人がちらっと視線を向けただけで特に気にした様子もなく、テンプレの騒動に巻き込まれるということもなさそうなので、ホッと胸を撫で下ろす。

 一番手前のカウンターの前まで来ると、受付の女性がにこやかに声を掛けて来た。


「いらっしゃいませ。初めての方ですね。どういったご用件でしょうか」


 その女性は、受付嬢はギルドの顔であるというご多分に漏れず、非常に整った容姿をしていた。プラチナブロンドの腰まで届く長い髪に白磁のような肌、そして何より目に付くのはその長く尖った耳だった。女性はエルフだったのだ。長命と聞くエルフなので実年齢は分からないが、外見的には20歳はたち前後というところか。人当たりの良さといい、さぞかし人気があるのだろうなと思わせる。

 口を開こうとすると、横からセツナが出てきて先に口を挟んだ。


「アリシアさん、此方の方はギルドに登録に来られたのですよ」

「あら、セツナさん。お知り合いですか?それにしても早かったんですね」

「ええまあ、手応えの無い相手でしたから」


 セツナは自慢するでもなく、極自然体でそう答える。

 二人の顔見知りらしい会話に、やはりあれは討伐依頼だったかと内心で納得していた。

 そこで此方を置き去りにしていることに気付き、慌てて畏まるセツナ。


「あっ、申し訳ありません。出過ぎたことを」


 そして受付嬢のアリシアへ向き直り、


わたくしは依頼達成の報告に参りますので、此方の手続きの方、よろしくお願い致しますね。───それでは白夜様、また後程」


 そう言って会釈すると、セツナは別のカウンターに向かって行く。

 それを見て軽く溜め息をき、改めてアリシアに話し掛ける。


「聞いての通りだ。登録の方を頼みたい」

「はい。それでは此方の用紙に記入をお願いします。代筆が必要でしたら承りますが」

「いや、大丈夫だ。問題ない」


 と言って用紙を受け取る。【自動翻訳】は読み書きにも対応している為、普通に書くことが可能だった。

 アリシアから差し出された用紙には、名前、年齢、種族、出身地、クラス、レベルといった項目があり、さてどうしようかと少し考えていると。


「名前とクラス、レベル以外は任意で構いませんよ」


 とアリシアが補足してきた。


「随分と緩いんだな。レベルを書くのは何故だ?」

「新人の中には、早くランクを上げようと身の丈に合わない依頼を受けて命を落とされる方もいますので、そういったことを防ぐ為でもあります」

「成る程」


 でも、ってことは他にも理由があるってことか。


「あ、ランクについては後程説明しますので」


 アリシアの言葉に頷きつつ、あらかじめ【偽装】した通りに記入欄を埋めて行く。出身地には、ゲーム時に本拠地ホーム・ポイントにしていた場所を書いておいた。

 書き終えてアリシアに用紙を手渡すと、アリシアはそれに目を通し、ある部分で驚いた顔をした。


「アレクト大陸から来られたんですか」


 案の定、出身地の部分を見て驚いたようだ。


「知っているのか」

「話だけ、ですけど。彼方あちらにもギルドはありますから。ですが、船でも半年は掛かると聞いてますので、行ったことのある人は殆どいません。イダから出ている定期便が年に一度あるだけです」


 またイダか。どうやら港のようだな。それにゲームの舞台だった大陸も、これで存在していることが分かった。


(それにしても、船で半年とはな······)


 どういう訳か本拠地の設定はリセットされていて、転移しようにも出来なくなっていた。それに本拠地の設定に必要な転移石も、この世界では在るのかさえも不明だ。今のところ差し迫った理由がある訳でもないが、いずれは行かなければならない時が来るかも知れない。やはりこの世界のことを、もっと良く調べる必要があるな。調べるとしたら、やはり図書館とかそんなところか?この街にも在るだろうか。

 そんなことを考えていると、アリシアも話が逸れたと思ったのだろう。コホンと咳払いをして本題に戻した。


「それでは白夜様、ですね。改めまして、今回登録を担当させて頂きます、アリシアと言います。よろしくお願いしますね」

「ああ、よろしく。だが様はやめてくれ。そんな偉い人間じゃないんでな」


 言いつつ、ちらっとセツナの居る方に目を向けて、あっちは言っても無駄だろうなと、そんなことを思う。


「はい。では白夜さん、先ずはこの水晶球に手を置いて頂けますか」


 と、野球のボールより少し大きめの水晶を取り出してカウンターの上に置いた。


「これは?」

「この水晶は罪科の水晶球と言いまして、犯罪歴の有無を調べる魔道具です」


 やはり来たか、と思いつつも一応訊いてみる。


「どうしてもしなければならないことか?」

「申し訳ありませんが、規則ですので」

「いや、いいんだ。訊いてみただけだ。これでいいか?」


 と水晶球に手を乗せる。

 すると、水晶がにわかに青く輝き始めた。


「はい、大丈夫ですね。犯罪歴があると、この水晶は赤く輝くのですよ。そうなると今度は、【鑑定】のスキルを持つ職員に詳しく調べられ、最終的には衛兵に突き出されることになります」


 アリシアはそう言ってにっこり微笑んだ。


「そいつは怖いな」

「白夜さんは青く輝きましたので問題ありません。───それでは次に、このカードに血を一滴垂らして頂けますか」


 と今度は、何かの金属で出来たような薄いカードを差し出して来た。


「血を垂らすことで本人情報が登録されますので。このカードも魔道具の一種なのです」

「ほう」


 カードと一緒に手渡されたナイフで指に傷を付け、カードに血を垂らす。自分でする分には傷が付くんだな、と関係ないことを思っていると、カードがほのかに光を放ち、やがてそれは収束した。

 アリシアはそのカードを受け取ると、一言断ってから奥の部屋に行き、そして直ぐに戻って来た。


「只今定着の処置を施していますので、その間にギルドの説明をしますね」


 此方が頷くと、アリシアは一呼吸置いて話始める。


「冒険者ギルドとは、様々な方々の依頼を仲介し、冒険者の方達に紹介させて頂く場であり、その際にトラブルのないように色々取り計らっていますので、手数料として報酬から差し引かせてもらっています。最初に提示されている報酬額は既に引かれたものですので、ご了承下さい。もし依頼に失敗した場合、期限がある依頼なら期限内に達成出来なかった時、期限がなくても達成は無理だと判断した時等、そういった場合にはペナルティとして罰金が発生します。また、依頼を達成した場合でもその内容によっては、減額されることもあります」

「どんな場合に?」

「例えば、採集の依頼で採ってきた植物の状態が悪かったりとか、護衛の依頼を受けていて依頼主に怪我をさせてしまったとか、色々ですね」

「成る程」

「逆に、指定以上の成果だったり、依頼主に気に入られたりして報酬が上乗せされることもあります。そういった場合はギルドの評価も高くなりますので、ランクアップの査定に有利になったりもします」


 そこでアリシアはハッとした顔になり、やや苦笑いを浮かべた。


「少し先走りましたね。次にそのランクの説明をしますね。冒険者にはランクがあることはご存じですか?」

「ああ、ある程度は聞いている」


 そう言うと、アリシアは頷いて話を続ける。


「ランクには、Gから始まってF、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとありますが、最初はどんな方でもGランクから始めて頂きます。これはレベルの高さも身分の貴賤も関係なく一緒です。ランクを設定する理由は、先程も少し触れましたが、実力に不相応の依頼を受けて命を落としたり、場合によっては仲間や依頼主を危険にさらしたりと罰金では済まないこともありますので、そういったことを極力避ける為でもあるのです。尤も、今はその名声やステータスにばかり目が行っているのが現状なのですが······」

「名声?」

「高ランクの冒険者は、ギルドだけでなく国からも優遇されますから。それだけに義務も責任も大きいんですけどね」


 そんな義務は欲しくないな。余りランクを上げない方が良さそうだ。


「話を戻しますと、ランクはそれに見合った依頼を受ける為の指標です。依頼にはギルドで設定したランク付けがされてまして、個人では自分のランクの一つ上まで、PTパーティなら二つ上までの依頼が受けられます。因みにPTにもランクがありますので」


 すると受けられるのはFまでの依頼か。


「GとFの依頼はどんなのだ?」

「Gランクは駆け出しの冒険者ということですから、殆どが街の人々からの雑用や採集といった簡単なものですね。Fランクには、ゴブリン等の低レベルの魔物の討伐依頼も有りますが、レベルが低くとも集団で行動していることが多いので、ソロのそれも新人の方にはお勧め出来ません。ですが───」


 アリシアは登録の記入用紙に目を向ける。


「白夜さんは問題なさそうですね。このレベル、流石はカブラギ一刀流の方です」

「ん?何か勘違いしているようだが、自分はそのカブラギ流とやらとは無関係だ。そこにも書いた通り、別の大陸にいたんでな。セツナとも、つい先刻さっき知り合ったばかりだ」

「そうなんですか?それにしては親しげでしたが」


 アリシアが驚いた顔をするが、そんなことはセツナに聞いてくれ、と言いたい。自分の何に期待しているか全く分からないのだから。


「そんなことよりも、ランクを上げるにはどうするんだ?」


 国に目を付けられる程上げる気はないが、ある程度自由に依頼を受けられるくらいにはランクを上げておきたい。


「あら、ごめんなさい。また話が逸れてしまいましたね。Eランクまでは、一定数の依頼を達成するだけでランクは上がります。ですが、Dランク以上になるにはギルド指定の昇格試験と審査が必要となります」


 これも良く聞く話だが、念の為訊いてみる。


「どんな試験なんだ?」

「Dランク以上になりますと、災害級の魔物の討伐といった緊急依頼を受けて頂くことがあります。この際、多くの他の冒険者と協力してこれに当たることになりますので、きちんと信頼関係を築いて連携が取れるかが重要になって来ます。お互いに命を預けることになる訳ですから。そういったPTでの立ち回り方等を見る試験になると思います」


 パーティプレイか。ゲームでは野良のPTも良く組んでいたし、最大64人までの集団戦闘を行うエンドコンテンツもやっていたから、その辺の機転は何とかなりそうか。ゲームとは言ってもキャラクターの数だけプレイヤーもいたのだ。思い通りに行かないことも多かった。


「更に上のランクになりますと、貴族の方や有力者といった地位の高い方からの依頼や護衛等の仕事を受けることがあります。そういった時に、依頼主やその護衛となっている騎士も貴族である場合もありますので、礼儀や対応の仕方もそれなりに身に付けて頂く必要があるのです」

「成る程な。カイルが言っていたのはそういうことか」


 そう言うと、アリシアが目を見張る。


「あら、カイルさんに何か聞きましたか?」

「ああ、ギルドで上がって行くには強さだけでなく、仲間や依頼主との付き合い方も重要だと」


 アリシアはクスっと笑って言う。


「随分と気に入られたんですね」

「そうなのか?人が善さそうに見えたから、あれが普通なのかと思ったんだが」

「普通はそこまで親身にはなりませんよ。白夜さんに、何か感じるものがあったんだと思いますよ」

「何か、ねぇ······」


 正直、自分に何かがあるとは思えないんだが。中身は唯のゲーマーのしがないサラリーマンだったのだから。


「本当に不思議な人ですね······。私も色々と余計なこと喋っちゃいましたから」


 そう言って此方を見て来るアリシアの視線に居心地の悪さを感じ、思わず頭をガリガリと掻く。


「さて、最後になりますが、依頼の受け方についてお話します。基本的には彼方あちらにあります依頼ボードから受けたい依頼票を選んで受付に持ってきて頂くことになります」


 アリシアが手を向けた方を見る。やはり依頼ボードと言うらしい。


「受けられる依頼のランク規定は先程言った通りですが、ギルドから直接依頼を受けた場合に限り、ランクを問わないといったこともあります」

「指名依頼というやつか」

「良くご存じですね。ギルドが特定の個人もしくはPTを見込んで依頼を持ち掛けたり、または依頼主が直接指名して来たりすることもあります。勿論断ることも出来ますが、通常より報酬が良かったりギルドの査定も高くなりますので、余程のことがない限り受ける人が多いですね。それと此方から依頼する訳ですから、失敗のペナルティもありませんので」

「それじゃ緊張感が無くなるのでは?」

「指名依頼を受けるような方はランクが高い方が多いですので、ペナルティは無くとも信用問題に関わって来ます。そんなことで手を抜くような人は高ランクにはいません。と言うよりなれません」


 成る程な、高ランク冒険者の矜持というところか。どんな奴がいるのか会ってみたい気もするが、面倒に巻き込まれそうな気もするな。微妙なところだ。


「この街にも高ランクの冒険者とやらはいるのか?」

「そうですね、この街にはSランク以上はいませんが、Aランクは二人程います。今はどちらも依頼で出ていて街にはいませんが。因みに、セツナさんはBランクですよ」


 それを聞いて、セツナの意外に高いランクに驚く。剣術道場の師範代でありながら、それ程高いランクの冒険者ということに、何処かちぐはぐさを感じていた。


「あ、ちょっと失礼します。カードの定着が完了したようです」


 アリシアはそう言って奥の部屋に行き、カードを取って戻って来た。


「こちらが白夜さんのギルドカードとなります。このカードは他の街や別の国でも、ギルドの支部が在る所でしたら何処でも通用しますので。今回はギルドへの貢献の期待ということで無料ですが、紛失された場合の再発行には銀貨10枚掛かりますので気を付けて下さいね」

「分かった。ありがとう」


 とカードを受け取る。再発行が高い理由は大体想像がつくので、敢えて訊かなかった。魔道具だからとか、失くさない為の戒めとか、そんな感じなのだろう。


「これで登録は完了となりますが、何かご質問はありますか?」

「いや、今のところは。また何かあったら訊くことにするよ」

「はい、何時でもどうぞ。それでは、今後のご活躍を期待しています。ご登録、ありがとうございました」


 アリシアは輝かんばかりの笑顔を見せ、深々と御辞儀した。

 それを見て軽く手を挙げ、カウンターを後にする。そして奥のテーブル席の方へと向かう。そちらでセツナが待っているようだったからだ。




「白夜様、此方です」


 とセツナが手を振って来た。そのテーブル席まで行き、セツナの向かいの席に座る。


「登録、お疲れ様でした。お水はいかがですか」


 セツナが水の入ったコップを差し出して来たのでそれを受け取る。


「ありがとう、頂くよ」


 丁度喉が乾いていたので一気にあおり、特に冷たい訳ではなかったが、喉も潤って人心地つく。


「で、早速だが話を聞こうか」

「······はい」


 此方が切り出すと、セツナは背筋を伸ばし緊張の面持ちで居住まいを正した。


「実はその······」


 セツナは暫く迷って言い淀んでいたが、ようやく決心がついたかのようにその言葉を口に出した。



わたくしと立ち合って頂けませんかっ」

 

ギルドの登録に少し冗長になってしまいました。

中々話が進まなくてすみません。

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