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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 邂逅編
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第13話 ユバの街

「こいつはまた······」


 ユバの街に入り、大通りに出ると、思わずその街並みに目を奪われていた。

 此処に至るまで見聞きして来たこの国の在り様から、或る意味予想通りでもあり、また数多の異世界物の常道からは外れた光景がそこには広がっていたのだ。


「日光江戸村か、此処は······」


 思わずそんな声が漏れてしまう。

 石畳等ではなく、赤茶けた地面そのままの通りに、瓦葺きの屋根で日本建築風の家屋が立ち並ぶ。半鐘を下げたやぐらのようなものも建っており、通りのずっと奥には欄干を備えた板張りの橋が掛かっているのが見える。それらはまさしく、時代劇で良く見る江戸の街並みにそっくりだった。この場合は町並みと言うべきか。

 ただ、街行く人々は着物や羽織袴を着ていたりということはなく、チュニック等の極普通(?)の異世界風衣装のようだったが。その辺りの違和感が、観光地然として見えたのかも知れない。

 とは言え───。

 商店で買い物をする人々。腕を組んで楽しげに歩いている恋人同士らしき者達。大声で呼び込み合戦を繰り広げている露店商に、荷車を押してせわしなく駆け抜けて行く行商人。そして子供達がはしゃいで走り回っている。

 そんな生活感溢れる当たり前の風景に、この世界で生きる人々の営みを確かに感じることが出来た。


(こういうのを見ると、現実だって実感が沸いてくるな······)


 戦争だの盗賊だの、現代日本で生きてきた身としては、現実離れした絵空事のようで、どこか受け入れ難いものがあったのだろう。極普通の日常の風景に、酷く安心感を覚えていたのだ。

 その一方で、冷めた目で状況を見据えている自分がいることにも違和感を感じているが。おそらく、この身体に備わった適応能力フレキシビリティみたいなものが働いているのかも知れない。

 暫く立ち止まって眺めていると、行き交う人々が多種多様な種族であることに気付く。

 最も多いのは人族であるが、エルフやドワーフ、ハーフリングに、珍しいところでは竜人族なんかも見受けられる。その中にはミセリアもそれなりに居て、どうやら種族的に悪目立ちするようなことはなさそうだ。

 皮鎧やフルプレート等を着込み、剣や斧といった武器をを携えた冒険者風の者もそこかしこに居り、周りも特に気にしていないことから、冒険者という存在が極当たり前のものであることが伺える。


「ブルルル?」


 どうしたの?という風に首を向けてくるフェリオス。結構な時間立ち止まっていたようだ。


「ああ、悪い。行こうか」


 と、カイルに聞いていた冒険者ギルドの場所まで行こうと進み始めたその時。




「そこの御武家様っ」


 何やら呼び掛ける声が聞こえるが、雑踏の中他の喧騒に紛れてしまい、また自分のこととも思わなかったので、特に気にすることなく進んで行く。


「お待ちくださいっ、御武家様!」


 その声の主が間近に迫り、直ぐ後ろまで来るに至って、漸くそれが自分に向けられたものだということに気付く。

 周りも何事か、という視線を向けており、嫌な予感に若干警戒しつつ後ろを振り返ると、先刻盗賊達と対峙していた少女剣士が馬に乗ってそこに居た。そして此方に馬を並べて来た時点で勘違いではなさそうなので、馬を止め、その意図を問い掛ける。


「何か用でも?」


 警戒心からいささかぶっきらぼうな言い方になってしまい、気分を害していると思ったのか、少女は馬から降りて神妙な顔付きで頭を下げた。


「御無礼をお許し下さい、御武家様」

「ああ、いや、別に怒っている訳では······」


 そう畏まられたら此方こっちが恐縮してしまう。

 それにしても、勇者殿の次は御武家様と来たか······。この国の娘は、どうしてこうも時代掛かっているのか。それとも、この国ではこれが普通なんだろうか。そんな訳はない、と思いたい。

 改めて少女を見ると、部分的に防具を付けた胴着に袴姿で、腰には朱塗りの鞘に納められた刀という、如何にも剣術小町といった風情の出で立ちをしている。黒髪のポニーテールがそれに輪を掛けていた。年の頃は16、7といったところか。凛とした面差しが生真面目さを感じさせる。


「それと、御武家様はよしてくれ。自分は武家でも何でもない。ただの流れ者だ」

「御謙遜を。先程の剣気、さぞや名の有る武門の方と御見受けしました」


 剣気?【威圧】のことか?


「あんなものは唯のスキルだ。自慢するようなものじゃない。──というか、お前さん何者だ?」


 そう言うと、少女は恥じ入るように顔を赤らめ、居住まいを正した。


「しっ、失礼致しました。重ね重ね御無礼を。わたくしはセツナ・カブラギと申します。この街のカブラギ一刀流道場で師範代を務めております」

「ほう」


 剣術道場の師範代か。益々時代掛かって来たな。


(ん?カブラギ?それにクラナギか······。何か引っ掛かるな。思い過ごしか?)


「で、その師範代殿が自分に一体何の用だ?」


 今度は出来るだけ棘の無い口調を心掛けて訊くと、彼女セツナは、少しだけ安心した表情になり、そして遠慮がちに口を開いた。


「実は折り入って御相談したいことが御座いまして······」

「相談?」

「はい。ですが此処ではちょっと······。場所を変えさせて頂く訳には参りませんか?」


 ちらっと周囲に目を向けて言いにくそうにした。

 見ると、確かに店先に居る人々が此方の様子を伺っていたり、道すがら振り返ったりと、結構な注目を浴びているようだ。まぁ、最初に叫んでいた時点で目立っていただろうからな。


「それは構わんが、さっきも言った通り自分は流れ者だ。この街はおろか、この国にも来たばかりなんだ。ずは冒険者ギルドで登録をしようと思っていたところなんだが」

「それでしたら御案内致しますっ。わたくしも丁度、依頼の報告に向かうつもりでしたので」


 セツナが途端に顔を輝かせた。おそらく、これから頼み事をするのに、少しでも相手の役に立っておきたいという気持ちの現れだろう。


「他にも、この街のことでしたら何でもお訊きになって下さい。それなりに長く住んでおりますので、お得なお店や穴場の温泉等もお教え致します」

「温泉か、そいつは有り難い。この街に来た目的の一つだからな。是非とも頼む」

「はいっ。ですので、その······」


 やや上目使いになりながら、おずおずと言葉を繋ぐ。


「御用がお済みになられましたら、少しで良いですのでお時間を頂けたらと······」

「まあ、話を聞くくらいならな」


 そう言うと、目に見えて表情に喜色を浮かべた。


「有難う御座います!それで、あの······」

「なんだ?」

「御名前をお聞かせ願えませんでしょうか」


 それを聞いてうっかりしていたことに気付く。


「ああ、すまない。まだ名乗っていなかったか。白夜だ」

「白夜様······」


 噛み締めるように呟くセツナ。


「ブルルルッ」


 フェリオスが自分も紹介しろとばかりに鼻を鳴らす。苦笑いしつつ、ポンとフェリオスの首を叩いて。


「それから、こっちはフェリオスだ」

「ヒヒンッ」

「よろしくと言っている」


 セツナは一瞬目を丸くしていたが、直ぐに表情を緩ませてフェリオスに微笑み掛ける。


「はい、よろしくお願いしますね」


 その笑顔が少女らしい自然な表情だったので、少し安心した。生真面目なのは結構なことだが、何処か無理をして気を張っているようなあやうさを感じていたのだ。


「それではギルドまで御案内致します。参りましょう、白夜様」


 そう言うとセツナは馬に跨がり、先導して通りを進み始める。

 そこで遠巻きに見ていた人々も、興味をくしたかのように各々の生活へと戻っていく。体の良い暇潰しにされていたようだ。


「やれやれだな」


 目立ちたくないと思っているのに、どうしてこうなるのか。溜め息の一つもきたくなるというものだ。


「白夜様?」

「いや、何でもない。今行く」


 振り返って待っているセツナを追うようにフェリオスを進める。

 また妙なことになってきたな、そう思いながら。


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