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自分が猫耳勇者になった理由(わけ)  作者: 跡石左京
ナノワ皇国の章 邂逅編
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第1話 聖剣とオーク

初投稿作品です。

 ───そこは鬱蒼とした森の中だった。



 うっすらと開けた目に映ったのは、見たこともない樹木が天一面に繁っている光景だった。


(知らない天井······でもないな。なんだこりゃ、まだ夢の中か······?)


 目覚めたばかりで夢か現実か判然としない頭を軽く振って、昨夜のことを思い出してみる。


(夕べは確か······)


 仕事からの帰宅後、風呂と食事を済ませていつものように長年続けて来たオンラインゲームにログインしていた。そのゲームはよくあるタイプのファンタジー系MMORPGだが、リアルなグラフィックと単純でいて奥深いゲームシステムで、何年にも渡って根強い人気を獲得してきたゲームだった。

 LC(ゲーム内のグループ形態のひとつ)には所属しているものの、基本ソロ活動を好んでいた自分は、その時も一人で抽選型のNMネームド・モンスターを目当てに対象MOBを狩りまくっていた。そのNMは高性能のレアアイテムを落とす為に一時人気だったのだが、度重なるVUヴァージョン・アップで上位アイテムが実装された事により、下火となって取り合いをするようなライバルもほとんど見なくなった。自分的にも今となっては特に必要なアイテムというわけでもなかったのだが、コレクション的な意味と暇潰し・・・としてまったりとやっていたのだ。運良く数回の抽選でNMは湧いたものの、目的のレアアイテムをドロップしなかった為、再抽選までの1時間を待つ羽目となった。

 なのだが·····。

 その間LCメンバーと無駄話をしている内に、どうやら寝落ちしてしまったらしい。


 そして今の状況である。

 首を巡らせて辺りを見渡す。微かな木漏れ日が差し込むだけの薄暗い森の中のようだが、不思議と視界はクリアで比較的遠くまで見通せる。植物特有の緑の匂いと、それを運ぶ風の感触が次第に意識を覚醒させ始めていた。


(どうなってるんだ······?)


 やっぱりまだ夢の中なのだろうか······?

 不意に身体を起こそうとしてガチャガチャという金属の擦れ合う音に気付き、目線を下げて驚いた。


「なっ、なんだこれっ!?鎧!?」


 思わず立ち上がって自分の身体を見回す。その身には、白銀に輝く見事な全身鎧を纏っていたのだ。

 呆然としつつも、右手を掲げ、木漏れ日が反射して煌めくごつい手甲を繁々と眺めてみるが、その見た目に反して重さは殆ど感じない。

 この時、自分の上げた声の違和感を見過ごしてしたのだが······。

 ふと左手を腰にやると、やはりというかそこには剣を佩いていた。恐る恐る手に取り、抜剣して目の前に掲げてみると。


(こっ、こいつは!?)


 白い剣身ブレードに意匠を凝らした金の細工が施され、ガードの両端には赤と青の宝玉が埋め込まれた豪奢な片手剣。


 聖剣ブリュンヒルト。


 それは自分がやっていたMMORPG「ダークファンタジアVIIセブン」で、レリクスと呼ばれる伝説級武器の一つだった。実装当初はその作成に膨大な資金と時間が必要だった為に廃人仕様と言われ、半ば諦めていたものだったのだが、その後の修正で条件が緩和され、ある程度現実的な入手難度となったので頑張って作ってみたのだ。

 それでも完成までには一年を必要としたのだが。

 苦労しただけにそれを目の当たりにすると感慨深いものがあるが、鎧と違ってしっかりとした重量感があり、それが意識を現実へと引き戻す。

 ここはゲームの世界なのか······?


(いやまて、よく考えろ)


 元のゲームはラノベ等でお馴染みのVRMMOではないのだ。そもそも現状でVRヴァーチャル・リアリティ技術(この場合、精神ダイブ的な意味でだが)はまだ実現に至っていない。

 ───はずだ。例えば何処かの国が、秘密裏に軍事目的でその開発を進めていたとしよう。(実際に某国では軍事訓練にゲームシミュレーターを使用しているという話も聞く)そのテストプレイヤーとして選ばれた、という可能性がないとは言い切れない。その方法は別として。

 いや、ないな。仮に、本当に仮にそうだったとしても、何の因果関係もないちっぽけな島国の一小市民が選ばれる等という荒唐無稽な話は、信憑性の欠片もない。

 元々廃人プレイヤーとは程遠い、効率よりも楽しむ事に重きを置いていたまったりプレイヤーだったのだ。名の知れたコアな実力派プレイヤーは他にいくらでもいたはずである。自分が選ばれる必然性は皆無と言ってもいい。

 もっとも、完全無作為だったとしたらその限りではないが······。

 そんな益体やくたいも無いことを考えながら。

 剣の重さや木漏れ日の暖かさ、葉擦れの騒めき、何処からか聞こえてくる鳥の囀り等、驚く程の現実感が既に夢ということは否定している。

 そしてもう一つの可能性に思い至った時───。



「!!」


 何かが近付いて来る気配をはっきりと知覚した。

 動物か?だが、この禍々まがまがしい殺意や悪意といった感覚は普通じゃなかった。現実世界では感じたことのない強烈な圧迫感プレッシャーにジリジリと焦燥感が増していく。若干腰が引けつつも身構えながら待ち構えていると、やがて見慣れぬ木々や植物が生い茂る場所を掻き分けて現れたのは───。

 2m程の体躯。歪に膨れた筋肉でゴリラ並に横幅がある。そして豚のような頭部。


(オークかっ!?)


 ファンタジー系RPGではお馴染みの極めてスタンダードなモンスターだ。雑魚MOBとして有名だが、DFダークファンタジアVIIでは序盤から終盤までレベルを変えて出現し、プレイヤー側と同様にクラス分けまでされている為、一概には油断出来ない相手である。


「グルルゥゥッ」


 威嚇するように近付いて来るオーク。


「!」


 地の底から響くような唸り声、荒い鼻息、猛獣の舌舐めずりを思わせる涎を振り撒く。それら圧倒的な存在感が身をすくませる。


(これがゲームか!?)


 剣を持っていることも忘れて思わず後退りしてしまう。相手が弱腰になっていると見たオークが付け入るように襲い掛かって来た。


「ゴガァァァッ!」

「!!」


 オークは右手に持った粗末な小斧を振りかぶった。


(ヤバい、ヤバい、ヤバい)


 混乱していてまともな判断力もなかった為に、あろうことか咄嗟に剣を持っていない左手を上げて頭を庇う。そこへ振り下ろされる小斧。目を瞑って身を固くする。


「えっ?」


 予想とは違う感触に拍子抜けした声を上げてしまう。なんと左の手甲は、その攻撃を難なく受け止めていたのだ。軽い衝撃はあるがダメージを受けた様子は全くない。手甲も無傷である。

 唖然として状況を整理している間も、その無防備なところをオークは叩き続けていたのだが、子供がじゃれてポコポコ叩いている程にも感じなかった。


(これは······レベル差か?)


 ゲーム時、廃人ではないものの長く続けていた為に、ほぼ全ての職業クラスはカンストのレベル99になっていた。装備から見て現在は聖騎士パラディンのようだが、当然パラディンもレベル99であった。


(そう言えば、寝落ちする前は確か盗賊スカウトだったはずだが······まぁどうでもいいか)


 ゲームでは一定のレベル差(厳密に言うと相手の攻撃力とこちらの防御力の差なのだが)でこちらが上の場合、最大限の減少率ならば被ダメージは1に固定される。(0にはならない)ただし自動回復スキルがあり、その回復力の方が上回っている為に、実質はノーダメージという訳なのだ。

 それが分かると冷静に考える余裕が出来てくる。


(とすると、ここは大したレベルのモンスターが出るフィールドじゃないということか)


 とは言え、ちょっとした境目から出現レベルがガラリと変わることも珍しくない為、油断は禁物ではあるが。


(試してみるか)


 右手に持った聖剣ブリュンヒルトを無造作に振りかぶる。こちらの攻撃意思に気付いて微かに身動ぎするオーク。

 次の瞬間、一切の反応を許さずにオークを袈裟斬りにする。右上から左下に振り下ろされた剣筋は、剣術など習ったこともないのにまるでアシストを受けているかのようにスムースに流れ、輝くエフェクトを残して炸裂した。


「グォガァァアア──ッッ!」

「!?」


 オークが気色の悪い緑色の血と臓物を撒き散らして断末魔の叫びを上げる。返り血を浴びて驚き、思わず飛び退いてしまう。


「うわわわっっ!」


(やり過ぎだろう、これは!?)


 血溜まりに横たわり既に絶命しているであろうオークと、返り血を浴びた鎧の部分を見比べてドン引きする。


(············)


 しかし───。

 暫くじっと固まっていると、次第に自分が思い違いをしているのではないか、という疑念が沸き上がってきた。

 目の前のオークの死体が何時まで経っても消えないのだ。同様に浴びた返り血も、乾いて固まり始めているもののこびりついたまま残っている。


(どういうことだ······?)


 ゲームでは血飛沫等と言うものは演出としてのエフェクトが有るだけで、死体も素材等のドロップアイテムを残してすぐに消えるのが普通だ。これではまるで現実のようではないか。


(現実······)


 いやいやいや、そんなまさか───。

 思い付いても否定していたこと。

 物語としては有りがち過ぎる「異世界」。

 それもゲームに似た異世界とか都合が良過ぎるにも程がある。

 何か見落としていることはないだろうか?

 何故このタイミングで?何故自分なのか?自分の他にもいるのか?パラディンなのは何故か?何故地面に寝ていたのか?

 疑問は色々とあるが。

 もしこの世界がゲームに準拠しているとするなら、一つ釈然としないことがある。

 防御に関してはレベル差に絶対的なアドバンテージがあるが、攻撃力に関しては実はその限りではないのだ。どんなにレベル差があっても攻撃力と相手の防御力から導き出されるダメージ数値には上限があって、ある一定値以上にならないようにリミッターが掛けられている。これにレベル補正や属性修正、各種耐性等が加味されて最終的なダメージ値が弾き出される訳だが、それを踏まえても、例えレベル99でレベル1の相手を攻撃したとしても一撃では倒せないようになっていた。(モンスター側のHPがプレイヤー側に比べて高く設定されているというのもある)

 ただしこれは通常攻撃の話で、武器スキルを使った場合はまた別の話なのだが。

 顧みて先程の攻撃、ただの通常攻撃にも関わらず明らかにオーバーキルでの一撃死に見えた。(輝くエフェクトは武器スキルによるものではなく、聖剣の固有エフェクトだったりする)ゲーム通りなら有り得ない攻撃力だ。


(そういえばステータス、どうなってるんだ?ていうか、どうやって見るんだ?そもそもメニュー画面とかあるのか?)


 ゲーム時のようにクリック出来る場所を視界内に探してみるも見当たらない。

 ならばと思い、定番の頭で念じてみると。

 目の前に半透明のメニューボードが浮かび上がった。


「おお······!」


 呆気なく出現したことに拍子抜けしつつ、今後の立ち回り方にも思いを巡らせ始める。即ち、魔法やスキル使用も念じるだけで出来るのではないか、ということだ。その辺は追々試してみるとして、まずは確認しなければならない事がある。

 ログアウトの方法があるかどうか、だ。

 例え此処がゲームの世界だったとしても、もし何者かの意思が介在しているとしたら、ログアウトの項目は潰されている可能性が高い。

 それでも念の為だ。

 しかし───。

 一縷の望みも空しく、ログアウトの文字は何処にも見当たらなかった。


(やっぱりないか······んっ?)


 期待はしていなかったものの若干気落ちしつつ、何気なく最後に開いたステータス画面を見て目を疑う。


「はぁっ!?レベル1000?なんだこりゃ!?」


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