6話 魔術(新技術)
今回で魔術具について説明されるんですが、自分でも書いてて分からなくなる位なので質問があれば全然受け付けます
再生した左腕を回したり、動かして動作の確認をする。こうしてすぐに生えてくるのは便利かもしれない。もっとも、元の体の時は腕を切り落とすような状況にはならなかったが。
「大丈夫ですか?」
「まあ、今のところは特に何も…」
シャルロットは俺の左腕を見つめながら、いつでも治療が出来るようにと包帯を手に持っていた。
メーティはその光景を眺めながら顎を撫でる。
「不死身の一族がいるという噂も聞くが、実物を見るのは初めてだな」
そんな一族がいるのか。少し信じられないが、自分にとっては今しがた彼女が魔術を使ったことの方がよっぽど信じられない。
その事を聞こうと口を開いた瞬間、メーティは明日の探索について話し始めた。割と朝早くからここに集合らしい。
「ところで、君らは今日の宿を見つけてるのか? 街の宿は客でいっぱいと聞くが」
俺とシャルロットは顔を見合われる。無論、宿などあるはずも無い。
「この街に着いてから忙しかったので…。宿の事は考えていませんでした」
「ほうほう、少女2人を路上で寝かせるわけにもいかまい。今日はウチに泊まるといい。ベッドなら余っているから」
俺はどこでも寝れれば良かったんだが、女の子のシャルロットはそういう訳にもいかない。ここはメーティに甘えよう。
「それじゃあ頼む。ところで―――」
「わかった。入口で待っていてくれ。装備を閉まってくる」
返事を聞くやいなや、メーティは駆け足でどこかへ行ってしまった。これでは魔術具についていつまで経っても聞けない。
……よく考えたら、別にメーティに聞く必要ないじゃないか。俺の横にも若き現代人の少女がいるではないか。
「なあ、魔法具って何だよ」
不意に飛んできた質問にシャルロットはピクッと反応したが、目が泳ぐばかりで答えは返ってこない。
「実は私、村からほとんど出たことがなくて……。私も魔術具は初めて聞いたんです」
どんな箱入り娘だよ! とツッコミたくなったが、ローブの墓があるというだけで魔物の彷徨く村に居座っていたのだからなんとなく納得してしまう。
メーティが来るまでふと空を見上げる。辺りはすっかり暗くなっていて星が輝いている。こうしていると天国はどこにあるのだろうと考えてしまう。空の上にあるとしたらみんなは俺の事を見て、何見てんだ! 遅いんだよ! と怒っているかもしれない。
「魔術具を知らない? それは冗談で言ってるのかい?」
甲冑を外したメーティはその影響もあってか柔らかい印象が更に増し、騎士よりも1人の女性という感じがした。
暗い夜道を歩きながら、メーティは自身のポケットを探ると先程まで付けていたイヤリングを取り出し、俺の手の平にのせた。蒼くぼやけた光を放つそれは、中心に丸い碧色の宝石が埋め込まれていて想像以上に軽かった。
「それが魔術具だよ。アクセサリー型の」
「悪いが、型とか以前に何故これを持っていると魔術が使えるのかを知りたいんだ」
本来、魔力を持ち、魔術が使える人間は僅かなはずだ。だからこそ貴重で強力なものだった。
「魔法具というのは“魔力を溜めておく物”と考えてくれればいい。その溜めておいた魔力を使って魔術を行使する訳だ」
「でも永遠に溜めておく事は不可能じゃないのか? 魔術を使えば魔力だって無くなっていくはずだろ?」
「うむ、だから定期的に魔力の補給が必要だ。そういう店があるんだよ」
「補給って……、簡単に言ってるがその魔力は―――」
「イデアちゃん落ち着きましょう」
シャルロットに遮られ、ハッと我に返る。食い気味になりすぎていたと自覚して、イヤリングをメーティに返した。
「ちょうど今から、その補給に行くところだ。詳しい話はそこでにしよう」
そうメーティが言うと先陣を切るように歩くスピードを早めた。
俺が隠居暮らしをしている間に世界は変わったのだ。今は誰でも魔術が使える時代。街並みは変わってないように見えても魔術の常識は変わる。いや、気づいてないだけで何もかも……。そう考えるとなんだか怖くなってきた。
目的の店に到着すると店主らしき人物が店仕舞いをしていた。それを見てメーティは駆け足で寄っていく。
「おじさん待って! これだけ補給させて!」
「ああ? ……なんだメーティか。今日は終わりだ。また明日の朝にしな」
「そこを何とか、お願い! お願いします! いつも来てるじゃん」
彼女の必死に頼み込む姿が先程部下に一喝した時とは大きく異なっていて苦笑する。シャルロットもそう感じたらしく、さっきと印象が違いますねと呟いた。
「ったく仕方ねーな。今回だけだぞ」
亭主はイヤリングを受け取ると、直方体の装置の中に入れた。どうやらあれで魔力を補給するらしい。
「嬢ちゃん達も補給するのかい?」
俺達は顔を見合わせる。互いに魔法具の存在を今しがた知ったばかりだ。それ自体を持ってるはずも無い。
「お気持ちは嬉しいんですが、私達魔術具はもってないんです」
「ん? よく見たら杖を持ってるじゃないか。てことは、本物の魔術師なのか。こりゃー失礼した」
「えーっと、まだ魔術は使えないんですけどね」
シャルロットは少し困ったように頭を触りながら照れ笑いをする。
「そんな事より、魔法具について聞きたい」
そう尋ねると、店主は不思議そうに俺を眺めた。誰でも知ってるはずの当たり前のことを聞いてるのんだからそうなるだろう。
「イデアが聞きたいのは補給する魔力が誰のどんな魔力か、みたいなことかな?」
その通りだ。魔力は大本は同じだが、人それぞれで異なっている。もしも、他人の魔力で魔術を行使しようものなら何が起きるか分からない危険な行為だ。
「確かに、人の魔力を使うのは危険だ。でも、この補給する魔力は誰のものでもないフリーなものなんだよ。自由魔力と呼ばれていてね。簡単に例えると、人が持ってる魔力が“ ワイン”だとすれば、補給に使われているのは“水”だ。まだ誰の物にもなってない、何にでもなれる魔力」
フリーな? 誰の物にもなってい? そんな魔力が存在していたのか。いや昔、仲間の誰かが“自然から魔力を貰う”とか言っていたような……。
「でも、そのフリーな魔力ってのはどうやって手に入れてるんだ?」
「さあな、俺にもわかんねえよ。色々と方法は有るらしいがな」
そう店主が答えると、装置がチーンと音をたて、イヤリングが飛び出す。
「ほら、満タンだよ。明日は洞窟の探索らしいが生きて帰ってこいよ。常連が減るのは寂しいからな」
店主からイヤリングを受け取ると代金を払い、その場をあとにした。
「魔法具については理解出来たか?」
帰路の途中、メーティがそう尋ねる。
「まあ、何となくは」
つまりは、魔法具さえ持ってれば誰でも魔術が使えるわけだ。原理はともかくそれが分かれば十分だ。
「私の家はもうすぐだ。ゆっくり休んでくれ」
その夜はメーティの自宅で過ごした。
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次回は目線変更というか、主人公が変わります