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5話 魔術(魔術具)


 「ダメダメ、君らじゃ入団できないよ」

 試験会場の入口の椅子にふんぞり返る男は軽くあしらうと、シッシッと動物でも追い払うように手を動かした。

 「なんでですか?」

 シャルロットが問いかけると、男はため息をつき、頭を抱えた。

 「そこの片目だけ赤いお前」

 一瞬誰のことを言ってるのか分からなかったが、数秒沈黙が続き、シャルロットが俺に目線をやったところで理解した。

 「何だそのふざけた格好は、何一つまともな装備がねえじゃねえか。せめて剣の1本でも付けてから出直せ」 

 確かに、シャルロットから借りてる服を着ているだけで、武器はおろか他に何一つ持っていなかった。

 「別に、剣なんて無くたってお前程度なら一瞬で倒せるけどな」

 シャルロットが、まずいですよと男には聞こえないように囁くが、返事はせず、ただ男を見据えた。

 「あ? 舐めた事言うガキだな。なんなら入団試験って名目で甚振ってやってもいいんだぞ?」

 男は立ち上がり、剣柄を握った。それが抜かれるのも時間の問題だろう。

 目だけを一瞬逸らし、充填(チャージ)出来そうな物を探した。しかし、適した物が見つからない。最悪、相手から剣を奪えばいいのだが。

 「待て!」

 場を制したのは凛としたよく通る声だ。声の主は男の後ろから現れた。腰の辺りで纏めた黒髪に、鋭い双眼、細く鋭い剣を腰に携え、所々に甲冑と右耳にイヤリングを付けた気品のある高貴な女性。

 「貴様、何をしている? まさか、少女2人に剣を振るうつもりじゃあるまいな?」

 女は男の耳元で囁くと、男は顔に冷汗を浮かべ、いつの間にか柄から手を離し直立していた。

 「い、いえ、お、俺はこの2人が試験を受けに来たものですからその対応を……」

 声の震えて、明らかに緊張している男はそう弁解する。こういう場面を見るのは同じ男として可哀想なものだ。………今は違うか。

 「そうか、ならもういい。行け!」

 そう怒鳴られると、男はそそくさと走っていった。

 女はほっとため息を付くと、鋭かった眼は緩まり、優しさがじんわりと滲み出てきた。

 「部下の無礼な態度を許してくれ、明日に控えた探索に気がたっていたのだろう。私はメーティ・グリーフ。サンバル様直属の騎士だ」

 彼女の自己紹介につられ、シャルロットも名前を述べたので、仕方なく自分もイデアだ、と短く言った。

 「探索隊の入団試験を受けに来たそうだが、残念なことに試験はもう締め切ってしまった」

 先程、彼女が言ってたように探索も明日らしいので締め切られても仕方ない。

 「しかし、安心しろ。先程の無礼の謝礼も兼ねて、特別に私が試験をしてやる。本来のものとは異なるが構わんだろ?」

 「良かったですね! イデアちゃん」

 他人事のように言ってるがお前も受けるんだぞ?

 「それで、試験内容は?」

 「2人同時でいい。私を倒してみろ!」

 何とも分かりやすい。どっかの秘宝を取ってこい! とか自分の肘を舐めろ! とか言われるかと思ってたが、こういうので良かった。

 「2人同時というのは、君らの実力を見くびってる訳じゃない。私的には一騎打ちが望ましいんだが、連続で相手するのは少々キツそうでな。構わんだろ?」

 ちら、とシャルロットを見ると彼女と目が合い、短く頷いた。

 「その試験受けてやるよ」

 

 

 

 案内されたのは闘技場。地面は砂で覆われ、見上げると天井は無く、太陽が沈みかかっていた。メーティは隅の方まで進んでいった。

 「早速始めたいんだが、イデア。君は武器を持っていないようだ。出来れば、そこから好きな物を使ってくれないか? 丸腰の娘に剣を振るう気にはなれない」

 メーティは闘技場の隅を指す。そこにはあらゆる武器が雑に積まれ山が出来ていた。

 「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 山を崩しながらちょうど良さそうな物を探した。すると、麓の方に錆び付いた1本の物体を見つけた。元は剣だったのだろうが、刃は掛け、錆の塊と呼ぶのが適しているかもしれない。

 「そんな物でいいのかい?」

 「ちゃんとしたやつだと貴女を殺しかねないからな」

 先程までの笑みがあった表情は消え、再び鋭い目付きになった。

 「ほう?なかなか言うね」

 「あと、俺1人でいい。あいつには手を出さないでくれ」

 えっ!? とシャルロットが声を上げる。

 「大丈夫なんですか?」

 「大丈夫だよ」

 魔術の使えないシャルロットがいたところで戦力にはなりえない。いない方が気を配らなくていい分、集中できる。

 「君達が良いなら私は構わない。さて、始める前に握手といこう」

 そう言うとメーティは歩み寄ってきた。彼女が不意打ちをするとも思えなかったしそれに応じた。

 「お望みどうり一騎打ちだ」

 「生憎だけど、小娘1人に倒される程弱くはない」

 こうして相手に触れた時は必ずやる事がある。相手の魔力の確認だ。俺は肌に触れれば、どの位魔力を持っているか位なら分かる。魔術師なら観るだけで分かるらしいが、俺は触れないといけない。

 メーティの体から魔力は全く感じない。つまり、魔法は使えないという事。戦闘が始まれば距離を詰めてくるに違いない。そうなればスキをついて剣を弾いてやれば俺の勝ち。

 そこまでシュミレーションしたところで手を離し、互いに距離をとった。

 メーティは足元に落ちていた小石を拾い、思いっ切り頭上に投げ上げた。

 「あの石が地面に着くのが合図だ」

 小石は空中で折り返し、速度を上げて落下していく。右手に剣を持ち直す。

 石が地面に接触したのと2人が言葉を発したのは同時だった。

 「充填(チャージ)!」

 「氷樹霊の根(フローズリルーフ)!」

 その瞬間、地面から透明な樹の根が飛び出し左手を束縛した。

 何故?? いつまで経っても理解は追いつかない。何故魔力を持ってない彼女が魔術を使える?今までの常識がひっくり返ったような、水中で燃える炎を見たような気分だ。

 「その様子だと魔術を観たのは初めてか?」

 「何故お前が魔術を使える!」

 無意識に聞いてしまう。

 「魔術具(チャーム)も知らないのか。お前はどんな田舎で育ったんだ?」

 魔術具(チャーム)? 俺の知らない技術だ。原理は分からないがこいつは魔術が使える。

 根が絡まった左手を引っ張る。腕が軋む音が聞こえるばかりでびくともしない。

 「その根は斬撃、打撃を一切通さない。切ろうとしても無駄だ」

 メーティを無視して根に剣を振るうが、切ったという感触は全くなく、水に剣を通している気分だ。

 「隕鉄采槌(メテオフォール)

 メーティが唱えると、俺の頭上に巨大な岩石が出現した。その岩石はそのまま落下する。俺を押しつぶすには充分な大きさだ。

 岩石が落下しきると、重音と砂煙が闘技場を覆った。その場にいた全員の視界が塞がれた。俺を呼ぶシャルロットの声が聞こえる。

 「大丈夫だ。死ぬほどの魔術じゃない」

 砂煙が少し和らぎ、メーティは違和感を覚えると、目を疑った。目にしたのは自身の喉元に構えられた刃。

 「ほう、君ならどうにか脱出するんじゃないかと思っていたよ。でも、どうやった?」

 俺は何も答えない。ただ、横目で彼女を見据える。シャルロットがまだ俺の名を呼んでいるが、2人の間には沈黙が流れた。

 ようやく砂煙が完全に消えると、メーティは納得の表情を浮かべ、口元を緩ませた。想像より反応が薄い。もっと驚くと思っていたんだが。

 「なるほど、自身の腕を切り落としたか……」

 左腕の切り口から血が滴る。彼女の言う通り、岩石に接触する直前、自分の左腕を切り落としたのだ。痛みはあったが、どうせ治ると予想していたので躊躇はなかった。現にもう腕の再生が始まっている。

 「君は不死身なのか?」

 「どっかのクソ女のせいでな」

 彼女は苦笑し、あっさりと両腕を上げた。

 「降参だ。君らの勝ち」

 全身に衝撃が来たのはその時だ。一瞬ドキッとしたが、何の事は無いシャルロットが飛びついてきたのだ。

 「また無茶して! 早く切り口に包帯を巻かないと!」

 「えぇ……。もう生え始めてるから逆効果だと思うんだけど……」 

読んでいただきありがとうございました。よろしければブックマークと感想等もよろしくお願いします!


そろそろ貯めておいた分が無くなりそうです。


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