3話 杖(飾り)
岩の上に積まれた石。それを睨みながら片手で杖を握るシャルロット。
シャルロットは少し震えながらもゆっくりともう片方の腕を石に向ける。
「炎よ!!」
時が満ちたかのように炎系魔術を口にすると彼女の手から炎が飛び出す。………本来ならこうなるはずだ。しかし、現実は酷なもので何も起きない。どんな初心者でも煙くらいは出るものだが、これは相当だな。
「やっぱり無理ですよー。魔術なんてできません」
シャルロットはその場にへたれ込んだ。
「そんなに落ち込むな。魔力があれば誰でも出来るレベルだ。才能はあるはずなんだから」
そもそも、魔力を持っている人間が僅かなのだが、何と言ってもローブの孫だからな。魔力が無いわけがない。
「そういうイデアちゃんはできるんですか? さっきも木の枝で魔物を倒しちゃいましたけど」
彼女の表情から嫌味ではなく知的好奇心からの質問という事は見て取れた。
「ああ、あれは…」
足元に生えた茎の長い雑草をちぎる。
「例えばこの草。当然だが普通に振るだけじゃ何も起きない。でもここに俺の魔力を注ぐと…」
拳に力を込め雑草に魔力を注いでいく。これが充填。
雑草を岩に向かって垂直に振り下ろす。すると、轟音が響き岩を粉砕した。
「と、こんな感じで雑草も剣みたいになるわけだ」
それを見て唖然とするシャルロット。しかし、しばらくすると目を輝かせ、懇願するかのように尋ねた。
「そ、それ私にもできますかね?」
「何とも言えないな。さっきの炎系魔術のような基礎ができないようじゃお前が何に向いてるかわからん」
「まずは基礎が出来るようになれってって事ですね? よし、まずはそこからです!」
握り拳を作り、やる気をみなぎらせるシャルロットを横目に見ながらふと考える。何故、ローブは孫である彼女に魔術を教えなかったのだろう。と、万人から伝説と称えられたローブが魔術の基礎も伝授しないのは想像できなかった。いや、彼女が生まれた時には既に亡くなっていたのか? もしくは……。
様々な憶測が頭の中で飛び交い、弾けて消えては別のものが飛んでくる。
考えても埒があかない。目の前のシャルロットに聞くのが一番だ。
「なあ、お前のばあちゃん凄い魔術師だったんだろ? 魔術の基礎とか教わらなかったのか?」
そう尋ねると彼女は俯き、顔を曇らせた。
「おばあちゃんは魔術の事話したがりませんでしたから……」
謎が更に深まった。最後の晩酌の時ですら魔術の研究をすると意気込んでいた彼女が孫には魔術の事を話したがらないときた。摩訶不思議にも程がある。もはや、この世界は俺が元いた世界によく似た別の世界じゃないか? と疑ってしまうレベル。寧ろその方が有り得る。
これ以上考えてもこのミレニアム問題は解けそうもない。ちゃっちゃと死んで本人に聞いた方がいい。そう割り切る事にした。
「そろそろ行こう。もうすぐ街に着く」
街なら何かしらの情報があるだろう。世界を救うために倒さないといけない悪の存在。若しくは俺を殺せる存在。どちらかでもあれば万々歳。
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