13話 妹(奴隷)
土日と更新出来なくてすいません
すいません、ミスがありました。
体を揺すられているのがわかる。今日も妹が起こしに来た。いつもならわざと寝たふりをしているんだが、今日は魔力を使い果たしたせいか、やけに体がダルいんだ。だから看病して欲しいな……。……いや、ちょっと待て。俺家に帰ってたっけ? 確か、アミーが帰ってそのままのような。家であってくれという淡い期待をしながら瞼をゆっくり開ける。目の前には岩。うん、洞窟だね。
なら俺を揺するのは誰だ? 横に寝ていた体を起こして確認する。そこには全身に包帯を巻かれた少女が割り座をしていた。包帯とは対な髪の色。確か、サンバルの奴隷だ。
少女を入れていた檻は見当たらず、辺りを見ても俺と彼女だけだ。魔物と乱闘になった場所とは違う。
「どうやってここまで来たんだ? ほかの奴らは?」
そう聞くと、少女は立ち上がり身振り手振りで勢いよく説明をしてくれる。円を書いているのだろうが全くわからん。
少女は説明を終えると、疲れたのか息を荒くし、俺に眼差しを向ける。分かったか? と聞き返しているようだ。
「すまん、全くわからん」
少女は頭に手を当て、落胆している。いや、あんなのわかる奴いないだろ。すると、少女は名案でも思いついたように指をピンっと上げる。その指をそのまま地面まで持っていき何か書き始める。
“転送魔術が使われたみたい”
そう地面に記す少女。喉元に傷跡があるのが見えた。今までの行動を見ると喋れないのかもしれない。なるほど、それで場所が変わった理由か。
「じゃあほかの奴らは違う場所にいるわけか」
少女は静かに頷く。これは困ったな。ここが洞窟内のどこに当たるのか分からないし、分かったとしても帰る手段を持ってない。ここに居るのは魔力も枯れ果てた俺と声の出ない奴隷の少女。唯一の救いはここがまだ行き止まりでは無いこと。出来る事はその道進むだけだ。少女もそのつもりらしく、既に立ち上がっていた。
どれだけ奥に進んでもあるのは岩。ここまで景色に代わり映えが無いと、一定の距離をループしてるのではないかと有りもしない妄想が頭に過ぎった。
奴隷の少女は俺のローブの長い袖を掴みながら少し後ろを歩く。これでは俺が散歩させられているようだ。
「誰もいないな」
独り言のつもりだったが、少女は首肯した。他の奴らはどこに転送されたのだろう。
ふと気付くと、進行方向から足音が聞こえた。人間である確証も無かったので立ち止まり、警戒する。少女も俺の影に隠れた。
しかし、現れたのはフラフラで今にも倒れそうな男だ。歩き方もおかしく、片足を引きずっている。人間である事を安心し、俺は警戒態勢を解いた。
「た……頼む……水を、くれないか……」
枯れ果てそうな声でゆっくりと近付いてくる男。目の前で倒れかかったので反射的に支える。
「大丈夫か?」
「おお、ありがとう……。助かった……」
少女も安心したのか、隠れるのを止めて体を出した。
男には目立った外傷も無く、かといって肌が萎びているわけでもない。探索が始まったのも今日だから飢餓状態になるとも考えずらい―――。
その瞬間、腹部に鋭い衝撃を感じると同時に後ろに突き飛ばされた。尻もちをつき、腹部を見るとじんわりと血が滲んでいる。傷は深くなかったが、対象に俺の顔が青ざめる。
「よし、お前ら出てこい!」
今まで衰弱していたはずの男がナイフを片手に少女を取り押さえ仲間を呼んだ。すると、奥から2人程の男がわらわらと現れる。
「悪いけどよ、この奴隷を連れてくのは俺達だ」
「どういう事だ!?」
「情報が来てないよーだな。サンバルの元にこのガキを連れてけば報酬が10倍になるんだよ」
この男が言うには、サンバルが終焉訃告書を見つけ出し、それが本物か確かめるため、全員にこの少女を連れてくるように連絡したらしい。どうやらリングには通信機能もついてるようだ。
「おら! 立て!」
男達は少女を乱暴に立ち上がらせ、腕を掴んで無理やり連れていこうとする。少女も抵抗はするものの、3人に勝てるわけもない。
別にこのまま放っておいてもデメリットは無かった。しかし、嫌がる少女を見て見ぬ振り出来るほど白状者では無い俺は、おい! と奴らを呼び止めていた。
「幼気な少女を乱暴に扱うとは黙っておけないな……」
決めゼリフを吐き懐を探り、魔術具を手に取ろうと……。
……あれ? もう1度よく探すが魔術具は見つからない。
「もしかして探してるのはこれか?」
男は片手にある緒戦の炎矢の魔術具を俺に見せた。
「何でそれを!?」
「さっき倒れる演技の時に奪った」
マジかよ……。確認してから呼び止めれば良かった。めちゃくちゃかっこ悪いじゃん。
「もしかして兄ちゃん魔術具攻撃とかするつもりだった?」
こいつらに兄ちゃんとか呼ばれるのは誠に不本意ではあるが、今はそんなこと指摘する余裕はない。
「は、ははは………。そんなことする分けないじゃないですか……。貴方方にプレゼントしようと思ってたんですよ……」
「へぇ〜、ありがとなー。じゃあ、あんたで試し打ちさせてもらうわ」
気付くと男は俺に魔術具を向けている。これ最悪死ぬぞ。アミーを呼び出す魔力も残っていない。万事休す。本日2度目にして人生最後のピンチ。
「あのまま無視しとけば助けてやったのに……」
男が緒戦の炎矢を行使した瞬間、魔術具が小さな爆発を起こし、炎矢は誤って男の脳天を打ち抜いた。悶える暇もなく男は倒れ、地面に彼の血が広がっていった。その場にいた誰もが唖然とする。
運がいいのか魔術具が壊れていたらしい。アレを自分が使っていたと思うと背筋が凍った。
「て、テメエ! 魔術具に細工してやがったな!?」
しかし、ピンチなのは変わらない。残った2人の男が武器を取り迫ってくる。
「充填……」
奥から素早い足音が駆けてきたと気づいた時には、既に片方の男が倒れていた。
「何だテメ―――」
雫の垂れた蜘蛛の巣のように光る髪、妖々とした赤い瞳。疾風の如く現れた少女はあっという間にもう1人も倒してしまった。確か、イデアと呼ばれていた娘だ。
男2人を一瞬で倒したイデアはその手に持った剣を眺め、ため息をついた。
「やっぱり、充填が上手くいってない。……あのクソ女めその位はまともに機能する体にしろよ」
イデアは奴隷の少女を起き上がらせてから俺の元へ近づき、手を差しのべた。
「あいつら死んだのか?」
「いや、気絶してるだけだ。骨は折れてるかもしれないがな」
そう言って俺も起き上がらせた。傷口が痛むが動けない程じゃない。
少女は石をとると地面に文字を書き始めた。
“早く奥にすすまないと”
「おい、ちょっと待てよ! お前サンバルの所まで行ったら殺されちまうんだぞ!?」
少女は首肯する。それでも彼女の意思は変わらないらしく、目には強い決意がこもっていた。
“私が行かないとお姉ちゃんが殺される”
「なるほど……」
イデアが少女に寄り、肩膝をつき、目を合わせる。
「お前がメーティの妹か」
少女は首肯した。
読んでいただきありがとうございました。
ちょっと前まで毎日投稿してたのが信じられないくらいです。
終焉訃告書編完結までは2、3日に1回くらいのペースでやっていきます