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10話 分裂(黒)

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 サンバルが立ち去った後、シャルロットが包帯を片手に寄ってきた。

 「大丈夫ですか?」

 慣れた手付きで左手に包帯を巻いていく。この調子で行けばミイラになるのは時間の問題かもしれない。

 俺の手当が終わると、シャルロットはムチで打たれた少女の手当を始めた。少女は抵抗することもなければ、感謝する様子も見せない。虚ろな目をしながら、なされるがままシャルロットの治療を受けている。

 「これでよし! 痛かったですよね? もう大丈夫ですよ」

 少女は巻かれた包帯を一瞥するとシャルロットの手を取り、手の平になにか文字を書いた。そして、黙って檻の中に入った。よく訓練、いや調教されている。手足も自由なはずなのに抵抗もしなければ逃亡もしない。何より、全てを諦めたような目がそういった行動をとる気がないことを語っていた。

 シャルロットが照れくさそうに手の平を見つめながら戻ってきた。

 「なんて書かれたんだ?」 

 「多分ですけど、“ありがとう”って」 

 メーティが檻に近づいて行く。すると一瞬、少女の瞳から生気が漏れた。

 少女はメーティも方へ寄り、互いに手を握り合う。2人の間を無慈悲な鉄の塊が阻むが、出来るだけ顔を近づけあっていた。

 「大丈夫、もうすぐだから……」

 メーティはそう囁き、名残惜しそうにしながら俺達の元にやって来た。

 「君があの子を助けてくれたんだってね、感謝する」

 「別に構わない。それよりもあの子はなんでこんな所まで連れてこられたんだ? ムチを打たれるだけではないだろ?」

 メーティは檻を一瞬見てから、言いづらそうに語り始めた。

 「終焉訃告書(アメレット)は読んだ者の命を奪う。これは知っているよな?」

 シャルロットが「ええ」と肯定する。

 「でも、今回の探索で見つかるのが本物とは限らない。あの子はそれを確かめるために連れてこられたんだ」

 「つまり、本物だったら……」

 メーティは何も言わず、顔を俯かせ小さく頷いた。しかし、彼女の瞳に、そうはさせないという強い意思を感じた。彼女は密かに偽物である事を願っているのかもしれない。

 「では、私は皆に指示を出さなければならないから」

 そう言って彼女は全員から見える岩に登ると、集団を二つに別ける為に指示をだす。どうやら別れることを見越していたようで、リングにそういう機能が付いているらしい。

 「リングが黒色になった者は右へ、白になった者は左に移動してくれ」

 大衆はゆっくりとだが移動を始めていた。俺の色は黒だ。シャルロットのを見ると白色になっていた。

 「どうやら別れちゃったみたいですね」

 シャルロットは不安そうにしながらも笑って見せた。それを見て俺は咄嗟に彼女の腕を掴む。

 「ダメだ。俺もそっちに行く」

 「ダメなのはイデアちゃんですよ。他の人たちも別れてるんですから」

 ダメなんかじゃない。俺はお前を守らなきゃいけないんだ。

 それを見かねてかメーティがこちらにやって来た。2人のリングを見てこの状況は理解したらしい。

 「二人とも無理に別れることはない。特別に一緒でも構わないが」

 「私達だけ特別扱いは嫌です。ちゃんと別れます」

 変に頑固で真面目な所はローブそっくりだな。メーティも許可してるのだから従えばいいものを。

 「イデアちゃん……痛いです……」

 彼女を掴む力が強くなっていたのに気付き、急いで手を離した。

 「大丈夫ですよ、私1人じゃありませんから」

 そう言ってシャルロットは白のリングの集団へと入っていった。

 「何かあれば私が必ず守る。安心してくれ」

 「………わかった」

 無理について行っても良かったが、彼女なりに考えての行動なんだろう。汲んでやった方がいい。

 「それでは進むぞ」

 すっかり分裂した集団が動きす。俺も黒色の集団に付いて行った。

 

 

 

 黒色の集団はサンバルが先頭を進み、知った顔は誰もいなかった。強いていうなら先程の檻の少女くらいだ。

 「なあ嬢ちゃん、ムチを止めたのあんただろ?」

 行進する集団の中で一人の男に話しかけられた。中年で顔には薄く皺があり、何本か歯が抜けていた。

 「ありゃあスッキリしたぜ。皆爆発が怖くて何も言えなかった所に、サッとあんたが止めに入ってよ。いや〜、あんなカッコイイ女を見たのは嫁以来だったよ」

 「そうか、ありがとう」

 特に親しくする理由も見つからなかったので社交辞令程度の会話で済ませた。しかし、男は話すのをやめない。

 「でも嬢ちゃん、爆発は怖くなかったのかい? 変な行動をすればすぐにボカンとされちまうだろ?」

 「確かにそのリスクはあったけど、サンバルの近くなら奴自身にも被害が出る。それなら無闇に爆破できないだろ?」

 男は、はへ〜と顎をなでながら関心する。本当は爆発されても構わなかったのだがそういう事にしておいた。

 「それにしても、二つに別れたと思ったらサンバルの方になっちまうんだから運がねえよな〜。仲間とも別れちまうしよ」

 聞いてもいないのに男は話し続ける。きっとそういう性格なんだろう。突っ撥ねてやってもよかったが、こいつの場合ひどく落ち込みそうだ。

 「ワシはよ、昔は冒険者だったわけよ。でも引退してな。刺激のない暇な生活を何年かすごしとったんだ。でもそんな所にこの終焉訃告書(アメレット)の話が飛び込んだわけだ。こりゃあ堪らんとワシは昔の仲間を呼び出して参加したわけよ」

 男の自分語りは全く興味なかったが、昔の仲間と再び冒険出来るのはいいと思った。もしも、天国に行けたならまた5人で旅をするのもいいかもしれない。

 集団の動きが止まったのはその時だった。

 「お? また嬢ちゃんの出番かもな」

 そう何度もムチを打ちに来られても困る。指揮が下がっていくからな。しかし、今回はサンバルが止まったというわけではない。少数から徐々に止まっていったようだ。すると、小数の人々が独り言を呟いたり、叫んだりし始めた。

 「なぜみんな独り言を言い始めたんだ?」

 「なんだ嬢ちゃん、通信魔術機(コミュン)もしらねーのか?」

 魔術具(チャーム)と言い殆どの事は知らねーよ! と叫んでやりたくなったが我慢した。男が言うに通信魔術が施された物で、遠くの人と会話ができるらしかった。名前のまんまだな。

 「大変だ!」

 誰かが言った。

 「(あっち)の部隊が魔物に襲われてるって!」

 それを聞いて身震いした。恐ていたことが起きてしまったからだ。だから一緒にいようとしたんだ。離れていては守れるものも守れない。

 来た道を引き返し、シャルロットの元へと駆けつけようとする。仲間の元に行こうとするのは俺だけではなく、さっきの男を含め同じ行動をとった者も多かった。

 「待て! お前達どこへ行くつもりだ」

 この後に及んでサンバルが引き止めた。一応止まるものの、サンバルの言うことを聞くものはいないだろう。

 「そんなの決まってんだろ。助けに行くんだよ」

 「あっち側の事はその場にいる者で対処する。終焉訃告書(アメレット)が優先だ」

 「何言ってんだよあんた……。対処出来るかなんてわかんねーじゃねーか」

 先程の男が駆け出した。他の者も後に続こうとしたがその時、男の腕が爆発した。血と肉片が飛び散る。見ると、サンバルが球体を口元にかざしている。

 「言ったはずだぞ?」

 再びサンバルがその場を制した。助けに向かおうとしていた者達もその場に立ち尽くした。しかし、爆破された男は片腕を失いながらも芋虫のように地面を這い、進もうとしている。

 「哀れだな。もう戻ろうとするやつもいまい」

 サンバルは高笑いをし、再び進み始めようとしていた。

 「俺は戻る」

 「はぁ?」

 サンバルが顔を崩しを哀れみを込めて睨みつける。

 「どうやらもう一人いr―――」

 「やるなら早くやれよ。でも、そのせいで間に合わないような事があれば、俺はお前を殺すぞ」

 怒鳴りつけるわけでもなく、落ち着いたトーンで言ってのけた。サンバルは球体を口元に寄せているが何か言う気配はない。

 こうしてる間も無駄だと振り返り、来た道を全力で戻ろうとした。

 「嬢ちゃん!」

 声をかけたのは這いつくばるあの男だ。

 「嬢ちゃん、俺はもうダメだけどよ……。俺の仲間だけとは言わねえ……。嬢ちゃんなら全員を助けられる。だから、救ってやってくれ……」

 男は虫の息で言い終えると眠るように目を閉じた。まだ死んではいないだろう。回復魔術を使えば止血はできる。

 周りを見回すと、誰もが俺に何かを託した様な顔をしていた。皆サンバルの爆破が恐くて動けないのだ。

 俺は力一杯大地を蹴り、全力で駆け出した。待ってろよシャルロット。今向かうからな。

全体の話が出来てないのでなんとも言えませんが、終焉訃告書編はあと4話位で終わりですかね。もう、割と終盤になってます。

また明日も投稿できるよう頑張ります


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