9話 妹(予定)
前半はイデア目線、後半はダモンのものになります
探索隊はサンバルとメーティが先頭を切る形で一つに固まりながらゆっくりと進んでいる。俺とシャルロットは集団の中間辺りにいた。
「あの爆発どうやったんでしょう」
不意にシャルロットが呟く。顔色が悪くその事を不安に思っているのだろう。
「憶測だが、これが関係しているだろうな」
俺は腕を掲げシャルロットにリングを見せる。出発前に配られた物だ。
「メーティは発信機とか言ってたが、それにプラスして爆発魔術でも施してあるんだろう」
リング関係なしに爆破できる可能性もあったが、そんな複雑な魔術をタダの貴族であるサンバルが使えるとも思えなかった。しかし、魔術具や洞窟内に転送したあの装置の事を考えると全く否定できるわけでもない。どちらにせよ今迂闊な行動を取るのはやめた方が良さそうだ。俺はともかくシャルロットに危険が生じればローブに合わす顔がない。
「メーティさん、知っててリングを渡したんですかね……」
「いや、甲冑野郎の時あいつも驚いた感じだったからな。知らなかったんだろ」
シャルロットは顔を俯かせる。まだ不安は残るようだ。いつでも腕が飛ぶ可能性があるのだから当然だろう。
彼女から目を逸らし前を見る。人の壁は厚く先頭は見えないが、人と人の隙間から普段では、いや、洞窟内では特に見かけないような人工物が目に入った。それは宙に浮く檻。中には一人の少女が虚ろな目で座っている。
「あれ何でしょう?」
シャルロットも気づいたらしい。見つけてみると、今まで気づかなかったのが不思議な程目立っている。
「さぁな、サンバルの親族とかじゃないか?」
口ではそう言ってみたものの、その子どもはぼろ雑巾のような服をかぶっていて体中にある痣や傷が目立っていた。寧ろ貴族とは真逆の存在。
集団の動きが止まったのはその時だ。辺りがざわつく、魔物かと警戒する者もいたがそういう訳ではなさそうだった。
やっぱり運命はある。たまたますれ違ったクリーム色の髪をした少女が、今自分の目の前を歩いているのだ。これは偶然だろうか? いや、運命だ。
少女の隣には銀髪の方もいて、何か話している。詳しくは聞こえなかったが先程の爆発について話しているらしい。
あれには少々驚かされたが、サンバルの性格を考えれば珍しい事ではない。あいつはとにかく他人より優位な立場にたっていないと気が済まない。しかし、その割には自分に力が無いので、抵抗できないように人質をとるのだ。今回の場合は自分達自身が人質になっている訳だ。
銀髪の少女が腕を掲げ、リングを見せている。そう言えばここにいる全員が同じ物を腕に付けていた。……俺貰ってないじゃん。どうしよう?帰還するためには必要とか報酬と交換出来るみたいな役割だったら……。いや、あいつがそんな回りくどい事するとは思えない。きっと全員に配って奴にメリットがある物だ……。その時、先程の爆発を連想した。もしかして、あのリングに爆発魔術がかかってるのか? あくまでも可能性だがサンバルの性格を考慮しても大いに有りうる。という事は、唯一俺だけがあいつの支配下に無いのか!? これは良い! もしもこれをネタに脅してきたら、堂々と殴ってやろう。
少女達が話を終えてしばらくすると、集団の動きが止まった。前列にはサンバルと騎士の女がいたが何かあったのかもしれない。
「クソッ!! クソクソクソ!!! ふざけんな!!」
サンバルの声が足音と共にこちらに向かってくる。まさか俺がリングを付けていない事に気づいたのかと不安になったが、俺の少し前で奴は止まった。
少女達が人を掻き分けサンバルの方へと向かう。俺はその後を追った。もしかしたら妹(予定)にアプローチが出来るかもしれないからだ。
少女達が行き着いた場所ではみすぼらしい格好の少女が檻からちょうど出される所だった。サンバルは片手にムチを持っている。もう次の行動が予想できてしまう。
予想通りサンバルは少女に暴言を浴びせながらムチを叩きつけた。
「ふざけるなよ…、なんで! どこも! 行き止まりなんだよ!」
言葉を区切る度にムチを振るいが少女は声を漏らしもしない。
つまるところ、あの子はサンバルのストレス発散の為に連れてこられたのだろう。今はそんな事をしている時ではは無いというのに、そこまで考えが至らんのか。集団の指揮が下がっていくのを感じる。誰もが目を逸らし煩わしそうな顔をしている。みんな止めたいが抗えば爆破される危険を伴う。……俺を除いては。
これは絶好のチャンスではないか。サンバルを止めれば未来の妹に素晴らしいアピールが出来る。暴れる暴君を華麗に止める俺。間違いなく惚れる。
俺が動こうとしたその瞬間、ムチの音が消えた。見ると、銀髪の少女がムチをつかみ、サンバルを睨みつけている。
「もうよせよ、時間の無駄だ」
彼女の声は冷血で威圧感があり、鋭い双眼は左だけ赤く、鈍く光っていた。
サンバルはその威圧に押されながらも再びムチを動かそうとしたが、彼女の手から外すことが出来ない。このままでは彼女も爆破されるかもしれない。
前列の方からサンバルの騎士が駆け足でやって来て、この現状を見て目を丸くした。が、目的を思い出したようにサンバルの耳元で何か囁いた。
「通路が見つかっただと?」
サンバルはもう1度銀髪を睨んでからムチを離した。
「皆の者、通路が見つかったらしい。それも2つだ。これからの行動は二手に別れることになる」
奴は出来るだけ平然を装おうとしているのだろうが、この場を目撃していた全員が“女に力負けする奴”という印象を持ったことだろう。結局サンバルの格好が付いていたのは最初に爆破した時だけだった。
「まあいいさ、どうせあの奴隷はもうじき死ぬんだからな」
サンバルが俺の目の前を通る時にそう呟いた。致命傷になるほど痛めつけるのだろうか? それとも他の用途があるのか?
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イデアとシャルロットのメーティ家での出来事はそのうち書きます。早く洞窟内にいきたかったのでとばしました