8話 裏切り(想定内)
昨日は広く感じた闘技場も、人が集まると途端に狭く感じる。終焉訃告書探索ということで百人前後が集まっていた。
「メーティさんはどこにいるんですかね」
俺の横を歩くシャルロットが背伸びしながら辺りを見回す。それでも周りの身長よりは低く、遠くまで伺えない様だ。
メーティは準備が有るらしく俺達より先に家を出ていった。ここに付いたら探すように言われたが何処にいるのか検討もつかない状況だ。
「あ、やっと見つけたよ」
後方から声がして、振り返ると案の定メーティだった。昨日同様甲冑とイヤリングを付けている。
「渡しそびれていた物があってな。本来なら昨日渡されていたはずなんだが忘れていた。すまない」
メーティから渡されたのは黒色のリング。腕輪に見えるが、素材が柔らかく首に付けることも出来そうだ。
「それは発信機になっている。付けていれば互いの場所が分かるようになっているらしい。詳しい事は私もわからない」
最近はこんなものまで出来たのかと感心していると、シャルロットがリングを腕にはめた。
「うわっ! 腕のサイズに縮まりましたよ!?」
シャルロットの言ったとおりリングを腕に通すと、縮まっていきピッタリ合うサイズになった。
「付けた後に言うのも何だが、1度付けると探索中は外れないようになっているらしい」
メーティは苦笑いして、軽く謝罪した。とんだ呪いの装備じゃねーか!
「それじゃあ、そろそろ始まるはずだ。心の準備でもしててくれ」
そう言うと人混みを避けながらメーティは掛けていった。まだ準備があるのだろう。
俺達は入口の近くまで移動すると、腰を下ろした。始まるまでやる事も無かったので特に意図はない。
入口を見ているが人が入ってくることは無かった。もう、大体の人は集まったのだろう。
低い男の声が闘技場に響いたのはその時だ。ざわついていたその場も静まる。声の主は一際高い場所に立っており、その後にはメーティがいた。多分あの男がサンバルだろう。
「冒険者諸君よくぞ集まってくれた。終焉訃告書探索への協力感謝する。報酬はたんまりやるつもりだ。成果を上げた者には更に追加していこう。皆の検討を祈る」
簡易的に挨拶を済ませるとメーティが前に出た。
「今から洞窟に向かうわけだが、この場から転送魔術で内部まで行けるようになっている。皆のもの奥に進んでくれ」
洞窟までは歩いて行くのかと思っていたがどうやら違うらしい。人々はざわつきながらも言われた通り奥へと進んで行く。
そのタイミングで1人の男が足音を響かせながら駆け足で入ってきた。走ってここまで来たらしく肩で息をしていた。どこか見覚えのある奴だと思っていると、昨日酒場の入口ですれ違った男だった。その時よりも髪はボサボサになっていて、今さっきまで寝ていたのかもしれない。
「イデアちゃん、私達も行きましょう」
シャルロットに促され俺達も奥へと進んでいった。転送魔術とは中々大胆だ。俺の時代だと使える奴なんてほとんど居なかったものだ。しかも、こんな大人数を連れていくとなると相当な魔力も必要のはずだ。
奥の部屋の中央にはドーム型の機械が設置されていて、天井には星座が描かれていた。ほとんどの人が辺りを見回していて、珍しいと感じているのが俺だけではないことを悟った。
よく見るとサンバルも部屋の中にいた。てっきりワインでも飲みながらふんぞり返って待っているのかと思っていたが奴も来るらしい。
メーティが入口を見つめ、もう誰も入らないことを確認する。
「これで全員だな? では、行くぞ」
メーティは機械を片手でいじり、スイッチを拳で叩いた。すると、機械を中心に魔法陣が発生した。とても巨大で床全体にまで行き届く程だ。
強い光を感じ目を閉じた。次目を開けた時には洞窟の中。蒼白な岩が淡い光を放ち、幻想的な雰囲気が滲み出ている。こういう洞窟には生前何度か来たことがあったがここのは特にそう感じた。
「凄いですね! 一瞬で洞窟の中ですよ!」
シャルロットは驚きを隠せないようで、地面に転がる石を拾って騒いでいる。
「転送は成功したようだな」
サンバルの声が響き、エコーになっていく。
「それでは皆の者、一つに固まって奥まで進んで行く。規律を―――」
サンバルの声は高らかな笑い声でかき消された。不意を突かれたように全員が声の主を見た。かなり屈強な奴で、全身を甲冑で覆っていた。顔は見えないが男に違いない。
「テメェの命令なんて誰が聞くかよ!! ここまで来れたらもう用済みなんだ!」
どうやらあの甲冑野郎は洞窟に入るためだけに参加したらしい。そりゃそうだ、洞窟への出入りを禁じられ、探索に参加するしか入る手段がないのだからとりあえず参加して、洞窟に入ってから裏切る。誰でも思いつく手だ。俺だってある程度まで進んでからそうするつもりだった。
さて、サンバルの対応が気になる。どう対処するつもりだ?
当の慌てることなくサンバルはため息をつき、甲冑野郎を見据えていた。まるで、明日殺される家畜を見るような目だ。慈悲もなければ涙もない。彼は自身の懐を探り小さな球体を取り出した。
「ちょうどその事を説明しようと思っていたんだよ。“百聞は一見にしかず”という言葉もある。そういう面では君に感謝するよ」
サンバルは球体を口元に近づけ、何かを呟いた。次の瞬間、甲冑野郎の腕が爆発し、弾けた。肉片と血が岩に飛び散る。
「ガアアあああ!!?」
叫び声がこだまし、サンバルを除く全員が驚愕した。なるほど、そういう仕掛けか。
「今のように規律を乱す行為があれば彼のようになる。それでも構わないという者は存分に裏切ってくれたまへ」
辺りが静まり返った。今のデモンストレーションで抗おうとか考える奴は消えた事だろう。………俺を除いては。
読んでいただきありがとうございました。よろしければブックマークと感想等よろしくお願いします。
今回から洞窟内に入りました。それは置いといて、既に書き溜めた分は無くなりましたのでいつ更新が止まってもおかしくない状態です。そうなった時は察してください