第五話
問題に直面してます。
「剣、できるか?」
「やったことありません」
「...剣、持てるか?」
「...持ったことないんでわかりません」
兄上が鍛錬してるのを見たことしかない。それだけでできるようになるようなものなら、誰も苦労しないはずだ。
「まぁ、やってみないとわかんないんで」
「......そうだな。ほら、剣」
「ありがと... 重っ」
凄い重い。皆こんなの持って動いているのか。私は何とか支えられてるだけだ。
「........................無理そうだな」
「そうね.....」
「やめ...」
「絶対持てるようになってやる!!!!!」
決意したのだった。
☆
「お嬢〜!」
「何⁉︎」
「へ、あ、いや、これ使わないかなーと」
私をお嬢と呼んだのはキュリウス。
木刀を持っていたキュリウスが驚いたのは剣を使うために、躍起になっていた私。
「木刀、だよね?」
「はい!これなら剣より軽いし、使い方は剣と同じだし、どうしても剣を使うなら、これに慣れてから使えばいいかなーと」
「キュリウス、ありがとね!」
「おおおお嬢⁈」
キュリウスに満面の笑みでお礼を言って、ノアに報告するために走り出した。
キュリウスの顔が赤くなっていた……無理してたのかな?
☆
「いた!ノアーっ!」
「フィオネ?」
走って来て肩で息をしているフィオネ。胸に何かを抱えている。
「何持ってるんだ?」
「あ、これ、木刀!」
何があった。
「えっと、キュリウスに貰った!」
キュリウスといえば、さっき顔を赤くして突っ立っていた。
「フィオネ、キュリウスに何かしたか?」
「笑って、ありがとって言っただけだけど?流石に木刀で殴ったりしないよ⁉︎⁉︎」
どっちにしろ、原因はフィオネだ。フィオネは自分の容姿の美しさに気づいていない節がある。
無自覚だっただろうが、凄く綺麗に笑いかけたからキュリウスは赤くなったんだろう。
「キュリウス、何かあったの?」
身長差でフィオネは自然と上目遣いになる。
人によっては危ないと思う。無防備すぎる。
「いや、大丈夫だろう」
「ならいいけど」
「で、その木刀はどうするんだ?」
「剣が無理そうだったら、こっちを極めようかなって。持ち歩きできそうだし」
「持ち歩いてどうするんだ」
「日頃から周りを警戒できるし。時間が空いたら素振りできるし」
そこまで真剣に考えているのか。
「どうやって持ち運ぶんだ」
「確かに...」
「入れられる所なんてドレスの中ぐらいじゃないか」
「それ、いいわね!ノア、頭良いーー!」
フィオネがドレスで木刀振ったり、ドレスの中に木刀を入れる姿を思い浮かべる。
我慢の限界だった。
「ブハッッ」
「ええええ?」
「ハハハッ」
「きき急にどうしたの⁈」
腹が痛くなってきて、近くの壁に手をつく。
ヤバイ、ツボに入った。
「ハハハハ.........ん?」
フィオネの頰が少し赤くなっていた。
「熱があるのか?」
額と額を合わせて熱を測る。
「熱は...ないな」
そこで、フィオネの硬直が解けた。
「ひゃぁあ」
変な声を上げたフィオネに押し返された。
少し離れて見てみるとさっきより赤みが増していた。
「変な声出して、本当に大丈夫か?」
「だだだだだ大丈夫!!だ大丈夫だから!!!」
「動揺しすぎじゃないか?」
「ちょちょっと、木刀試してくる!!」
「おい⁈」
走り去っていった。
というか、逃げた?
動揺の原因もわからん。
☆
ノアって天然⁈自覚なしじゃない⁈
顔が赤くなっているのが分かっているので、ノアの前から逃げ出した。
あんな熱の測り方しなくても...!!!
間近で見たノアの顔を思い出してしまい、 引きかけた頰の熱さが戻ってくる。
笑ってるだけでもかなり威力あるのに!
最近私、少しおかしい。
ノアといるのが凄く嬉しい。
今までそんなに周りの人に執着がなかった。
愛想を振りまくのが嫌だった。
私の周りにいた人は、皆、嘘に慣れている人だった。
私を敬っているふりをしているだけ。
そんな人達といるくらいなら、一人が良かった。
そんな中、護衛をつけられた。
私の'王女'の地位しか見ていないだろうと思っていた。
だけど、ノアは違くて。
私が打ち明けたことも信じてくれて。
自分で弱いと思っていた私を弱くないと否定してくれて。
こんな私でも、見捨てないでくれて。
初めて親しくなってみたいと思った人だった。
うん。この気持ちは、きっと'感謝'だ。
ノアは初めて'私'を見てくれた人だと思う。
そう。私がノアといると嬉しいのは、弱さも認めてくれたからだ。
☆
フィオネに逃げられた後。
ノアは、先程の壁に寄りかかっていた。
逃げられた理由もよくわからない。
だけど、逃げられた事実に対して自分がモヤモヤした不可解な気持ちを抱いている理由がもっとわからなかった。
フィオネに信頼されているし、自分だってフィオネを信頼している。
とても嬉しい。
だが、その信頼が苦しくなる時があるのだ。
もっと、違う気持ちを欲しいと思っている自分がいることをノアは認めている。
でも、自分が望むフィオネとの関係がよくわからない。
今のままの距離感でいいと思ったり。
もっと近づきたいと思ったり。
一番最初に感じたのは、フィオネが抱きしめてくれた時。
自分を信じてくれたことが伝わり、抱きしめ返した。途中からフィオネは恥ずかしそうになっていた。
あの時いったことは本心だった。
フィオネは凄く強い。
王族としての責任を放棄しようとしている自分を分かっていた。
自分の弱さを分かっている人間は、強いと思う。
自分の気持ちを整理できていない。
だが、フィオネといるのは、楽しかった。
☆
お互いのことを考え合っていた。
吹雪の前夜は、月明かりに包まれていた。