第四話
はた、と気付いた。
魔法を教えてもらうのをお父様は許してくれるのか?とりあえず勝手にすると面倒なことになるのは目に見えている。
頼んでみるか。
お父様に初めてのお願いは凄くハードルが高い気がするが、やむを得ない状況だ。
☆
「お父様、入ってもよろしいですか?」
一瞬の沈黙の後応答があった。
「いいぞ」
「今回は少し頼み事がありましたので」
「...珍しいな。なんだ」
「自国について学ぶということで、月光隊に入らせて頂けませんか?」
これがきっと最善だ。
お父様は驚いている様子だったけど。当然か。一国の王女が国の軍隊に入りたいなど、常識ではありえない。
「何故だ?」
「自国について学ぶと申しましたが」
「それだけではないだろう」
本当のことを言うべきか悩んだ。だけどそれは一瞬。
「セルジオンに魔法を教えてもらうのです」
王女が自分より下の者に教えてもらうなんて普通はない。それに私は第一王位継承者だし。でも、私自体普通じゃないのだから、そこまでの問題ではないと思う。
凄く長く感じた。
「________________許す」
「...ありがとうございます」
「明日、皆を召集する。そなたもこい」
「わかりました」
「必ず、だぞ」
「?__はい」
次の日。
また、誰かを失くす夢を見た。
魔法が使えて、霊が見えるわけでもない。
喪失感は大きかった。
夢見が悪くてぼんやりしていた私に知らせが届く。
「殿下。陛下からの召集がかかっております」
「わかりました。すぐ参ります」
人が多い。霊も比例して多い。
そんな中、ジークは側にいる。そのことに少しほっとする。
「フィオネを自国について学ぶということで月光隊に入れる」
少し周りがざわつく。でも、今回ばかりは気にならなかった。私が望んだことだから、周りなんてどうでもよかった。
「はい。謹んでお受けします」
「セルジオン。頼んだぞ」
「御意に」
これで魔法についても知れる。肩書きに相応しく在れるようになるかもしれない。
「それに付け加え、氷の神殿に異変が起きていると聞く。その事態の解明も命じる」
はい?事態の解明?なにそれ美味しいの。
じゃなくて、うん。とりあえず美味しくない。って、そこじゃなくて、異変の原因を探れってこと?そんなこと微塵も聞いてないんですけど。きっとそれだけではないという嫌な予感がする......。こんなの当たらなければいいのに。
「明確にどのような異変が?」
パニックになって錯乱状態の私とは違ってノアは至って冷静だった。
「神殿の氷が溶けているらしい」
「神殿の氷がですか⁈」
これは私だ。周りも先程までとは違ったざわつきを得た。
神殿の氷が溶けているということは、錯乱状態の私に冷静な思考を取り戻させるほどの威力があった。
氷の神殿の氷は春夏秋冬年がら年中凍っている。なのにそれが溶けている?
とりあえず、この命令も受けないことには月光隊に入るのも無理だし...。
結論を出すのは早く済んだ。
「そちらの案件もお受けいたします」
☆
「...という経緯で王女殿下は月光隊に入ることとなった」
「よろしくお願いします!!」
シーーーーーーーーン
召集後すぐ、月光隊の隊舎で元気に自己紹介するも、皆さんからの反応ゼロな私。
はたから見ても落ち込んでいるであろうほどのショックを受けた私を見て、躊躇いながらも発したノアの言葉で訓練は始まった。
ジークは隣で爆笑。
「...............とりあえず、庭園50週」
筋肉モリモリの彼らと走る私は、はたから見たら物凄く謎の存在に見えることだろう。それが銀色の髪を持つ王位継承者なのだから尚更。
誰も仲良くしてくれないなら訓練に集中しよう。そうすれば寂しくなんかない...........はず!と訓練に集中していたところ。ジークも途中で消えるし!薄情者め。
「.......殿下、一体いつも何をしているのですか?」
一番乗りで50週を終え、少し休憩していた私に珍獣を見るような目でノアが聞いてくる。
「いつも??」
「殿下は女性なので主に勉学や礼儀作法をなされているはずですよね」
「普通に受けているけれど...」
「じゃあどうしたらそんな体力がつくんですか...」
「私の体力って普通じゃないんですか⁈」
「普通のふの字もかすってないと思います」
原因が思い浮かばない。原因が...……あ。
嫌、でも、あんなことだけで鍛えられるのかな?たまにだし。
「何か心当たりがあるんですね?」
あ、これは何も言わないとか、言い逃れしようとしてもダメな目だ。
「......閨房学の授業だけ逃げてました。...走って」
「......」
沈黙__!最近沈黙多いな。いや私がおかしいのはわかってるけど。
「だって、だって、閨房学、教科書、苦手でっ」
あの教科書を貴婦人皆読まされてるとか意味がわからない。世界の母親達はあれを修めていると思うと凄い尊敬する。
そうこうしているうち、月光隊の他の人達も帰って来た。
「殿下、凄いですねっ!」
「⁈」
「殿下っていったら貴族の中の貴族様だから訓練なんてしなさそうだし、俺達みたいなむさ苦しい男なんか嫌いそうだったから近づかないようにしてたんですけど..….!」
「ううん、仲良くして欲しい」
「ほんとですか⁈」
「ノア」
「はい」
ノアと呼んだ私に隊の皆が驚く。
「私、ここではあなたを隊長って呼ぶから。
普通のときはノアって呼ぶけど。うん。だから、話し方も普通でいいし、普通通りフィオネって呼んで!公式の場でなければ大丈夫だと思う。前も言ったけど、私は敬意を払われるような人間じゃないし」
「わかった。フィオネ」
「それから皆もね!」
「はいっ!」
「ここでは皆の方が先輩だし、喋り方も普通で!あと色々教えてください!!」
「あの〜」
「何??」
「姫さんって呼んでいいですか⁉︎」
「ん?」
「おい、ずりーぞお前!!!あの、お嬢って呼んでいいっすか!!!」
「え?」
という風にどんどん声をかけてきたため、
「どれでもいいわっ!!」
と、姫らしからぬ声を出した私なのでした。
結局もう好きな呼び方でいいということになった。面倒臭いし。
「フィオネ」
「何ですか?隊長」
「俺に敬語はいい。守る側なのに変な感じだ」
「わかった。ノアでいいんだよね?」
彼の言うことは一理あったし、軽く頷く。
「遠慮なく鍛えるからな」
「了解です...」
なんかもうさっきの話だけで疲れた。そう思うのは私だけ?