第二話
言ったら、怯えられるだろうか。他の人達みたいに陰で囁くのだろうか。怖いけど、今までの様な沈黙だけはごめんだ。
「居ます。私には視えるんです」
そう言って私の隣を示す。そこには私にだけ視える死神がいるのだ。
その質問を初めに、彼はどんどん聞いてきた。
「幽霊ってどの様な見え方をするんでしょうか?」
「彼は幽霊ではなく、れっきとした死神だと言っていました」
「彼……男なのですか?」
「人型です。生前の生物の形をしているそうです。......... 人型が多いので話しかけられたら答えてしまうのが悩みです」
本当に深い悩みだ。これが無ければこの体質を隠し通せていたかもしれないのに。
私の声が自嘲気味になったのに気付いたのか彼は少し苦笑いし、話を続けた。
「...名前とかあるんですか?」
「ジークです。」
「殿下はいつから視える様に?」
六歳のあの日から。
私は何をしたの?
思い出してはいけない。
思い出したくない。
頭がジンジンと痛い。視界が傾き、誰かに支えられた。ジーク?……は無理だと思うから護衛の彼か…と思ったところで意識は落ちた。
☆
「いつか絶対助けるからっ」
またあの夢。起きた後には薄れてしまうけど。あの夢だ。
周りを見回し、状況を把握した。
倒れる前のことも思い出した。
「私、気を失ったんだ……」
私が眠っていたのは自室のベッドだった。
彼が運んでくれたんだろう。
「起きたか?」
ジークも珍しいことに心配気だ。いつもは私の邪魔をしてくるくせに。そんな思いが顔に出たのだろう。
「俺だって心配くらいするぞ⁉︎」
くすくすと笑っていると、ドアが開く音。
彼だった。
「起きたんですか」
「ごめんなさい。心配かけて」
「.........アリスという人を知っていますか?」
「いえ...。どうかしたんですか?」
「お気になさらず」
そういえばどんな夢見てたっけ。ほら、もう薄れてしまった。
「まだ話せますか?」
「...覚えてないんです。」
「え?」
「あの日__視えるようになった………魔法が使えなくなった日のこと。その前の記憶もほとんど」
「そうなんですか...」
記憶がない、なんてますます気味悪がられる要素だ。嘘だと思われるかもしれない。心無い言葉がくることを予想して俯く。
「では、ジークはどんな容貌なんですか?」
私が予想したものとは全然違う言葉が彼の口から紡がれる。
「殿下?」
「……信じてくれるんですか?私の話」
「...まさか、嘘なんですか?」
事実だ。本当に本当のことだ。思い出せないのも。視えるのも。
「今まで誰もそんな風に言ってくれなかったから...」
「......日頃の行いでも悪かったんですか?」
「いいえ...」
そんなはずはない......と思いたい。でも、目が泳ぐのを隠しきれない。
「多分......」
心配になったので小さく付け加える。
すると、ククッと笑い声がしたので彼の顔を見た。
息が止まるかと思うって、きっとこういうことだ。凄く綺麗な笑顔で本当に呼吸を止めていたんじゃないかと思う。
そう思ったのもつかの間、私は抗議の声を上げる。
「笑わないでくださいっ! ぶ、無礼ですよっ!」
「すみません...」
謝っている割にしばらく私の顔を見るたびに笑い出しているものだから反省の色が全く伺えなかった。