魔法のある学生の日常 その1
「魔法の発動方法にはいくつか種類があり、呪文や予め用意した魔法陣や印を使って発動する「自動魔法」、杖や剣、指などで魔法陣や印を描いたり、地面や水などに呪文などを使って魔力を送って媒体にすることで発動する「手動魔法」、魔具を使用したり、対象物に直接魔力を送り対象物に魔法をかけて発動する「即効魔法」等が存在します。この辺りは現世でも生活に密着しており、ご家族や同居人などに幻世人がいなくとも理解できると思います」
とある中学校の教室でエスターテが魔法学の授業をしている。
魔法学はその名の通り魔法を学ぶ授業である。
基本的にヒトには魔力が存在しており、それは世界が繋がる前から現世人にも必ず存在しているものである。
魔力がないと誤解している場合は基本的に操り方がわからなかったりそもそも魔力を何らかの要因で封じられている場合が多く、空気中にもわずかには魔力が漂っている場合があるため魔法が使えないヒトというのは理論的にいえばいないと言い切れるほどだ。
「星力」を持っている戦士ならばだいたい無意識に使えており、魔力で肉体を強化したり、所謂「技」を使用するときにも魔力を使えているのである。
魔力とは世界が万人に与えた奇跡の力であり、世界の敵たる魔王や魔物でも平等に扱える物なのだ。
「地面や水などを魔力を送って媒体にすることで発動する「手動魔法」と対象物に直接魔力を送り対象物に魔法をかけて発動する「即効魔法」の違いをおさらいしまししょう。全員に目の前に濡らしたコップと簡単な魔法陣を用意しました。まずはそのコップに付いている水分を意識して「水集砲弾」を「手動魔法」で発動してみましょう。出来ないと感じたのなら詠唱や魔法陣を使っても構いません。ですが出来るだけコップについた水分と自身の魔力だけでやってみましょう。魔法は使い方を覚えればどんどん使えるようになります。発動に成功したら今度は維持に神経を集中させてみましょう」
机に置かれた濡れたコップに説明を受けた生徒たちはそれぞれ魔法を発動した。
説明を受けた生徒の一人であるアルフは難なく成功。集まった水分が水の塊となり自分の目の前に浮かんでいた。水塊を対象にぶつけてダメージを与える魔法が「水集砲弾」である。
とはいえ、仮にも父親が魔道士で母親が才能特化に秀でたエルフであるアルフにはここまでなら小学低学年の頃に父や周りに教わっている。課題はここからの魔力調整や維持する根気だ。
とはいえ、それなりに周りを見る余裕があった。
シモンは魔力調整がうまくいかないのか、集めた水分をすぐに破裂させてしまい何度もやり直しているようで顔や服が濡れている。
セイカは維持などには成功しているものの、いくつか集め損なっている水分を見てむっとした顔をしている。その水分を集めるために魔法のかけ方などを試行錯誤していた。
ユズは水分の集め方などは非常に上手いが、すぐに維持が切れてしまっている。
これらの現象は集中力がないとかではなく、魔力を使うときの癖によるものらしい。他人の魔力を使う感覚などよほど魔力に詳しくないとわかるわけないので断言はできないが。
アルフも幼いころに父に具体的に教わったから出来るのであってこの手の訓練をしないとなかなか身につかないらしい。
ただ、これらはいいほうで魔力が暴発してコップを破壊してしまっており、その度にコップ自身に掛かっている魔法で修復していたり、完成した「水集砲弾」があらぬ方向に飛んで行くのを発動が出来ない生徒を見て回っているエスターテが魔法で打ち消したりとやや混沌とした状況である。
かくいうアルフ自身も集中がいつの間にか切れていて、水塊がコップの中に戻っていた。
はっきり言ってしまえば攻撃系の魔法は発動さえできれば実戦には使えなくもないがやはり出来るようになったほうがいいのである。
もう一度、「水集砲弾」を発動しようと魔力を展開しようとしたアルフだったがそこでアラームが鳴った。
「よし、止め!次は「即効魔法」でコップの中にある水を使って「水集砲弾」を発動してみましょう。コップに溜まっていない人は今自動的に水が貯まるようになっているのでソレを使って私に向かって発動してみてください、ちなみに外そうとしても自動的に私の魔具が吸収します。」
今度はコップの中の水に直接魔力を込めて直接魔力の伴った水塊にする。
コップを発射台にして、中の水がエスターテに向かって飛んでいった。
アルフの「水集砲弾」はエスターテの着ているローブにヒットした。ローブ自体にそういう能力があるのかすぐさま乾いている。
他の生徒の「水集砲弾」はエスターテの持っている短杖型の魔具に引き寄せられ消滅するか、アルフの「水集砲弾」と同じ運命をたどるかのどちらかだったが、これはちゃんと正確に狙えるかというのが課題のため、アルフは成功している方である。
コレが出来ると、川などの水辺で水に触れただけで「水集砲弾」を打てるようになるのだ。
先ほどの「手動魔法」は砂漠などの水分や湿気が眼に見えなかったり肌で感じられない様な場所でも、僅かな水分を魔力で補強して水塊を作ることが出来る。ただしこれは飽くまで水塊を武器にできる魔法なので、そのまま飲水にしても魔力を飲み込んだような扱いにしかならない。
「自動魔法」ならそれこそ準備していればどこでも「水集砲弾」を発動できる。ただしこの方法はあらかじめ温存できる魔力とそれらに関する深い知識が必要とされ、魔法陣が壊れて単発にしかならなかったり、呪文によって唱えた言葉のイメージを利用して魔力を練り、さらに世界に問いかけをして発動するというプロセスのため、高い集中力と使用する魔法の知識が未熟であったりすると魔力の暴走を抑えるため世界によって発動を承認され無かったり、そもそも発動までに至らない可能性があったりするのだ。
アルフは短い詠唱であったり、父親などのアシストがあれば「自動魔法」を使うことができるが、攻撃魔法の類を「自動魔法」で使用することが出来ない。
生粋の幻世人でも「自動魔法」を習得するには勉強していても日本で言うと高校生くらいの年齢でやっと使えるようになるレベルである。これは知識の問題だけではなく、一度に使える魔力が年を重ねることで増えていくという性質によるものが大きく「星力」も関わってくる要素なので、一生「自動魔法」には辿り着かないヒトもいるのだ。
エスターテは今のアルフくらいの年齢の頃には「自動魔法」で攻撃呪文は軽く使えてはいたが安定はし始めたのは旅に出て「星力」が上がり始めた頃だったとのことなので、天才であろうとも険しい道程であるのは理解できただろう。