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勇者と魔王を決める試験のある日常 その8

「ふん、思ったよりスタミナがないんだな。相手チームを人で多く倒せば得点が増えるのでお前の相手をしていることを忘れてもらっては困るな。まぁ一瞬で潰せない俺も悪いが……早く潰れてほしいことには変わりはない。俺は戦闘狂ではないしね」

「僕はただの点稼ぎか……僕がこうやって足掻いていればセイカがお前の狙いになるまで時間稼ぎが出来るってことだよ。君にやられてセイカに迷惑は掛けたくはないしね。それに一応シモンとユズの仇でもあるし……こんなこと言ってたら今後キリが無くなりそうだけど」

「口は減らないということか、だがお前は魔力に安易に使える状況ではなさそうだな。観察していた時の戦闘スタイルから見てお前の燃費は相当悪い類のやつじゃないか。見た感じお前は真面目な奴の類らしいし、もっと優等生らしい戦闘スタイルにしたらどうだ」

「それは負けてから考えるよ……僕はまだ負けていない」


そうだ、ここで気持ちで負けてどうすると自分に言い聞かせたアルフ。

自分のスタイルを押し通せなければ、父や母とは違う弱者になってしまう。

そうだ、自分が魔力の消費が激しい戦闘スタイルを選んだのも弱さを乗り越えて強くなりたいからだと思い出す。

アルフは自分に言い聞かせるようにラーサーを威嚇するように叫んだ。


「父さんや母さんは戦いのことを諦めていたけど……でも弱いのかな?いや、父さんと母さんはお前の父を倒した英雄の一人だ!弱いなわけがない!息子の僕も弱くないんだ!だから僕は勇者リーダーの仲間になる!セイカを支える!シモンとともに強くなる!ユズと一緒に誰かを守る!もしかすると魔王になった君と協力したり、競いあったり出来る!!だから今ここで負けて、夢折れるわけには行かないんだ!」


それまでの疲れを忘れたかのように、剣を振るいラーサーに切り込むアルフ。

槍の突きを体を顔を捻って躱し、叩きつけるに剣でラーサーの体を切りつけた。

斬りつけられた傷はすぐに消える。これは「立体幻実ディメリュージョン」のシステムで攻撃による傷はすぐ治すようステージ全体に魔法で設定されており、ダメージだけが計算される仕組みになっている。

発生する痛みも実在するものではない。だが、ラーサーはまるで本当に斬りつけれた痛みを感じているのか苦痛に顔を歪ませている。アルフの思いがこもった攻撃がラーサーに何らかのダメージを与えたようだ。

アルフは身を翻し体を宙に浮かせ、左手の魔力を展開し魔法を放つ。

放たれた魔法は「神秘魔風ミスティックサイクロン」、魔力によって生み出した風の渦を直接相手にぶつける単純ながら強力な魔法。風の魔法を得意としているアルフの現在最高威力の魔法だ。

魔力と風を渦状にした塊をラーサーの正中線ど真ん中に撃ち込むアルフだが、ラーサーもやられぱなしではなかった。


「なるほど、お前の仲間に対する思いは本物だが……俺的にはお前なりに親に対する想いがある方が響くな……俺もだよ。俺は父さんや母さんがすごかった時を知らない、俺が生まれた頃にはもう世界に使える兵士みたいだった、軽蔑するわけじゃないがそれでも魔王の息子として生まれた以上、魔王として名を馳せる親を見たい!世界の敵である魔王であった頃を知らない!だから俺が強くなって少しでもその頃の片鱗を確かめてみたい!だから俺は魔王になる!」


槍を地面に突き刺すと、ラーサーは突き刺した槍の先端に魔力を込めた。

魔力は槍を通じて、ラーサーの足元に伝わり大地が隆起してラーサーを包む壁となる。

地面礎壁アースウォール」、土の壁を展開し、その後その壁を四方八方に飛ばして攻撃する攻防一体の魔法。

この魔法で「神秘魔風ミスティックサイクロン」を受け止める魔法勝負に出たのだ。

しのぎ切れれば、「地面礎壁アースウォール」がアルフに迫り、疲労した肉体に大ダメージを与えて退場させるであろう。

風と魔力の渦が土の壁を削りだす。しかし、ラーサーの与える魔力で土の壁はもっと重くなり、風を前に押し出そうする。

風は土を砂を巻きあげるから風は土に強い。しかし風に負けないほど重い土はもっと強い。それが幻世アトレイユにおける属性エレメンタルの方程式である。

この属性エレメンタルは生まれ、草原の人間、森のエルフ、山のホビットという種族の属性とは違った概念だ。

ゲームの世界とは異なり、属性エレメンタルの相性はじゃんけんにはならず、火は水に弱いが、火は水を蒸発させる。火は風によってさらに燃え上がるが、風が火を消すこともある。

相性は心、気持ちで決まるのが幻世アトレイユ属性エレメンタルなのだ。


「どうした、このままだとお前の負けだぞ?時間制限も近そうだ」

「もっと、もっと僕に魔力を!」


息を吸う様に周囲の魔力を吸収し、「神秘魔風ミスティックサイクロン」を長く維持し威力を高めようとするアルフ。だが、どれだけ吸収しても「星力レベル」の低いアルフでは限界がある。

片手で魔力を放つのも限界がある。かといって今剣を捨てても集中が途切れてしまい、結局押し負けてしまう。

正直、限界だ。いっそ諦めてそのまま倒されてもいい。だがアルフの滾る思いがそれを許さなかった。

どうすればいいと、自分の頭のなかに問いかける。

ピルク、フアラ、エスターテ、フワリ……頭の中にいる大人たちは答えを教えてくれない。

頭の中の質問をやめようとした時、記憶の奥から声が聞こえる気がした。


『追い詰められた時、力むのは当然だ。そのほうが力が出るって思ってしまう。でもそういう時に限ってあえて力抜いて見るとすごい力が出るんだ。ま、それが出来る奴は余程の達人か肝が図太い超人かただの馬鹿のどれかだな』


記憶の中の剣士は笑いながら、アルフにこんな話をしたような気がする。

相変わらず男か女かもわからない、若いのかそうじゃないかもわからない。でもこのアドバイスは確かにアルフにとっては真実だ。

自分はその三択ではどれに入るのだろうか。多分三番のただの馬鹿に入るだろう。

アルフは「神秘魔風ミスティックサイクロン」を撃つのを止めた結果、迫ってきた土の壁に潰された。

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