勇者と魔王を決める試験のある日常 その7
「コウモリの魔物というわけか、黒豹とは動物に詳しくなくても違う種類ってわかるね」
「こういった試験の時以外はこの翼は体内にに隠してある。普段からこんな格好をしているわけにもかないからな。「魔物之王」は人型と魔物型を使い分けられるというわけだ」
「コウモリの魔物……僕はコウモリというと超音波か吸血コウモリしか思いつかないけど、多分吸血は今関係ないだろうし、まさか、超音波とか?」
「そういうことだ、この辺りはこういった岩山のお陰でよく反響して広範囲に届く。まぁ俺は耳までコウモリにはなれていないから、自分で放った超音波を聞き取ることは出来ないがな。あと攻撃や話しかけたりすると超音波の効果がなくなってしまう……これらはまだ俺が未熟ゆえだ。俺がもっと強くなれば自由に空を飛んだりも出来るんだがな」
アルフは舌打ちをした、そうか感覚を狂わされていたのかと。
ふと思い出した、おそらくラーサーの元になった魔物のことは魔物図鑑で読んだことがある。
「コンフェザーバット」……洞窟などに住まい、超音波を岩壁などに反響させて獲物を狩るコウモリ型の魔物。
普通コウモリの超音波というのは獲物を探すために使い、物に超音波がぶつかった時にあたって帰ってくる音波を聞き取ってそれをレーダーの代わりにするという物であるが、この魔物の超音波はたとえ高音すぎて聞こえなくても耳を通じて脳を刺激し確実に方向感覚などを破壊し、自身の存在に気づかせないにしてから奇襲をするためのものらしい。
その感覚破壊能力は強力な個体ならば仲間をも破壊してしまうほどだと図鑑には書いてあった。
もしかすると、先程から自分が魔物発生装置にたどり着かないのは方向感覚を壊されているからなのか?と考えていたらそれを肯定する言葉が耳に入った。
「先ほどの連携を見て、俺はお前たちの連携は本物だと感じた、だからこうやって一人ずつ炙りだして倒すのが確実だとな。魔物召喚装置を破壊するっていう魂胆だったんだろうが、それがわかっていればそれとなく誘導しつつ、迷わせて孤立させて疲れさせるのは楽だったな。さっきの放送聞いただろ?ユズっていう支援魔道士も一人でこの辺に迷い込んで俺が倒してやった。さて、ここまでいえばなんで俺がここまで話したかわかるか?」
「ユズを倒した時点で、作戦は成功。勝ちは目前だから、あえて作戦を敵に知らせてその上で倒す。そうすれば評価が高まって合格しやすくなるからだろ?」
「そのとおりだ、支援魔道士は一度タネを見せていたせいか魔眼の槍で倒すので苦労してな、格闘士や支援魔道士を倒したアレをもう一度使うには時間が掛かるが、魔法で射程外から攻撃されたら使えないし、お前一人なら逆に使わないほうが楽かもしれないな!!」
ラーサーが放つ槍の突きでの一閃。アルフはその一閃を剣で受け止めるが、先ほどとは違う衝撃にわずかに怯む。
先ほど斬り合った時とは違う速さだ。アルフは先ほどの斬り合いはシモンをピンポイントで狙うための戦い方だったの実感させられる。
さらなる槍の怒涛の連続突きがアルフを襲う。なんとか剣で受け止めたり捌いているものの、あきらかに武術の腕はラーサーが上手だ。
ラーサーが槍を振り上げると、振り上げによって生じた衝撃にアルフの体は持ち上げられてしまいそのまま体を地面にたたきつけられてしまう。
魔法を放って対抗したいところだが、無闇に撃ったところで弾き返されてしまいそうなビジョンがアルフの脳裏に浮かぶ。
地面にたたきつけられた体を起こし、なんとか剣を構え直すが疲れた体では構えが定まらない。
襲い掛かってくる槍の猛攻を横転で回避するのが精一杯だ。回避したあとにある岩盤や地面が突きで崩されていった。