勇者と魔王を決める試験のある日常 その5
「悟士門さん、退場」
「謀られたな、シモン……セイカちゃん達全員共な」
「え?え、何が起きたんですの?」
アナウンスと同時に呟いたビケルに一人状況がわからないマミ。ある程度状況を掴んでいるピルクがマミに説明した。
「あのラーサーってやつが持ってた槍……あれは「魔眼の槍」っていうモンスターなんだよ」
「え?モンスター?でもあらかじめ配置していたのは四匹、グルハウンド二匹とフレッシュロック二匹で数が合わないですわ……あ、召喚装置」
マミは見ていなかったが、ラーサーは他の魔物を戦わせている間に召喚装置に向かって魔眼の槍を召喚してソレを武器に見せかけて行動していていたのだ。
つづけてフアラとジーナが説明に入る。
「マミちゃんはセイカちゃん達しか見てませんでしたからね、私はピルクと分担してラーサーくんの方も観察してたんでなんとなくわかったんですけどね」
「最初に召喚していた四匹は囮だったというわけですね」
「魔眼の槍は一見するとただの槍で普段は目を閉じているんだけど、特定の範囲に入ると単眼を開いて範囲にはいった敵を魔法で生み出した槍でぶっ刺してしまうんだよ。普段は城とかに飾っている鎧の置物に持たせて罠に使うんだけどねえ。ピルク君、フアラちゃんやアンタはみたことあるんだったね」
ジーナはビケルに話を振る。ビケルはラーサーの魔眼の槍の運用法に戸惑っていた。
「それはそうだが、俺もあんな武器にしている魔王なんて見たこと無いぞ、いや魔王自体ヴェイン以外は数えるくらいしか戦ったこと無いけどな」
「だけど、たしか「リビングアーマー(生きる鎧の魔物)」とかが偶に武器として所持していることもあるって本で読んだことあるわ。魔王が持つには脆すぎるが、魔王候補に持たせるにはちょうどいいってことかしら」
五人のもとにエスターテが歩いてきた。浮かない顔をしている。
浮かない顔に不安になったのかビケルがエスターテに詰め寄ってきた。
「エスターテ!シモンは大丈夫なのか?」
「大丈夫、後遺症の類は全くないし、魔法でぐっすり眠らせておいたわ。起こしといたら興奮して体内に残った魔力の発散ができなくなってしまいそうだし。今は医務室にいるはずだから心配なら見てくれば?」
「……いや俺の息子だ。あのくらいで何かあるはずもないだろう。わざわざ無事を知らせに来たのか?」
「そうね、それがこっちにきた二つの目的の一つね」
戦闘不能になる直前に転移魔法で退場させる仕組みなので先ほどの刺されるのは立体映像による演出だと説明し、無事を知らせた後エスターテは五人に会いに来た目的である謝罪をした。
「ごめんなさい、まさかあんな戦法を取ってくるなんて思わなくて四人に教えていなかったのは私の失態よ。知識としてはあり得ると思っていたはずなのに」
「いや、シモンがやられたのは本人のミスだろう。そのミスも攻めることは出来ないし、それにまだ敗北が確定したわけじゃないから」
「それはどうだろうな。必要なときにしか戦闘に出ないから、ピルクにはわかりづらいだろうが相当のピンチだ」
ピルクのフォローに少し賛同しつつも難しい顔をしているビケルの発言にピルクは疑問を感じる。
ビケルだけではなくエスターテも難しい顔をして答えた。ジーナもなんとなく状況が飲み込めているらしい。
「若いうちは連携を重んじるか軽く見るかってのは分かれやすいわよね、特に新米ってのは地力がとても低いから連携を意識したほうが明らかに強くなるケースが多い」
「そうだな、連携を軽く見ていると痛い目にあうってのはよくある話だな」
「それは逆説的に言うと連携が絶対視されやすくなる。私もあの子達に連携を叩き込んだわ。私自身、連携自体には色々思い出があるし……でも連携を絶対視するということは連携が崩されるとすごく脆いということ。連携を嫌う人はそういったデメリットを危惧しているわよね」
「そうか、シモン君は攻撃力、防御力を見込まれ盾となり攻撃役となりで行動してた。つまり自然に連携の軸になる」
説明を受け、ピルクとフアラは納得した。つまりセイカチームは今、連携の要を失っている。
アルフやセイカは切り込み役や、止め役はこなせるが盾役となるのは不安があるし、防御魔法が使える為、ユズは盾役はできるが、攻撃手段が乏しいため切り込み役や止め役は不得手というわけだ。
納得したフアラが話を続けた。
「連携攻撃に重要なの中継ぎ……出だしやフィニッシュも大事だが、中継ぎが存在しなければ連携攻撃にはならないものね」
「シモンは出だしもフィニッシュも中継ぎもこなせる機動力と攻撃力がある……連携の自由度を高める要員になっていたというわけだな。三人がかりで攻めればなんとなるレベルとはいえ役割がバレかねない以上対策も容易になっている」
「四体の魔物は誰が連携の要かを見る役割、そしてラーサーが魔眼の槍を得るための時間稼ぎを兼ねていた……そして見極めたら直接出向いて要を倒しつつチーム崩壊を目指す、相手には相当いい教師がいるみたいね」
「今、状況が動いたみたいですわ」
「では私は戻るわ」
途中からついていけなくなったマミはずっとステージを眺めており、状況が動いたことを報告した。
エスターテが観客席から立ち去り、五人は改めて見物することにする。この状況をどうにかするのは本人達しかいない。