勇者と魔王を決める試験のある日常 その4
敵を粗方倒し終えた四人は少し休憩を取る。シモンやアルフは少なからずダメージを受けたため、絶好調の状態で魔王候補に挑みたいからだ。
シモンに回復魔法をかけながらユズが疑問を口にした。
「にしてもこの流れで……ラーサーさんでしたっけ?魔王候補が怒涛の攻めで襲いかかってくると思ったんだけど」
「俺達の連携にビビって大勢を立て直したんじゃないか?とくにフレッシュロックあたりは相手の主力だと思うぜ」
「そうだね、この地形に隠して攻めるもよしさっきのように山道を転がって奇襲するもよし。地形的には相性が良い。おそらく時間が経てば量産してくるよね」
「とにかく、少し休んだら装置を破壊しつつ相手の陣地を目指す……」
「その必要はない。この俺、ラーサーが直接お前たちを倒すからだ。」
セイカが改めて地形図を確認していると、その言葉を遮る声が四人に語りかけてくる。
四人が一斉に声のした方向を振り向くと、そこには大きな槍を持ち、全身を包むマントを着た少年がいた。
獣のような髪質の毛髪、唇の奥から覗く鋭い犬歯、ギラギラと輝く真紅眼。
ヴェインを知るものなら、こいつは父親似だなと断言されるであろう魔王候補ラーサー、それが彼である。
さっきまで反応はなかったはず、と四人と思ったがすぐに試験開始前にエスターテが言っていたことを思い出す。
おそらく父親譲りの「隠す」能力でここまで検索魔法にも四人の感にも気取られずにここまで潜入していたのだろ。
チームを代表してセイカが言葉を返した。
「あなたがラーサーね、わざわざここまで来てくれるとは。さっきの魔物はあなたがここまで来るまでの囮かしら?」
「そうだとしてお前たちに教える義務はないだろう?まぁ、当たらずとも遠からずだが……とにかく拠点から出ろ。そのまま籠城する気か?」
「僕とシモンが出る、二人はここで待ってて」
四人は机と椅子にかなり低い囲いがある小さな拠点にいた。ここはあらかじめ決められた休憩所であり、ここにいるメンバーを攻撃すると攻撃した側が失格になるのだが、ここまで敵が迫っている時にここに居続けると減点となり逆に失格になってしまう。
ユズとセイカを拠点に残してアルフとシモンはラーサーに近づいていく。
「勇者の娘の方はまだ控えておくということか。まぁ妥当な判断だな。俺は父さんの仇を取るつもりはないし、お前たちも即王手なんて避けたいだろう」
「別に僕達だって父さんの宿敵と戦いたいために試験を受けているわけじゃないからね。お互い様だよ」
「そうだな、アルフ。俺達の友情の連携攻撃でこいつをボコボコにしてやろうぜ」
「出来るならな!」
いうが早く、激しい金属音が鳴り響いた。アルフとラーサーが互いに斬りつけ合い、結果互いの得物が火花を弾けさせ合う形となった。
アルフとラーサーが互いの得物をぶつけ合う。リーチの長さと得物を持つ腕の数を試みて槍を両手持ちにしているラーサーが優勢だが、ラーサーにしてみればアルフだけにかまってはいられない。
ラーサーが危惧したように、シモンが割りこむようにスライディングを放つ。まるであらかじめコンタクトを取っていたかのようにアルフが後方に下がったので何か来ると感じていたラーサーも遅れながらスライディングを回避した。
「「拘束竜巻」!!」
回避した隙を狙い、アルフが魔法を放った。「拘束竜巻」は相手の周囲を囲むように小型の風の渦を作り行動を制限する魔法。地面の細かい砂が巻き上がり、ラーサーに僅かな目眩ましとダメージを与える。
本来ならややテクニックが要る魔法であり、まだ未熟なアルフが使っても拘束時間は長くはない。だがアルフとシモンにとっては足止めができればソレでよかったのだ。
「くらえええええ!俺の必殺の拳!」
シモンが魔力と気合を込めて輝く拳をラーサー目掛けて放つ、クリーンヒットすれば魔王候補くらいなら一発KO、退場は逃れられない。魔力調整の練習をしてよかったと四人は感心しているところであった。
が、拳がラーサーに届く前にシモンから吐血する音と嗚咽を交えた声が漏れる。
「ぐは……ごふぇ……なんだよこれ……」
「アルフ、ユズ!逃げるわよ!!」
「逃さ……く、前がみえない……」
セイカが拠点から出て、地面目掛けて魔法弾を撃つと、着弾地点から大量の煙幕が吹き出す。その煙幕は先ほど風と砂による目潰しを受けたラーサーが周囲を確認できなくさせるには十分な量と濃さである。
拠点にいながら攻撃するの反則なので、わざわざ拠点から出て煙幕弾を放ったというわけだ。
とにかく煙幕に紛れてアルフ、セイカ、ユズは散る。
受験者、そして観客が煙幕が放たれる直前に見たのは四方八方から複数の槍に貫かれ、試験会場から消滅していき退場となったシモンの姿であった。




