勇者と魔王を決める試験のある日常 その3
「シミュレーションバトル、スタート!」
アルフ達のいるホールに機械音によるアナウンスが響く。
シモンが一番前、その後ろにアルフ、セイカが並び、二人の後方にユズという陣形を取り、相手の出方を待っている。
相手の陣地に向かうには見える岩山を直進にしろ、迂回にしろ避けて通れず待ち伏せによって奇襲される可能性があるため、先にこのステージの魔物召喚装置を破壊することにしたのだ。
あらかじめ渡されていたマップには魔物を召喚する装置は記されていないため、今ユズの魔法によって周囲の地形を検索して装置の在処を探っている。
「見つけました、今地形図に反映しますね」
「わかった、今準備するわ」
セイカが試験前に受け取った端末装置は魔法と連動でき、ユズの検索魔法の結果を取り込み地形図に反映させることが出来るのだ。
宙に映しだされた地形図に二つある召喚装置を表すマークが描かれる。
「じゃあ二手に別れましょう……シモンとユズ、私とアルフでそれぞれの装置を破壊して……」
「まって、なにか来ます!反応は二つ!遅れて二つ来ています!」
つづけて検索魔法を展開していたユズが何かの反応を感じた。
地形図には魔物を示すマークが4つ浮かび上がった。
「あっちから仕掛けてくるってわけか、こりゃ移動の手間が省けるぜ」
「あそこだ、グルハウンドらしき魔物が二体!」
アルフの指差す方向にある岩山の奥から二体の狼のような魔物が四人のいる陣地めがけて跳びかかってくる。
セイカはすばやく、端末を操作して内蔵されているライブラリで詳細を確認する。
「グルハウンドであっているわ……集団による連携攻撃が特徴の獣タイプね。練習用に訓練された雑魚とかとは戦ったことあるけど、魔王が使役するタイプは初めてね」
「多分、こいつらは前座だよね。他の反応が来る前に倒してしまおうよ」
「奴らに連携させてはならない、地に立つまでにどちらかを倒す……アルフの案でいいわね、いくわよ!」
ユズに端末を投げ渡したセイカの合図と同時にアルフとシモンがそれぞれ飛びかかってくるグルハウンドに対して迎撃を行った。
シモンはすばやく、宙にいるグルハウンドの真下にも潜り込みそのまま飛び上がりアッパーを放つ。
真下からの突き上げがクリーンヒットし、更に宙に突き飛ばされるグルハウンド。
体制を崩され、そのまま背中から着地しそうな姿で落下していくグルハウンドを貫く一閃。
セイカの魔銃から放たれた魔法弾がグルハウンドを貫いて消滅させた。
シモンが消滅までを確認してセイカに礼を言う。
「ナイス、セイカ!」
「グッジョブよ、シモン……アルフは!?」
「大丈夫、そろそろとどめを刺すみたいですよ」
ユズの言葉に合わせてシモンとセイカがもう一体のグルハウンドとアルフの方を向く。
アルフと退治しているグルハウンドは地に足をつけ、持ち前の機動力である程度アルフを翻弄しているようだが、その体にはいくつか切りつけられた痕が残っている。
そしてアルフの左手が魔力によってわずかに輝いており、魔法を放つ段階であることを現していた。
「切り裂け!「切裂風刃!」」
左手の魔力が形を変え、複数の風の刃となってグルハウンドに向かって飛来しその身を切り裂いていく。
そしてその身は消滅してグルハウンドの討伐に成功した意味するアナウンスが流れた。
ちなみに先ほどのアルフが叫んだのは詠唱ではなく、技名や魔法名を叫ぶと気持ち威力が高まる気がするためである。
「次の反応来ます、フレッシュロックです!」
端末を確認したユズが叫ぶと同時に先ほどグルハウンドが現れてのと同じ場所から岩が転がってくる。
それは自然現象と異なり明らかに意思を持って、四人に向かって来ていた。
シモンが我先に前に出るのを確認したユズが魔法を使用するために、杖で魔法陣を描き魔力を練リ始める。
「アルフ、セイカ下がれ!ユズ、頼む!」
「はい!「身包防壁!!」」
シモンに向けて転がっていく二つの岩、しかし今のシモンの体はユズにかけられた防御魔法によって硬化している。
さらにシモンは脇を締め、身をさらに固めることで防御を固めた。魔力の応用によってさらにその身の耐久が高まっていく。
そしてついに岩と相対する。二つの岩はシモンを挟みこむようにその身をぶつけるが、シモンは微動だにしない。
岩の動きがわずかに鈍くなった瞬間、シモンは両腕を広げ活を入れるように叫んだ!
「炸裂反撃、「カウンターバースト」!!うォォォォォォ!!」
「「防壁解放」!」
シモンの活によって放たれた衝撃に合わせるようにユズがシモンの身を包んでいた「身包防壁」が弾け、相乗して強力な衝撃波となり二つの岩をシモンから引き剥がし吹き飛ばしていく。
格闘士であるシモンが使える一定時間自分が受けたダメージを跳ね返して放つ技「カウンターバースト」と防御魔法によって生み出したバリアが受けたダメージをそのまま威力に変える魔法「防壁解放」に合わせ技により、強力な連携技が放たれたのだ。
弾き飛ばされた二つの岩はそれぞれ、岩山に激突してその正体を表す。
岩から足や腕が生えてきた、これが生きている岩の魔物、フレッシュロックである。
自身を吹き飛ばすほどの衝撃波と岩山にその身をぶつけても傷がないのその体はかなり頑丈といえるであろう。
「「「音速雷鳴」!!」」
しかしアルフの左腕とセイカの魔銃から放たれた雷弾を受けるとその身は弾け、消滅しフレッシュロック討伐のアナウンスが流れた。
魔力を込めた攻撃には特性があり、それは受けすぎると戦闘不能になるほどに身体に障害が発生することである。
ゲームなどで耐久の値に使われることが多いHPという数値が魔力を使った攻撃を受ける度に確実に減っていることを想像するとわかりやすいかもしれない。
鍛えたり、装備を整えることで攻撃によるダメージでをかなり抑えることができるがそれでも体内に混入した他人の魔力がいずれ感覚を狂わせ、吐き気や手足のしびれとなって襲いかかってくるのである。
異変を感じたら、戦線離脱して体内の魔力を発散させたり、体内の魔力をリセットする魔法やポーションを服用しなければ下手をすれば死に至るという構造なのだ。
こういった試験ではそうなる前に自動的に転移魔法による退場が実行される。魔物や魔王候補も例外ではなく、先程から消滅しているようにみえるが敗北確定の攻撃を受けた時の視覚演出であり、実際は控室などに転送されているのである。
魔物といえど生き物、しかも魔王管理下で必要以上に攻撃行動を行わないようにしつけられている以上、殺していい理由など無い。「倒した」と認識されるだけでヒトには経験が積まれるのだからなおさらである。