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勇者と魔王を決める試験がある日常 その1

盛永もりなが星架セイカさん、日新ひよしアルフさん、さとり士門シモンさん、広員ひろい癒子ユズさん、三番ホールにどうぞ」


とある街にある体育会館。ここでチーム試験が行われている。

アナウンスが流れ、名前を呼ばれた四人は控室から移動を開始した。

四人はそれぞれ軽く武装をしており、軽鎧を着ているアルフとシモンから出る金属が擦れる音が廊下で反響している。

セイカはラバースーツに防弾チョッキの様な軽い装甲をつけたもの、ユズは白いローブを着ていた。

表情は様々だが、四人ともかなり緊張しているのは確かである。

全員、緊張を少しでも解そうと言葉を探っていたようだが言葉が見つからない。

互いに言葉をかけられないうちに目的のホールにたどり着いてしまった。


「うぉ、コレが試験で使うセットか。間近で見ると確かに本物みたいだ」

「さすがにこんな地形はゲームとかでしかみたことないけどね、でもこの砂の感触とか本物だ」

「ドラマとかでもよく使われていますよね、撮影スタジオとかでは見たことありますけどこうして間近で見て触ったのは初めてです」


ホールについて開口一番だったのはシモンであった。

彼が驚いたセットとはまるで本物の岩山を表している様なフィールドがホール全体に用意されていた物だった。

これは魔法で岩や土が再現されているだけであり、本物の岩山ではない。しかし触感・硬度・性質は本物に限りなく近く、実戦を想定されており天井も砂煙のような物で覆われていて、ここが体育館だということを忘れさせる。

現世バスチアンで長年研究されてきた立体映像技術で幻世アトレイユの魔法技術を再現し補完することで臨機応変に様々な地形や風景を実体化出来る世界の交流が生んだ技術の一つで「立体幻実ディメリュージョン」と名付けられており、ユズの語るようにテレビドラマやスポーツなどの演習にも使われている。

最後に入ってきたユズが扉を閉めると、扉は背後の岩山に紛れるように色が同化していった。


「全員揃ったわね。では武器を持つ利き腕を前に出して」


そして四人の目の前にエスターテが現れる。本人では無く立体映像だが。この立体映像も「立体幻実ディメリュージョン」によるものでエスターテが別のところで発声して、こうして四人に語りかけているのだ。

立体映像のエスターテの言うとおりにシモン以外はは利き腕、シモンは両でを差し出すと同時に四人の目の前に武器が出現する。アルフは片刃の剣、シモンは掌に装備するプロテクター、セイカは自動拳銃に似た形式の銃、ユズは両手でスタッフタイプの杖を受け取った。

試験ではそれぞれ武器の持ち込みは禁止されている。そのためこういった武器はあらかじめ登録した種類のものを貸し出される仕組みになっている。

防具も鎧やプロテクターの類はレンタル制となっている。

全員が武器を受け取ると立体映像が話しだした。


「では、試験を開始します。今回の相手は魔王候補ラーサーさん率いる魔軍チーム。セイカ、試験前に渡した装置で地形図を開いてみて」


セイカが言われた通りあらかじめ渡されていた端末装置を起動して地形図の映像を宙に映しだすと、さらなる説明を受けた。

互いのチームには陣地が用意されており、アルフ達の陣地からすぐ見える一際大きい岩山の向こうが魔王候補ラーサーの陣地となっている。

魔軍チームは魔王とそれより低級の魔王とその配下の魔物で構成されているが、今回は魔王候補。つまり魔王ではないため、それより低級の魔王というのは存在しない。

つまり魔物だけが魔王候補の配下である。魔王候補側はあらかじめ勇者組ブレイブチームの人数分だけ魔物をフィールドに召喚する。今回はアルフ達は四人なので四体の魔物が召喚されている。

その後フィールドに用意された魔物召喚装置をつかって定期的、または近づくことで突発的に魔物を召喚する。今回はフィールドに二つセットされている。

勇者リーダー候補側は魔物や召喚装置を倒したり破壊したりして攻略していき、最終的に魔王候補を倒して退場させれば勝利となる。

魔王候補側は相手チームを全滅させるか、勇者リーダー候補を倒して退場させることで勝利となる。アルフ達の場合はセイカが倒されたら負けである。

また時間制限もあり、時間制限が来た場合は引き分けとなる。

これは試験なので勝敗も大事だが経過も重視されており、引き分けでも十分な戦略が取られていれば合格できるのだ。

一通り、試験内容の説明を終えてあと一言と付け加えて更に言葉を続けた。


「あと、一応対戦相手のプロフィールもある程度なら伝えられるんだけど……どうする?」

「いいんですか?確かに場合によっては士気を上げられそうな気がするんですか」

「ええ、そういった目的で伝えるかどうかは監督と勇者リーダー候補が相談して決められるんだけど……どうするセイカ?戦法とかは伝えれないけどね」

「お願いします。いいよね?みんな」


セイカは他の三人に意見を求め、三人とも了承した。


「わかったわ。じゃあ、今回の相手ラーサーは私達、クリフチームがかつて戦っていた魔王ヴェインの息子らしいわ」

「ん、それってかつての宿敵の子供同士が戦うっていう展開ということですね?そうなると私が場違いですけど……」

「大丈夫、私のお母さんだって現世人バスチアンだし、アルフに至っては両親とも戦闘要員じゃなかったし」

「さりげなく僕を巻き込まないでよ」

「ありがとうございます、セイカちゃん」


ユズはやや興奮しながらも、疎外感を感じている成果落ち込んだ声だったがセイカが慰めた。

微妙に慰めになっていないどころかアルフが巻き込まれている気がするが、ユズは少し落ち着いたようだ。


「そうね、相手もソレを承知しているみたい。能力はわからないけど、ヴェインは魔法陣とかの魔力を消すことが出来たわ。多分ソレに近い能力があるかも知れないわ。気をつけて戦ってね」

「わかりました。先生有り難うございます」

「いいえ、かまわないわ。本当はピルク達がこの情報を提供するべきなんだけどね」

「え?父さん達は知ってたんですか?」

「ええ、この間ヴェインに釣れられて出かけた時に聞いたらしいけどすっかり忘れてたみたいね。まぁ覚えてても黙っていたでしょうけどね。ヴェインも今日まで息子には黙ってたみたいだし」


極力、試験のことには口を出さなかった両親ならありえるなとアルフは思った。

知ったところで詳細がわからなければ意味が無いので良い判断でもある。


「では、私はここまで。あとはあなた達次第よ、頑張ってね」


エスターテの立体映像はここで消える。

試験開始まであと十分。四人の士気はしっかり高まっていた。

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