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魔法のある学生の日常 その6

アルフが校舎から出た頃にはすっかり日が落ちていた。

皆帰っているだろうなとか思っているとセイカだけが校門で待っていた。

少し虫に刺されたのか頬を掻いている。


「ユズとシモンは?」

「先に帰ったわ、シモンとユズは同じ方向だし。私とアルフは同じ方向。だから私が残った」

「待ってなくてもいいのに」

「私の自由でしょ?それに私のせいで落ち込んでたみたいだし」

「別にセイカのせいじゃないよ。僕が未熟なのが悪い」

「未熟なのは皆、だからアルフのせいじゃない……そろそろ生活指導が来るわ、行きましょう」


下校中、アルフとセイカは特に会話をかわさなかった。

セイカだって別に慰めたいわけではないし、アルフだって慰められたいわけではない。

ただ、信じてくれているというという証であった。

過度に突き放せば、落ち込むし慣れ合いすぎても意味が無い。彼らにはなんとなくわかっていたのだ。

アルフは実感する、さっきエスターテに窘められたのは自分が自分を信じられなくなっていたからだと。

途中、両親から携帯メールが来て買い物を頼まれスーパーに立ち寄った以外、特に何も起きない。

そして互いの家に帰るための分かれ道に着いた時にセイカが言葉を発した。

それは「また明日」などという別れの挨拶の類ではなかった。


「そういえばなんでアルフって剣にこだわるの?」

「ん、そんなにこだわっているかな?」

「だって、一応フワリさんに拳術習っているはずなのにわざわざ少し習っただけの剣術使っている」

「それはシモンと被るから……それにこれは違うなってのは昔から感じてたし」

「それでも他に候補ってあるはず、別にシモンみたいにフワリさんの剣術に憧れているってわけでもなさそうだし」


アルフが目指しているのは武術と魔術の両立であって、本人的には剣にはこだわっていない。

強いて言えば片手で扱え、取り回しが楽で、いざとなれば両手で扱える武器だ。

これは両手で使うような重い武器ではまず戦術が成り立たず、いざという時素早く収めれられれば両手で魔法を使えたり逆に両手で武器をふるうことで大ダメージを狙えるはず武器がちょうどいいからだ。

その上で候補はいくらかある。その中で剣を選んでいることにセイカは疑問を抱いたのだ。

例えば、短剣や杖、これらは軽装を良しとする魔法の使い手でもよく使うものである。当然攻撃の重さは劣るもの鍛えれば他の武器にも劣らぬ威力を発揮し、構造上軽いため無理なく魔法とも連携できる。

シモンのように片手のみに盾を装備してもいい。盾を使った武術もきちんと存在しており、尚且つ魔法との相性は悪くはないため、守りながら魔力を展開することだって出来る。

他にも色々あるはずだが、今のアルフは剣を選択している。過去には木刀や棍棒などといった所謂「棒系」という武器も自身で候補に上げていたはずだがいつの間にか剣ばかりを使用していた。

別に悪くはない選択であるが何かと剣と魔法を両立するものは器用貧乏というイメージが強くなってしまうのは世の常で逆にそれらを同時に扱えるものもまたよく讃えられている。


「ん……そう言われるとそうだな。たしかに今は剣に憧れているな」

「カッコイイから?ゲームのやり過ぎ……」

「ゲームは二時間って決めているよ!今は父さんが没収してくれているし……そういうじゃなくて父さん達の知り合いにすごい剣の使い手がいたような気がしてさ……ここ最近剣を使っていたらそれを思い出したんだ。」

「お父さんたちのチームの人……たしかにミルトお爺ちゃんは剣を使っていたけどアルフが想像するような剣士じゃないはず……」


クリフ達のかつての仲間ミルトは守護士ガーディアンという守りに秀でた職業であり確かに剣使いではあったのだが、どちらかといえば盾役として敵の攻撃を捌き、隙や活路を作るというものでアルフのような攻撃的なスタイルとは異なる。

ただ、かつて見た剣技は地味ながらも華麗という矛盾を孕む堅実な動きで確かに見入ったことはある。

しかしアルフにはそれとは違う何かを見た気がするのは確かだ。


『お前、フアラの息子か……その髪を見ればわかる。父親はわからんがまぁピルクだろうな。大穴はミルトだが、あの爺さんにそんな元気ないだろ。いや、残りの二人が嫁を裏切って作った可能性も……ククク』


思い出せるセリフが割と最悪な物だったがそれでも剣技の鮮やかさは覚えている。剣士が男か女かも出会った場所も出会った時期も覚えていないがとにかくその剣技の記憶は脳裏に焼き付いている。

まるで魔物が引き寄せられるかのように連続で切り捨てられていく剣速と斬り筋はとにかく思い出に残る。

そして思い出せるセリフから明らかにクリフチームの関係者であり、よく母によく似ていると言われている癖っ毛のあるブロンドを見て母を言い当てたこと、次に父を言い当てた事。少なくとも両親を知っていてその子供だと断言できるという人物なのは確かだ。

整っている方だが特徴が少ないと言われるくらい中の上くらいの顔を見ても、親しい仲でもなければ父親は当てられない。

何より、息子が言うのは虚しいが交友関係が広いとはいえない父と母が結婚できるくらいに親しい間柄であることを知っている人物などクリフチームの一員であるとしか思えないのである。


「でも……お父さんは知らないって言ってた」

「まぁね、僕もだよ。母さん父さんも何も言わないし」

「そもそも私やシモンはそんな剣士なんて見た覚えないし……でもアルフが嘘付いているようには思えない」


タブーなのか本当に知らないのか、クリフチームの面々はその剣士のことを語らない。

そういえばあの時の剣士も自分のことは忘れたほうがいいと言っていたような気がする。

ではかつて戦った魔王なんだろうか?ありえなくはないが、だとしても記憶の中にあるセリフから感じる親しさからそれはない。

時折父や母、クリフチームの面々が語る思い出話から感じる絆が剣士の言葉からも伝わるのだ。

剣技と僅かなセリフしか覚えていないしアレは夢だったのだろうか?それとも既に袂を分かっていて、皆触れないようにしているのか?

ただ、夢ではないだろう。思い出話にはたまにクリフでもビケルでもミルトでもフワリでもエスターテでもピルクでもフアラでもない「誰か」が登場しているのだ。むしろいること前提で話されていると思われる話もある。

とにかく、その記憶が嘘ではない、夢ではないことを証明したいからあの剣技をつかもうと剣を振るっているのかもしれないと今思いつく。


「もしかするといつか話してくれるのかもしれないけどね」

「もしかすると私やシモンにも会いに来てくれるかもね」


残っている記憶のセリフからはなにかセクハラ発言でもしてきそうで正直合わせたくない感じだったがだったが、黙っておくことにした。


「それじゃあ、また明日」


セイカと別れたアルフは両親の待つ家に向かう。頼まれた物はキャベツだからトンカツだろうか?

生姜焼きかもしれない。買うの忘れたとか言ってたからメインではないだろう。

今日の夕食を楽しみにしながら帰路についた。

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