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9/12

ー長 月ー

 敬老の日。

 介護施設では一大イベント。その日は、ヘルパーも食事を作るキッチンのスタッフも、事務関係の職員も、送迎担当者まで大忙し。

 毎年趣向を凝らした催しがある。

 今年はアマチュア劇団のボランティア講演が決まっていた。


 アマチュア劇団って聞いていたから軽く考えていたけど、事前打合せとか会場の下見とかの連絡や訪問が続いて、私達どころかお年寄りたちの関心も高まっていた。

 合間には弾き語りを入れます、なんて話まで聞こえてきてかなり本格的。力入ってる~。

 スタッフもお年寄りたちも、その日が近づくにつれて劇の話で大盛り上がり。



当日。

 一台のワゴン車が食堂前のテラスに横づけされて、反対の壁ぎわに譜面台と椅子が置かれた。

 ステージと楽屋代わりのワゴン車の間を劇団の人が移動する時、弾き語りの方に注意を逸らしますってビックリ‼

 後ろにはスタンド型の大きな照明も設置されて、これでアマチュア?


 カーテンが引かれて薄暗くなった食堂に、スポットライトを浴びた男の人が浮かび上がる。

 ギターの音が響き渡って、思わず私は介助していた相田さんの手を握っていた。

「わぁ~」

 やだ、声まで出ちゃった。

 引き込まれそうな曲と歌声が響く中、お芝居が始まった。

 場面が変わる度に弾き語りにライトが当たり、私はお芝居よりギターの弾き手に目を奪われていた。


 大喝采でお芝居が終わり、皆ゾロゾロと玄関に向って歩いて行く。

 休日の今日は殆どの人が家族の送迎で来ているので、バスを利用する人は少ない。

「おばあちゃん」

 私が手を引いていた相田さんが、娘さんに気付いて手招きをした。

「お母さん、ホラ、この人がむつみちゃん」

 私に頭を下げた娘さんが‘あらっ’と嬉しそうな声を挙げ、相田さんが私を見た。

「弾き語り、どうだった?」

「素敵でしたよね~。見惚れちゃいました、私」

「そうでしょう?自慢の孫なの。あら、噂をすれば…」

 相田さんに向って歩いて来るのは、あの弾き語りの人⁉

「やすゆき、むつみちゃんがね、とっても素敵だったって褒めて下さったのよ。あなた、お礼にお食事でもお誘いして…」

 その人は少し照れた様子で‘ども、相田やすゆきです。ばあちゃんがお世話になってます’と右手をだした。

「あ、いえ、あの、志賀むつみです」

「お袋、そーゆーコトで、夕飯要らない」

「えっ⁉あ、あの…」

 相田さんはニコニコ顔で娘さんに手を引かれて帰って行った。




 ファミレスの入り口で木根さん家族とバッタリ会った。

「あ…」「あ…」

 お互いに声を挙げて一歩下がる。

 バツが悪い。隣にいる人が噂の彼女…。

「彼氏?」

「えっ?あ…、あの」

 言葉に詰まる。

 木根さんは、俯いて一歩下がった彼女の肩に手を回して‘うちのやつと娘’と言った。

 施設内の噂は多分木根さんの耳にも入っているだろうに…。

 それでも堂々としている木根さんって、やっぱり潔いと思う。

 そう言う所にやっぱり魅かれる。


「あの!あの、うちは人ヒトの家族なんです!」

 真剣な顔で大声を挙げた女の子。

 大人二人を庇う様に一歩前に出て私達を見上げている。

「人ヒトでも、私のお父さんとお母さんです‼」

 木根さんは娘の頭を撫で、彼女は微笑んで娘を見ていた。

「それじゃ、明日も頑張って働こう!お疲れ‼」

 木根さんはそう言って店を出て行った。



「人ヒトの家族か~」

 やすゆきさんがポツリと言って、車に向かう三人を見ていた。

「人ヒトの家族って…」

「男と女じゃなくて、人と人で出来てる家族って事なんじゃないのかな?彼女、〇〇スーパーで働いている人だよね?俺、時々行くけどさ」

 やすゆきさんは、水の入ったコップをもてあそびながら続けた。

「以前は化粧も濃くて、力一杯、女してますって感じだったたけど、最近何か変わったなぁって思ってたんだ。あ、別に好奇の目で見てたって訳じゃないよ。女ってコト意識し過ぎて逆に目立ってたっていうかさ。今はフツ~に女でしょ。それが彼からの影響なら、すごいよね」

 それはきっと木根さんの力。そして娘さんの力。

 目頭が熱くなる。

 外の駐車場に目をやる。車が次々と入って来て人が入って来る。もちろん、家族連れも…。

「むっちゃんが失恋した相手って、あの人だろ?泣いちゃっていいよ。そう言う人なら…。やっぱ、悲しいよね」

 私の目からポロっと涙がこぼれた。

「あっ、でもでも、泣き過ぎはNGだからね!あの、その、俺女の子の涙って慣れてないって言うか、その初めてで…」

 慌てているやすゆきさんに微笑んで言う。

「人ヒトっていいね…」

 やすゆきさんが頷く。

「俺達も人ヒトでいきますか…」

 男でも女でも人ヒトでも、私たちは出逢ったばかり…。


 


 10月の主人公は「あさみと敏夫」です

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