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-皐 月-

 男の子を出産したあおいは同室の加奈子の不思議な行動に疑問を抱く。

 良夫とあおいの希望通り、端午の節句に男の子が産まれた。

 良夫は毎日病院に来て「サーフィンを教えるんだ」と興奮して話していた。

 あおいは野球少年にしたいと言い、入るリトルリーグまで決めたのと笑った。

 二人の会話を、加奈子は笑って聞いていた。


「ミルクの時間ですよ」

 回診を兼ねた看護師が哺乳びんを持って来た。

 隣の女性はあおいの二日後に女の子を出産していて、その赤ちゃんは母乳だけで満足しているようだったが、あおいの赤ちゃんは母乳だけでは足りないらしくミルクを欲しがる時間が短かった。

「男の子って、ミルクの飲みっぷりが違うらしいわよ」

 出産は二度めだと言う加奈子は、そう言いながら慣れた手つきで娘に母乳を与えていた。

 さつきちゃんと娘に話しかける加奈子にあおいは言った。

「名前、決まったんですか?」

「5月に生まれたら‘さつき’って決めてたの。予定はもう少し早かったんだけど…。おたくは?」

「今、夫が命名辞典と首っ引きなんです」

 

 女の子が欲しかったのと加奈子は笑った。

 加奈子の夫をあおいは見ていない。二度めだと病室に来たりなどしないものなのだろうか?いや、兄は子供が産まれた三回とも、毎日大騒ぎして病院に行っていた。私や両親まで巻き込んで、恥ずかしい位はしゃいで…。

 加奈子は電話をかけている様子もない。実家に預けたと言う上の娘の話はするが、夫の話は聞いた事がない。

 訳アリ、なのかな?あおいの頭の中は色んな考えが廻っていた。


次の日、あおいが病室に戻ると加奈子が何やら書き込んでいた。

 あおいを見て腕で隠すような仕草をした加奈子に、あおいは気付かないフリでベッドに横になり背を向けた。

 緑のラインが入った紙。緑のラインのあの紙は…離婚届。

 何?何、あれ!

 訳が分からないまま、あおいの頭の中で緑のラインがグルグルと回った。書き込んでいた加奈子の嬉しそうな顔があおいに恐怖を誘っていた。


 出産から一週間後、あおいは迎えに来た良夫の助手席で息子を抱いていた。

 同室だった加奈子に、ひと月後の健診で会いましょうねと話した事を思い出していた。

「加奈子さんね、離婚届を書いていたの。変…よね」

「離婚届⁉見間違いじゃないのか?」

「え~?だって緑…」

 結局、加奈子の口から夫の話は出て来なかった。

「一度も来なかったし、電話もなかったみたいだし」

「来れない事情があったんだろ」

「来れない事情?」

「例えば、単身赴任中とか…、単身赴任とか…単身赴任」

 あおいは大きく吹き出して、腕の中の息子を見た。

「変なパパですね~」

 良夫はそんなあおいを見た。

 今日から俺は親父になる。クスクスと笑いながら息子に話しかけているあおいを見ながら、家族が出来た事を改めて感じていた。


 


 六月は加奈子の離理由が判明します。

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